34話 暫しの別れだ。
「まぁそう言うわけで、明日からしばらく来なくなる」
「帝国か。…貴様の事だから心配はしていないが、ゆめ気を付けろよ。一応かの国は内戦中なのだから」
「わかっているさ。だからこそあちらも、大人数は呼べなかったんだろう」
「本来ならお前も呼ばれないはずなのだがな…」
学園で、友人のグレイスとの会話。
「色々と事情があるんじゃ無いか?まぁそれよりも、今度会う時までに試練は突破しとけよ」
「勿論だ。いい加減貴様に少しでも追いつかなければ、俺の体面が持たん」
「まぁ、頑張ってくれ」
グレイスとの別れは、それで済んだ。
次は生徒会室。やはりと言うべきか、あの人である。
「わ、私は別に!泣いたりしないもんね!弟君が遠くに行ってしまったって、そのくらい耐えられるもん!
心配しなくていいから!ね!」
会長、目からダラダラと汗をかきながら言われても、全く説得力がありません。そう言えば、初めてこの事を打ち明けた時、ティーカップを落として、慌てて俺がキャッチしたっけ。
「頑張ってきてください、クラム君。私、応援しています」
とは、フローラの談である。こちらの方がポイントが高いが、残念ながら二人とも全く対象にならない。
「あぁ、ありがとう。代わりをよろしくな」
「はい。6人分の仕事はできませんが…」
「1人分で十分だよ。できる事を一つづつ、だ」
「はい、頑張ります」
随分と優しくしているが、落とそうとかそう言う魂胆では無い。これはクラムの平常である。全く、親の顔が見てみたい。
「むー、おいそこ!ポイント稼がない!弟君は私のものなんだから!」
「…『姉上』」
「は、はい⁉︎」
「分かりますね」
「はい…」
全く、この王女、すぐ調子にのる。セレシアとは大違い…でも無かった。悪戯で『先制点』をもらった事を完全に忘れていた。一生物のアレである。
「では、失礼します」
「はい、頑張ってくださいね」
「連絡はよこしてねー!私のところにー!」
まぁこれで、別れは済んだだろう。…学校の。
校舎を出ると、やはり彼女が待っていた。
「その気にさせておいて、すぐ離れてしまうなんて」
「そう言わないでくれ。いざとなれば指輪で駆けつけるから」
「そう言ってもですね!折角あなたと新婚気分の様なものを味わっていたと言うのに、どうして水を差すのですか!」
「いやすまない。ちゃんと連絡入れるから、許してくれ」
「…毎日です」
「うん?」
「毎日夜に、ちゃんと入れてください」
「あぁ、わかったよ」
因みにだが、彼女が現れると自然に、ここを通る人が全くいなくなる。…何かの力でも使っているのだろうか、彼女は。
「では、帰りましょうか。私たちの家に」
「…うーん、いや、『俺たち』で間違ってはいないのかな?」
この王国で男女が居を共にすると言うことは即ち、二人は夫婦という事である。まぁ、召使いなどの例外もあるのだが。
王都での自由時間のほぼ全てをここで暮らしている彼女は、最早そう言ってしまってもいいのかもしれない。…何となく、こちらも嬉しい。
その日は最後の晩餐と言うべきか、かなりアリシアが腕をふるってくれた。アリスは何やら用事があるそうで、運良く突撃される様なことはなかった。
その翌日。
「送りに来てくれるのか」
「えぇ。わざわざ私だけに教えてくださり、ありがとうございます」
「グレイスには悪いが、はっきり言って他の奴らは邪魔だからな…」
「ふふっ、そう言うクラム様の容赦の無いところ、悪く無いと思いますよ」
「いや、悪いだろう…だがまぁ、君がそう言うなら」
クラムはグレイスたちに、いつどこから出発するかを知らせていない。立場的に知っているアリスは、父親の計らいにより連日用事を詰められている。
「ご主人様、そろそろ出発です」
「あぁ、そうみたいだな」
「クラム様!」
「なんだ?」
「必ず、戻って来てください」
「あぁ、約束しよう」
おかげでバレることなく、こう言ったことができるわけだ。家へ来るときのセレシアは魔法で変装しているので、大丈夫なのである。
セレシアが見送る馬車が出発する。
目的地は帝国。恐らくは、俺の出生の地。
クラムはついに、自分の過去と向き合うーー。




