38話 踊るらしい。
「と言うわけだ。クラム、君には留学生として、舞踏会に参加してもらうよ」
「はぁ、わかりました」
「詳しい所作はそこのナーシャから聞いてくれ。ぶっつけ本番ではあるが、お前なら大丈夫だろう」
「…大丈夫なのでしょうか。ナーシャ様、よろしくお願い致します」
「はい、第一皇子さま。こちらこそよろしくお願いします」
と、言うわけで。帝国の王城を仕切っているトップの様な人に、直々に舞踏会の所作を教えていただく事になったクラムだが。
「あらまぁ、ご上手で」
「ありがとうございます。…何か、初めからわかっていたかの様な感覚がいたしまして」
「凄いですね。陛下もここまでではございませんでした」
どこかで仕組まれたわけでもなく、自然と動きが覚えられた。復習など不要、一回通すだけで十分である。
「そう言えば、初回は誰と踊られるのですか?」
「無難に…いえ、恐れながらヨミ殿下と」
「そうですか。ヨミ殿下は少々独特のリズム感覚をお持ちの様で、相手をするにはセンスが問われますよ」
「…コツとかは、ございますか」
「息継ぎや休みが一切無いのがヨミ様の舞踏でございます。限界まで呼吸を止めて見るような気持ちで望まれればよろしいかと」
「始めから終わりまで一息で、と言うことですか」
「そう言うことですね。今は少し合わせやすくなりましたが、初期など本当に酷かったですね、あれは」
どうやら異母妹は、初回の相手にしてはきつすぎるらしい。まぁ、だからと言って相手を変えるつもりもないが。
ナーシャに他の細かいポイントなどを教わり、いざ舞踏会本番である。王城内の舞踏館なる場所で行われるそうだ。
「此度はご招待頂き、誠に有難うございます、陛下」
「うむ。このような催しは初めてと聞くが、気にせず楽しんでくれたまえ」
「はい。では、恐れながらそのようにさせて頂きます」
社交辞令というか、挨拶である。建前は大切なのだ。
何やら高そうな服を着せられた俺だが、自分でもしっくりくる程違和感が無かった。かなり謎である。
ドレスを着たヨミの姿が見えたので、どうしようか迷っていると、あとらの方からこちらに近づいて来た。
「クラム様、このような催しは初めてとお聞きいたしました。宜しければ、最初の御相手を務めさせていただきたいのですが」
どうやら既定路線だったらしい。当然ナーシャから回答の台本は聞いてきた。
「ヨミ殿下、わざわざありがとうございます。何故初めての身ですので至らないところが多くあると存じますが、どうかよろしくお願いします」
棒読みでいいくらいである。流石に他の貴族達も邪魔はできないようで、まだ名前を一人一人覚える必要は無いようだ。
音楽隊が演奏を開始するに従い、会場の人間の足が動き始める。クラムと言えば5分ほど呼吸をしなくてもいいように少しだけ空気を溜め込んで、読みの相手をする事にしたようだ。効果はてきめんで、周りが感心する中、兄妹同士の舞踏はとても息が合っていて、素晴らしいものになった、とクラムは後に聞く事になった。




