4話 注目が凄い。
「ーーこれらの事を胸に刻み、この国の第一線で活躍できる様な魔法使いになる事を、新入生一同、ここに誓います」
スピーチが終わった。万雷の拍手に包まれる。
王国立魔法学院に主席入学したクラムは、当然の様に入学式の答辞を要求された。王族貴族でもないただの平民が、それこそ伯爵様や公爵様の目上に立って話すのである。辞退したい気持ちを懸命に堪えて、喋り切った5分間だった。
席に戻ると、「凄いスピーチでしたね」やら、「格好良かったですわ」等と甘いセリフがクラムに飛んでくる。『お世辞の十字砲火』とはまさにこの事だ。いや、彼女らは本心で言っているのかもしれないが。
(バールでも連れて来れば女子を散らせただろうに…何ともやりづらい)
…と、彼は心の中で呟いた。生憎ながら、バールは村の衛兵になる為の武者修行として、隣国のエレスハイム帝国の傭兵都市『ヴァーレ』へ飛び出して行った。(恐らく村の女子が鬱陶しかったのだろう)
決して容姿が悪い方ではないクラムは、バールという隠れ蓑を失った今、女子からはとても輝いて見えるらしい。バールに女性の扱い方を聞いておけば良かったと、クラムはここにきてかなり後悔した。
式が終わったら、今度は保護者来賓からの『お言葉』である。途中から完全に流れ作業と化してしまったが、カーロン先生からの指令である『一人一人の顔をしっかりと覚える』ことは忘れない。
ようやく解放されると、特進クラスの担任であるジャック先生からの説明を聞いた後すぐに生徒会長である聖王国第一王女のアリス=ノベル=アストレアに連行され生徒会室へ。
半ば強制的に生徒会役員にされ、生徒会室を出た頃には教室には誰も居ない。ーー人間は。
机に座ってみると、ストレスの方から頭痛がした。クラムがいた机の中に、一枚の紙が入っていたからだ。
『俺はお前を認めない
グレイス・フォン・マリアス』
(名前を書くのか、丁寧だな)
思わず苦笑する。手紙を丁寧に封筒へ戻し、火魔法で灰に帰す。せめてもの仕返しである。
そのまま校舎を後にすると、懐かしい顔が見えた気がした。ーーので、急いで来た道を引き返そうとしたのだが、
「クラム様ーー!」
と、大声で呼ばれてはどうしようもない。踵を返して逃げようとしても、体が言う事を聞かない。
幼き時に、村の外れにある花畑で、彼女と交わした『約束』。
それは魔法的・心理的な強制力を持ち、約束、否『契約』に背く一切の行動を禁止する。
それは『呪い』の様で。
又それは『絆』の様で。
心の何処かに指輪に刻まれた『伴侶』の声を求めていた自分がいた事にクラムは苦笑しながらも、照れ臭そうに笑って聖女の呼び声に応えるのだった。