41話 バール編① 帝国には皇子が居るらしい
番外編に入ります。ちょっとここらのストーリーを濃くしておきたいので。
「…皇子様?」
「あぁ、そうだ。誰かはわからないが、正確な情報筋からだ。恐らく皇妃殿下の昏睡と関連してるんだろう」
「…成る程、息子まで餌食にされそうだったのを、身を呈して守ったと言うことか。『蓬莱の巫女』とも呼ばれた彼女が16年も眠ったのだ、よほど強い呪いだったのだろうな」
「皇子が覚醒した事で、皇妃アカネが復活したと言う話もある。もしや息子も母親の不死性を受け継いでいるのかもしれん」
「敵になることは今の所無さそうだが、それにしても厄介だな、不死と言うものは」
「ただの不死ならそこまでではない。あれの本当の脅威は、チリ一つ残さず殺しきった後から、何事も無かったかのように転生してくる事だ。…俺の弾も効かん。敵対すれば成すすべはないだろうな」
「そうか。…ならば俺も、勝てそうに無いな」
「かもな。アンタは戦場では無敵だが、何もアンタだけが化け物ってわけでは無い。負けないが勝てない、と言う相手だっているだろう。そいつらをどう対処するかだ、ボス」
「…随分と定着したな、その呼び名」
「似合っているからな。アンタがどんな理由で提案したのであれ、『ボス』と言う名はしっくり来るからな」
「…まぁいい。それでーー」
「ボス!ただいま戻りました!」
「…バールか。故郷はどうだったか?」
「相変わらずでした。明日から任務に復帰できますが」
「あぁ、頼む。こいつの下につけ」
「…おいおい、またルーキーか」
「よろしくお願いします」
「…はぁ、足は引っ張るなよ」
エレスハイム帝国、とある戦場にて。
バールは自分の傭兵団『ソルジャーズ』のリーダーと、サブリーダーの下を訪ねていた。
「それでですね、サブリーダー」
「ヘイロウでいい」
「ヘイロウさん、例の件ですが」
「あぁ。…それで?」
「フェンリルは正常に動作しました。後は金色の翼と、頭上の円環。『使徒』の証拠が」
「まぁ、対抗札は立てられた、と言うことか。あの魔女も始末できた事だ。これで内戦も、少しは収まるだろう」
「…治っていいんですか?」
「俺たちの仕事がなくなるのに、か。確かにそうだが、それなら職場を移せばいいだけのことだ。未だ大陸の3大国以外の小国同士では戦争が絶えんからな」
「そうですか…。クラムの件に関しては、正直、驚きですね」
「神様は退屈なんだ。だから自分の手で仕組んででも、面白い物語を見ようとする。運命の出会いなんてものはその典型だ。全てとは言わないがな」
「俺にも運命の出会いとか、ありませんかねぇ…」
「ここの女性職員では満足できないと言うことか。度々店にも通っているようだし、態度だけはでかいな、お前は」
「ぐっ…まぁ、事実ですし仕方ないですね。兎も角王族への対抗手段は整いましたが、だからと言って反旗をひるがえすわけでも無いのでしょう?」
「…まぁな。お前もだいぶわかってきたか、ルーキー」
「1年も経ってませんが、死ぬ気で学べばこんなものです。それに俺は、できれば親友と戦うことなんざ、避けたいですからね」
「フェンリルを使いこなせるのはお前だけだ。俺はおろか、ボスすら使いこなせない代物だからな。だから、もし俺らが敵対して王族と戦うことになった時は、お前がキーとなる」
「…そんなことはないと信じたいです」
「絶対はないが、こちらとしても無謀なことをする気はないのでな。息子はまだまだのようだが、巫女には歯が立たない」
「そうですか」
「あぁ、そうだ。恐らくないと思っていい。…そんなことより、今日はもう寝ろ。寝ぼけて死ぬと言うことになったら笑えんぞ」
「分かりました、サブリ、ヘイロウさん」
「あぁ、またな」
そう言ってバールは、自分の寝袋へ向かう。
翌日は寝ぼけなど起こさず、無事に戦闘を終えたのだった。




