第3話 結果は上々だ、期待以上に
「特進クラス、しかも主席…ですか」
「あぁ、そうだ。実技では君より点数が高い人もいたんだが、なんといっても筆記試験のフルスコアが決め手らしい。流石はクラム君だね」
「校長先生や、モニカ先生のおかげですよ。モニカ先生には改めてまた、菓子類を進呈しなくては」
「そうだね。あぁそう、お遣いありがとね」
「いえ、いただいたご恩に比べれば些細なものですよ」
「そう言ってもらえると、頑張って教えた甲斐があるものだよ」
王国立学園の教師陣の中で『天才』と称された若き魔法使いと、彼を育てた師の会話である。
自分が実技試験で見せた芸当など、彼らにとっては当たり前だとクラムは思っていたが、モニカとカーロンはその高すぎる能力を危惧されて僻地に飛ばされた者らである。前提として、色々とおかしいものがあったのだ。彼らは王都でも天才。その一番弟子なのだから、彼もまた天才であるのは当たり前なのだろうか。――と言っても、彼は才能に溺れるのではなく、しっかりとした鍛錬を積んだからこその実力なのだが。
「入学は1か月後だ。それまで何をする?」
「実戦形式の訓練を。鈍っては元も子もありません」
「よろしい。ようやく僕も、少し本気を出せるようになったところだからね」
「そうですか、ではこちらも全力で」
「うんうん。いい心意気だ。――あぁモニカちゃん、いいところにいた。結界頼める?」
「わかりました。あぁでも、最近持たなくなることが多いので、無駄に派手な魔法は使わないでくださいよ」
「あぁ、解ってるよ」
「了解しました、先生」
実戦形式の訓練の場所は、いつも決まって『裏山』である。
毎回のこと『焼けたり』『吹き飛んだり』しているが、その都度モニカが『結界』で再生している。
今回もまた、その例に漏れず。訓練開始と同時に、16個の炎弾がカーロンめがけて殺到した。
全方位型の防壁で難なく防ぐカーロン。クラムはと言うと、カーロンに接近するのではなく距離をとっていた。というのも、クラムのもといた場所には水晶でできた大剣が地面から突き出ていたからだ。
「ドンピシャのタイミングで攻撃したつもりだったんだが。成長したねぇ」
「一瞬遅かったら終わってましたね。――全く、容赦も何もあったものじゃない」
「そんなもの、実戦においては不要というものだよ。ほら、次ー」
今度は無数の水晶の弾丸が、クラムへ襲い掛かる。彼はそれをすり抜けるようにカーロンへ接近し、炎で象どった剣で彼に切りかかる。
当たり前というべきか、水晶の大剣で受け止められる。だがクラムもこれでは終わらない。炎の刃を爆発させ、その爆風でカーロンを押し飛ばそうとする。
これも一発では通用しないため、左右の手に剣を象どり14発の連撃を加える。それでようやく、カーロンが数歩押し返された。
「やるようになったねぇ。仕掛けもだいぶ切り倒されているようだし、勘も鋭くなってきたようだ」
「こんな罠、何時仕掛けたんですか…」
「始まった直後、だよ。ズルはしていない」
「こちらの罠なんてないも同然じゃぁないですか」
「見える罠は罠のうちに入らないよ。せめて知覚できないものでないと」
「――炎魔法にそれを求めますか。きついですね」
「まぁ、勉強が足りないということだね。――それと」
「――えぇ、参りました」
少しの会話の後、あっさりと負けを認めたクラム。
そんな彼の体には水晶の鎖が巻き付き、喉元には水晶の刃が突き付けられていた。――どちらも目に見えないものである。クラムは14回に渡る斬撃で仕掛けられていた水晶の鎖などの罠をほとんど切り伏せて見せたが、わずかに残っていた水晶が彼の敗北を決めたのだった。
かくして、鍛錬は繰り返される。
そして春になり、クラムの学園生活が始まる―――。