16話 相手も手強い。
「くそっ、完敗だ」
王国側の王子様に善戦し、しかし惜敗したグレイスの言葉である。
「聖剣を使わせたんだ。最上級生との戦いですら使用しなかった切り札を、な。それだけでも十分だと思うぞ」
「…そういう、ものなのか」
彼の戦績は2勝1敗。残念ながら本戦のトーナメントには出場できず。
クラムとフローラは3勝をもぎ取り、見事決勝トーナメントへ。グレイスはまぁ、相手が悪すぎたのだ。
各ブロック(全部で4つ)の優勝者が決勝トーナメントに進むこととなっているため、今回はクラム、フローラ、アリス、そして件の王子の4名が出場する。我らが姉様はちゃっかり勝ち上がってきたようだ。
決勝トーナメント一回戦はクラムとアリス。二回戦は王子アーサーとフローラだ。
「いやぁ、弟君と戦う時がくるとはねぇ」
「勝てる気がしませんね…」
「あ、ちゃんと全力で戦ってね?大好きなお姉さん相手だからって、手加減しちゃダメだぞ!」
「は、はぁ…」
アリスのテンションには全くもってついて行けないクラムである。兎にも角にも、試合が始まった。
「では、行きます」
「うんうん!どんと来い、だよ!」
超高速でアリスに突進するクラム。彼女の『不可侵』には炎弾もトラップも意味がない。
剣を象どり、斬りかかる。目にも留まらぬ斬撃。試合開始からコンマ1秒も立っていないが、
「く、っ」
「乙女の首を狙うなんて、弟君は趣味が変だなぁ」
当たり前のように捕捉され、波動で吹き飛ばされる。
無意味だとわかってはいるが、陽動のためにクラムは炎の槍を数十本、アリスに叩きつける。
「効かないねぇ」
「…まるでイジメですね、これ」
「人聞きが悪いなぁ」
このままでは勝てない。まぁまず、王族に勝とうとした事が間違いなのだが。
この世界の王族は、権威だけでなく実力も皆素晴らしいものを持っている。魔法という絶大な力がある世界だ。統治者が力を持たなければ国は崩壊する。
だからこそ王族と貴族には、まして平民とは、実力に天と地ほどの差がある。『雲の上』とはまさにこの事。敵う道理がない。
「…これは」
「うーん、ここまでかなぁ?もう少し頑張って欲しかったけど、次の戦いに魔力を温存しておきたいんだ、ごめんね?」
王女の謝罪を受けながら、クラムは何十倍にも増した重力に押し潰されていた。無論、アリスの領域魔法だ。
(はぁ、当たり前の事実だが、セレシアに申し訳が立たんな、これは)
頭の中に愛しの聖女の名が浮かんだ、まさにその時だった。
声が、聞こえた。
「何をしているのですか!そんなところで負けてはなりませんよ!」と。
なるほど確かに、国と国との交流だ。聖王国に重要人物が出張ってきてもおかしくは無い。
力無く広げた指に、諦めかけていた心に、火が灯る。
クラムの手の甲に、日輪の文様が浮かび、背中からは炎の翼が、頭には炎環が現出した。
驚愕に目を開くアリスを捨て置き、彼としては珍しく叫び声をあげ、重力の束縛を打ち破った。
「えぇっと、弟君?なぁに、それ?」
アリスが困惑する。まぁ、当たり前だろう。平民だと思っていた彼が、神の使徒たる証、それこそ王族の中でも限られた物しか現出しないものを見せたのだから。
「わかりません。そして、申し訳ありませんが会長」
「う、うん。なぁに?」
「色々事情が変わりまして。この勝負、勝たせて頂きます」
「…ふぅん、大きく出たねーーっ!」
ちょっと嬉しくて、でも何故かイラっとして。そんな感情を抱いていたアリスの頭が、衝撃により現実に引き戻される。
王族の首根っこを掴み地面に叩きつけるなどという暴挙を行ったクラムだが、無論すぐ空中に打ち出された。彼はその後姿勢をうまく制御し、あろうことか空中で静止する。
「イタタ、押し倒すなら優しくだよ、もう!」
返答はない。代わりに、計り知れない熱を持った球体が、クラムの右手に現出する。
それは収縮を続け、アリスへ向けられる。投げるのか、と誰もが考えたが、火球は手の内で輝くのみ。
首を傾げそうになったアリスだが、直感が防御を選択し、更に在ろう事か、彼女に切り札を切らせた。
聖王国に伝わる秘宝、神剣アストレア。その力を振るえるのは王族か、王族の命を受け、魔力を譲り受けた臣下のみである。
アリスは出すつもりのなかった切り札を振るい、彼女の目前に現出した太陽を切り伏せる。
その一瞬の隙を突かれ、アリスはクラムに接近を許す。光のごとき斬撃で迎え撃つが、紙一重で届かない。
首元に剣が添えられる。首が火傷しないよう、丁寧に制御された炎の剣が。
「はぁ、油断しちゃった。負けだよ、弟君」
参った参ったと手をあげるアリスに、会場は歓声をあげるのではなく、騒然となった。




