37話 勉強になる。
「では、この状況下での適切な判断として、クラム君」
「はい。現在の状況下では、Aの部隊が遅滞戦闘を行う事で4、5分の猶予が生まれるため、その間にBの部隊を右翼から展開し対象の部隊を撃破することが可能です」
「では、この状況を『ファイアーボール』の魔法のみで突破する方法について、クラム君」
「はい。戦場が山岳地帯であるためファイアーボールを崖に上手く直撃させる事による土砂崩れ、落石などの現象を引き起こす事により解決できると考えます」
どうやら、大分簡潔に話せるようになったらしい。クラムは帝国の教師からの質問に対し、ほぼ全て簡潔で完璧な回答を示した。
ところで、試合はヨミ以外には大体勝利することができたクラム。だがしかし、彼の義理の妹にあたるヨミには、数回の戦闘において全て黒星を飾っている。
まず、自分の攻撃が当たらない。
次に、相手の攻撃が捌き切れない。
自分の戦闘スタイルでは圧倒的に不利な相手が、そこにいた。クラムは途中からガードを捨てる戦法に切り替えたが、それはただ敗北までのタイムリミットが縮むだけで、結局いつも敗北するのだった。
授業が終わり、図書室で暇を潰し、城へ帰る。もちろんとも言うべきか、ヨミも一緒である。
エレスハイムの王族には『神名』を持つものがいる。今までにそれは3人おり、彼らは絶大な力で帝国を導いた。7代目皇帝レイジン、10代目皇帝セカイがそれに当たる。あと、ヨミで三人目だ。
神名とは異世界の文字で記された自身の名であり、レイジンだと『零神』、セカイだと『世界』、ヨミは『詠神』である。
「やはり敵わないな、ヨミ」
「そうでもないよ、…兄さん」
兄と呼び事に抵抗があるらしく、少々突っかかって話すヨミ。
「別に兄さんだなんて呼ばなくていいよ。クラムでいい」
「ううん、私がこう、呼びたいだけだから」
半分血が繋がっているので、確かに俺に似ている部分もあるな…と、彼女には自然に、優しく接しようとしているクラムであった。
王宮に帰ると、いつもの食堂に呼ばれる前に、とある部屋に案内された。どうも、母上がそこそこ回復して来たらしい。
ドアを開けると、どうにもまぁ、絶世の美人としか言いようのない女性がいた。…本当に自分の母親かコレ、と疑ってしまうほどに。
「…あなたが、私の」
「えぇ、あなたの母親よ。まぁ、16年ぶりかしら?」
随分と元気そうな母親である。ついでに性格も似ていそうだ。
「色々うっかりしちゃって、長い間眠る事になったり、あなたの辛い思いをさせてしまったわ。本当にごめんなさい」
「いえ、思わぬ幸運もありましたし、大丈夫ですよ」
「言えたことでは無いけど、敬語なんて使わなくていいのよ?赤の他人ではないのだから」
「はぁ…」
どうにも神々しいオーラに魅せられてしまうのだが、この人は俺の母親たる、アカネ=ノベル=ユークリウス=ヴァルクラウドであるらしい。『茜御前』とか言う名前で通っていたらしいが、古代文字を出されても困るだけだ。
「その手袋はどうしたの?片方だけというのは不自然よ」
「そうなのですが、コレを隠すためにですね」
そう言って手袋を脱いで見ると、他人には魅せにくい紋様のご登場だ。
「ウロボロスに、アストレア…。あらまぁ、流石は私の息子ね」
「なぜ、見ただけでわかるんですか?」
「ウロボロスの紋様は私から受け継いだものでしょうし、アストレアは国旗に記されているじゃない。…その紋様が完成したと言うことは、あなたも死ねなくなっちゃったみたいね」
「あなたも…と言うことは」
どうやら、母親も不老不死らしい。…見たところ妙齢の女性にしか見えないがーー
「えぇ、16年経ったなら、450歳位かしら?」
「それだけ生きていれば、現世に飽きたりとかはしないのですか?」
「うーん。普通の人とは感覚が違うから。貴方にとっての1日は、私の体感時間では1時間もないの。目覚めた時は、1年ちょっと寝ていたかな、と思ったわ。その実、16年だったけれど」
15年も寝坊したと言うのか。なんと言う人だ。というか、不老不死なら眠らされたりしないでほしい。
「敬語が抜けないわね…まぁいいわ。それより、貴方の話を聞かせて?」
「はぁ。あまり話すこともありませんが…」
そうやって、アカネに自分の人生を語るクラム。16年分の内容が1日で語れるはずもなく、区切り区切りで話す事になったのだった。




