13話 変な人と戦うことになった。
今回は長文です。
「いきなり招待されても困ります。しかるべき段取りを経てから、お願いしたいのですが」
「そういわれると弱いですねぇ。一刻も早くお呼びしたくて、ついついすっぽかしてしまいました。――さて、それではごゆるりと、永遠にお楽しみください」
「この何もない、花畑を、ですか?生憎とこういうものは見飽きているのです。もっと他のものはありませんか?」
仮面の魔法使いとアリスの会話。クラムは仮面のかすかな動きを察知し、臨戦態勢に入る。
「申し訳ありません、これしかないのですよ。『完成された理想郷』は」
「そうですか。ならば結構です、帰してください」
「生憎と、そうはいかないんですよねぇ。いやぁ申し訳ない」
「――アストレア聖王国第一王女として命令します。ここから出しなさい」
「『断る』――と、申し上げましたよ」
「もう一度だけ言いますが」
「くどいですねぇ」
「…っ、そうですか。では、『王族の命に背いた者の抹殺』という大義名分のもと――
『デート邪魔されたのが気に入らないので』あなたをここで処刑します、名も知れぬ魔法使い」
「あらまぁ、こわいですねぇ。まぁ、やれるものならやってみやがれ、と言いたいところですが」
なんだその理由は――と思いながらも、クラムは脳内から魔法を呼び出す。
先手はクラムだ。仮面の周囲から無数の炎弾が殺到する。
「そんなもの、効きませんよぉ」
「そうか。では、これで」
炎弾の爆風は仮面にダメージを与えられず。クラムは次の手に打って出た。啖呵を切ったアリスと言えば、自身が戦うつもりだったのだが『かわいい弟』が頑張ってくれるそうなので、現在のところは静観している。
炎の色が変わる。青白い揺らめきを見た仮面は微かに表情を変え、
「ほう?あなた、なかなかやりますね」
「はぁ、先生からいただいた魔法は本当に役に立つな」
炎を纏ったクラムの右手が仮面を指し示し、仮面が青白い炎に包まれる。
「ぐ…っ」
「ダメージは負わせられるようだな。この『霊炎』では。避けられない様だし、早々にして詰みか?」
だがしかし、こういった悪役との戦闘がそう簡単に行くはずもなく、
「まぁ、無駄ですがねぇ」
クラムの背後から仮面が現れる。――無傷で。
霊炎のトラップが起動し、仮面が吹き飛んだ。
「無駄ではないだろう。少しづつ削れているのがわかるぞ、道化」
「――くっ、随分と頭の回る小僧だ」
「邪魔して失礼したな。悪いが王女殿下には指一本触れさせない」
霊魂にダメージを与えられているため、表面上は無傷に見えても、このまま削れば残り数分だ。
その後も仮面は消えて現れてを繰り返すが、未来予知のように設置されたトラップに引っかかってダメージを負い続けた。
銀色の剣で切りかかってきたりもしたが、炎の剣で受け止め反撃を見舞う。相手もなかなかのものだがクラムには及ばない。
「くっ、このままではっ…」
「あぁ、終わりだ。大人しく降参したらどうだ?」
動けば動くほど消耗するが、止まると大打撃を見舞われる。動きは完全に読まれ、戦況は完全に掌握されている。
しかし。仮面の悪夢のような、明らかな『詰み』の状況を変えたのは、あろうことかアリスだった。
「――うーん。何だか任せっきりというのもねぇ。…弟君、交代。今度は私の出番!」
「え?…いやいや会長」
「弟君にかっこいい所見せたくなっちゃった。特等席で見ててね♪」
「え、えぇ…」
「お姉さん命令」
「は、はい…」
予想外の事態が起こり、王女が出張ることとなった。
「トラップは解除していいよ」
「はぁ、わかりました」
「よしよし、じゃぁ、お姉ちゃん頑張っちゃおーっと」
「――黙ってみていれば、随分と舐められたもの」
「はいそこ。黙ろうか?」
「なっ――」
話の途中で仮面が吹き飛ばされる。聖属性はこういった敵への対処に長けているため、恐らくは戦いにならないだろう。慌てて態勢を整えた仮面の周りに、領域魔法が顕現する。
「いたぶってもいいけど、弟君の前だからねー。パパっと決めちゃおうかな?」
「くそっ、こんな、容易く…」
「ちょっとこちらの戦力を甘く見すぎじゃないかな?自分の結界に誘い込んだからと言って、勝利が確定するわけじゃないんだよ?」
「ぐっ…」
「じゃぁそろそろ、処断の時間だよ。よーく悔い改めて、来世では頑張ってね」
「くそっ…我ら、『探索者』は、理想郷へと――」
「『浄滅領域』」
静電気が迸るような音がして、仮面の魔法使いが消滅する。
そこにある存在をすべて消されては、霊体だろうがどうしようもないのだ。
あまりにも呆気ないと言えば呆気ないが、彼は内心ひやひやしていた。――というのも、仮面が最後に、呪いや何やらのようなものを放って消えたからだ。
解除せず残しておいた霊炎トラップ(非炸裂型)に阻まれ影響はなかったが、おっかないとはこの事だ。
「何だったんでしょうね、あの仮面。咬ませ犬にしては道化が過ぎる」
「――『探索者』、ねぇ。一種の偵察かな、これは」
何か事情を知っていそうなアリスだが、聞いても答えてくれなさそうなので『探索者』については保留にしておく。
取り敢えず、少しの間彼女を送ることは日課になりそうだった。セレシアへの言い訳を考えておく必要がありそうだ――と、彼は考えていた。
これだけのことがあっても全く心がぶれないというところは、クラムの長所でもあり短所でもあった。百戦錬磨の『つり橋効果』も彼には無力であるようだ。
姉の恋路はかなり、遠く険しいものになりそうである――という言葉は、危険な目にあった後には不謹慎であるかもしれない。




