42話 バール編② 師との差は埋まらないらしい。
「はあっ!」
「…フン」
仕事が終わり、数日間の休暇をもらえることになったバールだったが、それをことごとく献上して、彼はサブリーダーのヘイロウと修行を積んでいた。
「まだまだ甘いな。俺は魔法など使っておらんが、それでさえこれだ。入隊当初の快進撃はどうした」
「くっ…!」
フェンリルは隅に立てかけ、格闘術の修行を行なっている。いくら銃や剣がうまくとも、素手で戦えないようでは兵士失格である。
「相性が悪いなどと言い訳をするな。戦場では通じないと言うことくらいお前でもわかるだろう」
「…ですね」
「あぁ、だからお前には、不利な相手に打ち勝つ方法を学んで貰わねばならん。団のためにもな」
「『根性論を出すな』とは、随分難しいですね…」
「当たり前だ。人間死ぬ気でやればなんでもできると言うが、死ぬ気になれるのは人生で一体何回ある?そんな心構えでいれば、ある日突然、流れ弾に当たって死ぬぞ」
バールはヘイロウから「全力を出すな」と言われていた。彼らは戦士。常に次の戦場を見据えて戦わなければならず、その上で足元を掬われぬよう冷静に行動することが大切となってくる。「常に全力で」ではなく、「余力を残しながら結果を出す」と言うことが、この団では求められていた。
「ごはっ…」
「いいか、訓練中に嘔吐などの体調不良が起こるなど言語道断だ。それが戦場だとして、吐いている間に撃たれたらどうする。例え微塵でも隙を見せれば、その瞬間には死んでいると思え」
「…くっ、はあっ!」
素人が見れば、『やる気のない修行』である。だが実際のところ、バールは体力をコントロールしつつ敵からのダメージを最小限にとどめ、更に相手へより効果的な打撃を与えいかに早く無力化するかと言う、普通の兵士なら裸足で逃げるようなものを行なっている。これは入団当初から変わらず、これにより彼は、入団数ヶ月で既に前線で活躍できると言う、俄かには信じられない戦士となった。
「ほう、だいぶ上達しては来ているか。この程度なら大抵の兵卒に遅れは取るまい。…だが」
「…!はっ!」
音速の拳撃。それをバールは、淀みののない動作で受け流して見せた。
「…ふぅ。まさか、これを躱されるとは」
「何回見たと思ってるんですか、その動きは」
「なるほど、目ははいいようだ、な…!」
凄まじい速さで繰り出される。怒涛の連続攻撃。バールはそれらを、余裕を持って難なく捌ききる。…そしてその余力で、強烈な反撃を行う。
「…はっ!」
「ぐっ…」
初めてと言っていいが、バールの一撃がしっかりと直撃した。ダメージはほとんど通っていないものの、初期に比べれば大した成長である。
「よし…っ!」
「気付いたのは褒めてやるが、遅すぎたな」
ただ、僅か一瞬の高揚、その瞬間を突かれバールは敗北した。投げ倒され首を絞められたバールは、このままでは死を待つだけである。
「まぁ、ルーキーにしては及第点だ。今後とも励め」
「はい!有難うございました!」
これで格闘技は終了。後は剣やら銃やら体力づくりやら何やらと、様々なことをこなしていく。
因みにヘイロウがここまで本気を出したのはバールを除けばボスくらいで、バールは新入りにしてサブリーダーの補佐などと言う立場にあるのだと言うことは、団員の殆どの中で常識となっていた。




