40話 閑話みたいなもの 『王と皇の会話』
「…と、言うわけでして。例の件、ご承諾願えますかな」
「えぇ。アリスも喜ぶでしょうし、二国の関係も更に良くなるでしょう」
「ありがとうございます。では、発表はいつになりますでしょうか?」
「そうですね…取り敢えず、娘には伝えておきます」
「わかりました。…ときに、聖王殿」
「何でしょう?」
「あくまで噂話だと思って聞いていただければ幸いですが、貴国には第2王女がいる、と言うのは本当でしょうか?」
「…何処でそれを?」
「16年ぶりにあった、私の息子です。曰く、聖王国の聖女は、実は王族なんじゃないか、とね。…どうやら息子は、貴国の聖女様に夢中のようでして」
「聖女…セレシアの事ですか」
「えぇ。もし仮にそうであれば、婚約者同士も納得のいく、素晴らしい縁談になるかと存じます。なにぶん今の帝国は野蛮ですからね…。貴国としても、そんな国に一人娘を嫁がせるわけには行きますまい」
16年もの間顔も見なかったが、かの皇帝は確かに、クラムの味方なのである。むしろ、このくらいのことはやってのければと、躍起になっているところだ。
「それについては、こちらに皇子殿が婿入りして頂くと言う事を考えていたのですが。…それにセレシアの件は、ただの噂話に過ぎませんよ」
「今のところは、と言う事でよろしいでしょうか」
「正直な話をしますと、クラム殿には我が聖王国の上に立ち民を導いて頂きたく思いまして。この話が持ち上がる前は、どうやってアリスと結ばせようか真剣に考えていたのですよ。女神アストレア様の神紋を持つ彼は、たとえ王族でなくとも、我が国を治める資格がある」
「随分な話ですな…。ですが、クラムを婿に出すと言うのはこちらも承諾いたします。彼にはどうも、そちらの方が住み慣れているようでして。…出来ればその、『噂話』の件は、詳細な調査をお願いしたいところですが」
「…魔法技術による遺伝子検査、それをしろと?」
「えぇ、こちらの要求はそれです。代わりにクラムは、喜んで差し上げましょう」
「…それが、条件ですか」
「どうか、よろしくお願いします。出来ればその結果を詐称せずにお伝えいただけるとーー」
「…いえ、結果を待たずとも、答えは分かりきっていますよ」
「噂話は本当だと?」
「丁度16年前。もうそれほど経ちますが、私には一晩の過ちでできた、一人の妾がおりまして。これは妻にもアリスにも話してはいないのですが…。体の弱かった彼女は、1人の赤子を産んですぐに逝きました。その時です、アストレア様の啓示が下ったのは」
「啓示、ですか」
「それに従い、かの赤子をとある村に送り届けました。いずれ聖女として、国に貢献させるために」
「そこで、我が息子と出会った」
「運命というのは、こういう事を言うのでしょうか。ですが、セレシアの為にも、この事実は公表してはいけないのです」
「…何故でしょう?」
「『不義の娘』だと、聖女の名声に傷がつきます。それに王宮への信頼も落ち、ひいては統治に支障が出る可能性があります」
「成る程、失礼。ーーー聖王殿。少し、良い案を考えついたのですが」
「何でしょう?」
「…」
「…なるほど。確かにそれなら、諸問題の全てを解決できますね。問題は、彼がどこまで活躍してくれるか、でしょうか」
「その点に関してはお任せください。仕事を与えれば必ず果たして帰ってくる奴です。問題ありませんよ」
「そうですか。では、私も準備に取り掛かるとします」
「よろしくお願いします。…では、私も」
二人の王が席を立った。
この後、クラムには様々な試練が課されることとなるが、彼はまだ、知る由も無い。




