30話 ようやく、言えた。
「さて、と。俺からお前に、伝えなければならない事があってだな」
「…はい」
クラムの目をまっすぐに見据えるセレシア。それだけでクラムは、かなりやりづらくなるのだがーー
「初めてあった時からかな。何だか放って置けなかった」
「…そうだったのですか」
「あぁ。その感情は物心着いてからも続いて、10年前くらいか。ここで恥ずかしい約束なんてものをしたな」
「えぇ。あの時は、本当に嬉しかった」
「その後も平和な日々が続いて。でも、お前は聖女に選ばれた」
「…」
黙ってクラムの言葉を促すセレシア。
「正直、自分の気持ちに折り合いをつけた。あいつは平民の俺とは一緒になれない。もっと崇高な、素晴らしい人と結ばれるのだと。君の告白はとても嬉しかったが、受けることはできなかった」
「やはり…そう、だったのですね」
やはり、セレシアはわかっていた様だ。その上での、『諦めない』だったのだろう。
「それでも何だか、君に会いたくなってな。先生に頼んで、王都の魔法学院の入学試験を受けさせてもらった。あの時は必死に勉強したよ。一生に一度だけのチャンスだったから」
「…わざわざ追いかけてきて下さって、ありがとうございます」
セレシアが頭を下げる。「いいんだ」とクラムは頭をあげさせた。
「王都で君と再会した。ーー別人の様に美しくなって、何もかもが生まれ変わった様で。…正直、見惚れてしまった」
「…あの時はからかい甲斐があって、私も楽しかったですよ」
セレシアがクスクスと笑う。クラムは少し恥ずかしくなった。
「君の声があったから、親善大会では優勝まで行けた。恐らくあの、凄まじい力をくれたのは君なのだろう。何となくわかったよ」
「えぇ。私の中にいる女神様にお願いして、力を貸して頂きました」
1段階目のあれは生まれ持ったウロボロスの力によるものだが、2段階目のあれは完全にセレシアの助けだったのだ。思えば、1段階目のトリガーを引いたのも彼女である。
「君におめでとうと言ってもらえて、誇らしいと言われて、初めて自分で自分を褒める事ができた」
「思わず涙が出てしまったのですよ。恥ずかしいので拭き取りましたが」
そんな事があったのか、とクラムは思った。
「祭壇では君を魔の手から守ることも出来たし、俺は相当、運に恵まれているらしい」
「命まで助けて頂き、本当にありがとうございました」
再度頭を下げようとするセレシアを、クラムが制止する。
「だからその、なんだ。月並みな言葉ではあるんだがなーー」
「…はい」
クラムが殊更に大きく、何度も深呼吸をする。ーーそして、
「君を、愛している。何よりも、君だけを。この想いは未来永劫消えることはない。例えどんな事があろうと、例え君の体が朽ち果てても、君だけを愛し続けると誓うよ」
十年越し。恋情から愛情に育ったそれを、告げる。
「ーーはい」
セレシアの目から、涙がこぼれ落ちる。
「何故でしょう。一年前のように振られたわけでもないのに、涙が、止まりません」
こんな声は初めて聞いたな、とクラムは思った。
「はい、私も、私も愛しております。クラム様とならば、例え永遠の時を過ごそうとも、決して飽きることはございません。あなたを想うだけで、私はいつでも、幸福を感じる事ができます」
セレシアがクラムに告げる。
「ーーそうか。…やはり両想いだったといことか、俺たちは」
「えぇ、そうですね。何処にいようと、何があろうと、変わる事など、消える事などなかったのです」
セレシアの涙が止まった。二人で笑い合う。
その後にセレシアは、
「我が女神アストレア様。どうか一時だけ、私が聖女セレシアではなく、一人の女性、セレシアである事をお許しくださいーー」
そう言って、
「ーーっ」
「ーーふふっ。ファーストなんちゃらね。頂いたわ!」
少女は笑う。まるで、10年前の続きをする様に。
「いきなりはないだろう。もっと何か言ってくれ」
「言ったってあんたからはしてくれないじゃない!こんだけいいムード出してるのに、まぁヘタレなこと」
「ーーこちらからする予定だったのだが」
「あらそう?じゃぁ、もう一回してもらおうかしら」
そう言って目を閉じるセレシア。…ちょって待ってほしい。心の準備ができていない。
「今更だが、口調が粗野に戻ったな…。まぁ、こっちの方も似合っているからいいが」
「こっちの方『も』?」
「あぁ、聖女セレシアも、良いものだと思う」
「あら、そうですか。ではこちらの方がいいかしら、ですか?」
「混ぜるな。それでは訳がわからん」
「ーーまぁ、アストレア様と繋がってない私なんてこんなものよ。大聖堂のおばさまたちに仕込まれたのもあるけど、何より貴方に恥ずかしくない様にしたかったから」
なるほど、それで口調を変えていたのか。ーー全く、考える事は同じというわけだ。
「そうか。…準備完了だ、では、まぁ。こちらから」
「えぇ、待ちくたびれたわ。早くしなさい!」
ったく。最後までこれか。 まぁ、急かされるのも、悪くないかもしれないな…。
思い出の花畑で、二つの影が、重なったーー。
一応、一部完。だがしかし、話はまだ続く。




