24話 お祭り騒ぎだ。
「ほらほら弟君!次はこっちだよ!」
「あの、会長。引っ張らないで下さい…」
グレイス(仕方ないのでフローラも)と回りたかった学園祭なのだが、生徒会役員のフリー時間を見事に合わせてきたアリスにより、完璧に妨害されてしまった。
例の仮面のこともある。アリスを警護しなくてはならないため、必然的に友人と回ることはできないクラムは、少しばかり悲しみを背負った。
グレイスとフローラと言えばもちろん別行動。グレイスは妹と、フローラは弟とともに祭りを楽しんでいる様だ。
『不可侵』の王女と、女神に選ばれし少年。最早完全に周りからカップル認定された二人は、(アリスの方だけは)楽しそうに校内広場を歩き回っていった。
(着実に外堀を埋められている…)
「その様な平民と関わっては王家の名が汚れる」とは誰も言えない。何しろ女神アストレアに選ばれた少年だ。そこらの伯爵家の子息よりもよっぽど価値がある。
この状況でプロポーズでもされてみろ。断るなんて事は絶対にできない。もちろん、彼の心理としては絶対に受け入れられないのだが、物事には事情というものがあるのだ。
「どう?楽しい?」
「まぁ、そうですね」
しかしながら、祭り自体は楽しい。これほどのものなら是非、友人達と回りたかったものだ。…いや、それよりもセレシアと回りたかった。アリスの様に引っ張られながら、その優しさに包まれる。そんな楽園をーー
「ーー!!」
「ん、どうしたの?喉にでも詰まった?」
「…すみません会長、ちょっと用事ができました」
「え?…って、指輪が、光ってる?」
「はい。…彼女が危ない」
それ以上の会話は無用だ。人目のつかないところへ駆け出し、左手で赤く光る指輪を右手で包み込む。
「今行くぞ、セレシアーー」
そう言った直後、彼の姿が消えた。
「ーーというわけでして。貴方には生贄になって欲しいのですよ」
「応じなければ、そこの民達を代わりにすると」
「えぇ、その通り。まさかこの状況で、抵抗できるとは思っていませんよね?」
「はい、残念ながら。淫行が目的でなかっただけまし、と言ったところでしょうか」
「生憎とその様な下賎な欲望は捨てましたので。お望みなら相手をしますが?」
「いえ、結構です」
セレシアと、仮面の魔法使いの会話。
彼女を守る騎士達は全員気を失い、彼女は一人儀式の祭壇の様な場所へ移されていた。騎士達が殺されなかったのは彼女の要請である。
「それでは、どうぞ。殺すなら早くして下さいな」
「死に急ぐ必要はないでしょう?今準備をしていますので、少々お待ちを」
死の間際だというのに、セレシアはとても冷静で、その目には微塵も恐怖がない。
「さて、準備完了です。そこの魔法陣の中心にお立ち下さい」
「はい、分かりました」
スタスタ、と彼女は魔法陣へ移動。足元の魔法陣が起動しても、表情には一変の揺らぎもない。
「そういえば、仮面のお方」
「はい、何でしょう?」
「貴方は分身か何かですか?」
「いえ、珍しく本体が出張ってきていますよ。儀式の成果は是非、自分の目で見たいのです」
「そうですか。ーー好都合です」
「ほう、まだ抵抗する気がおありとは」
「いえ、私は何もしませんよ?ーー私は、ね」
今です、クラムーー。と、セレシアが心の中でつぶやく。
その瞬間、空間転移により駆けつけたクラムが、仮面の男を切り刻んだ。
魔法陣が失効する。クラムはセレシアのもとに駆け寄り、
「すまない、かなり遅れてしまった」
「いえ、大丈夫ですよ。助けに来てくださり、ありがとうございます」
ここまでならまぁ、喜劇で終わっただろうがーー。『賢者』の物語は、こんなつまらないものではない。
『そこを離れなさい、現し身よ!その魔法陣はまだ動いている!』
何ですって、とセレシアが神に聞き返した瞬間、クラムはカーロンに教えられていた、『奥の手』を起動する。
クラムに突き飛ばされたセレシアが、指輪の力によりその場から離脱する。行き先は学園。クラムが転移して来た場所だ。
「聖女だけは逃しましたか。ーーまぁいいでしょう。貴方だけでも十分、生贄は足りる様だ」
くっくっと、仮面が嗤う。
「そうか。それは助かった。これから何をするかは知らんが、セレシアを守れたならばまぁ、悔いはない」
「反吐がでる言葉ですねぇ。しかし、遺言ならば致し方ないでしょうか」
「遺言?あぁそうだ。言い忘れていた」
何を思ったのか、クラムは仮面に、
「奴に『愛している』とでも伝えといてくれ。出来れば紙の切れ端か何かでな」
「敵にそれを言いますか。全く面白いお方だ。…いいでしょう、お安いご用ですよ」
「あぁ、頼む。…夢は一応叶ったからな。悔いがないといえば、そうなるかもしれん」
「それは好都合だ。では、世界の輪廻を司る龍、ウロボロスの降臨のために、生贄になってもらいましょうかーー」
あぁ、結局後悔することになるとは…。
これは誤算である。
クラムの、 セレシアの、そして仮面の。
物語は、この誤算によって始まる。
否、この物語は、ようやく動き出す。
しゅじんこう は しんでしまった!




