28話 新しい日常だ。
「起きてください、ご主人様」
「あぁ、アリシアか。いつもすまない…って」
「あらあら、アリシアちゃんと私を間違えるとは、寝ぼけは相変わらずですわね、クラム様」
今日は休日。セレシアにとってもそれは同じであった様で、今日のクラムの朝を起こしてくれたのは彼女らしい。
「セレシアか。アリシアはどうした?」
「先にご飯を作ってくれているそうですよ。彼女の料理は絶品ですので、私もご馳走になろうかと」
王宮の有り余る財の一部をいわゆる奨学金として頂き、クラムは王都にある小さめの屋敷で召使いと共に暮らしていた。
グレイスとはたまに庭で剣や魔法の腕を競い合ったり、セレシアとはこうやってアリシアの食事を頂いたり、アリスが突撃してきた時には、仕方なく応対したりもしている。しかし彼女はいかにも誘っている様にこの家の中で酒を飲もうとするため、彼女がきた時に限りこの館は『飲酒禁止』となる。今の所フローラは来ていない。自宅に突撃するほどの勇気がない様だ。グレイスに連れて行って貰えばいいものの、彼女は頑なにその選択をしようとしない…と言うよりそもそも、脳内にその選択肢がない。
アリシアと言えば、王城のメイドも顔負けの働きぶりを発揮し、小さいとは言えかなりの敷地であるクラム邸を、たった一人で切り盛りしていたのだった。料理、洗濯、清掃に至るまで、何一つクラムは触っていない。唯一、彼の自室の清掃位だ、彼女の手が行き届いていない(とクラムが思っている)のは。
「そうだな…ってそうか、今日は」
「えぇ、約束の日ですよ」
「あぁ、そうだったな」
彼らの師であるカーロンに、アリシアの育て方を相談しに行くと言う名目での、帰省である。彼らはどちらも孤児であり、親代わりのカーロンのもとに赴くのなら、とセレシアもついていく経緯となった。
因みにだが、アリシアはこう見えても3桁は優に超える年齢である。彼女は内心『カーロンに会う』と聞いて彼が生きていたのか、ととても驚愕したが、好都合なのでそのまま話を聞き流したのだった。
年齢の話は10歳だと詐称した。…と言っても『肉体の年齢』はまさに10歳であり、嘘はついていない。彼女の体内時間は、10歳の春で止まっているのだ。
(彼はどれほど驚くのでしょうか?ふふっ、楽しみです)
世界の楽園、理想郷を目指した少女は、ついに因縁の相手と邂逅する。
「ご主人様、奥様、朝食の準備ができました」
「まぁ、ありがとうねアリシアちゃん!早速頂きましょうか!」
「あぁ、食べて少ししたら出発だ」
何も知らぬ主人と、その伴侶(奥様と試しに読んだら大層気に入られたのでそのままになっている)に向かって微笑む召使い。
(変なことをする気はないですよ?ただ、数百年に渡る人生のうち、もう一つの目的が達せられるだけですーー)
幸運を運んできてくれた主人達に感謝しながら、彼女は彼らと共に朝食を摂るのだった。




