27話 やりにくい。
「こんな少女が、娘を襲っていたと言うのか」
「はい。私も信じられませんが、本人がそう言っており、嘘はない様です」
「君は、誰かに操られたりして居たのかな?」
「いいえ。全て、私の意志で行ったことです」
「うむ、信じられんが、そうなのだろう。君に嘘をついている兆候はない」
仮面の少女と クラム、セレシア、聖王のパーシヴァル、そしてアリス。5人が集まった王城の一室での会話である。学園の闘技祭は、ライバルのいなくなったアリスが一人勝ちしたらしい。
「私の娘を襲ったと言うことは到底許すわけにいかないが、かと言って何か娘が傷を負ったかと言うと、そうでもない。セレシア殿の件でも、死者はおろか怪我人すら出て居ない始末だ。…これでは裁きようがない」
未遂罪なんてものは聖王国の刑法になはい。あったとしても、この件で死刑にはならないだろう。
「うーん。確かに、私を襲ったからと言っても、こんな可愛い子に刑罰を課すのはちょっとねぇ…」
「本当に、申し訳ございませんでした」
こう謝れては、いくら厳格な王であろうが沙汰を下せないと言うものだ。
このままでは話が進まない。ーーその時ふと名案が浮かんだクラムは、
「恐れながら陛下。誰も死んで無いとは言え、私は彼女の起こした儀式に巻き込まれ、危うく『死にかけ』ました。私には彼女を裁く権利があると思います」
こんなことを言い出した。
「ほう、それは確かに、そうかも知れん。…それで君は彼女に、どんな罰を課すのかね?」
この場全員の視線がクラムに集まる中、
「暫くの間、私の元へ預からせていただきたい。奴隷ではありませんが、召使いとして。…彼女には特殊な才能があり、鍛えようによっては貴重な『戦力』になります。一度私の師に会わせて、彼女をどう『教育』すべきか、教えを請うつもりです」
彼はそんなことを言い出した。それに対しパーシヴァルは、
「ほう?成る程、なかなか面白いことを考える。…良かろう。確かに今回の件は、君に沙汰を下す優先権がある。それと、彼女と共に暮らすのならば寮では不便そうだから、一戸建ての家を与えよう。今回の件の褒賞としてな」
「ありがとうございます」
それについて許しを与えた。
「ど、どう言うことでしょうか、クラム様」
セレシアが困惑した表情でクラムに問いかけるが、
「あぁ別に、可愛いから愛でようとかそう言う狙いでは無いよ。ただな、『救いを与える』と言うのが俺の使命だから」
ーー仮面の少女も救わねばならない。彼の右手に刻まれた紋様が、彼に救済せよと告げていた。
「良いのですか?ご主人様。セレシア様に浮気を疑われますよ?」
「随分と生意気な召使いだ。首輪でもつけた方が良かっただろうか?」
「どうぞ、ご自由に」
「…冗談だ」
さすが王家。別荘などいくらでもある様で、学園にほど近く、そこそこの大きさのある家を下さった。
クラムとセレシアと名乗る仮面の少女の新生活が始まるわけだが、
「そうだ、召使い。セレシアとは呼びたく無いから、お前に新しい名前をつけようと思うのだが」
「名前、ですか。…どの様な?」
「『アリシア』だ。まぁ、適当だが」
「アリシア、ですか。王女様と聖女様のお名前が、半分ずつ入っていますね」
「お前のしでかした罪は消えない。未遂と言うことにはなっているが、俺は確かに一度死んだからな。ーーさて、これからは召使いとして、友人の代わりに朝に起こして貰わなければ」
「…その位ならば。お任せください」
罪には、然るべき償いを持って救済を与える。
クラムとアリシア、そしてのちにセレシアが暮らす事になる『賢者の館』は、新たな主人を迎えようと、その門を開くのだった。
お気付きの方もいらっしゃるでしょうが、主人公やヒロインには彼らに力を貸す者たちの『思念』などが入り込むことによって、少々人格に変化が生じたりします。『あれ、こいついきなりキャラ変わったぞ』と思った方は、『あぁ、そう言う設定なのか』と思いながら読んでいただけると幸いです。




