10話 仕事は楽しい。
「じゃぁ、今日はこの書類のチェックを」
「了解しました、会長」
入学初日から生徒会役員にされて早3週間。クラムの仕事ぶりは役員一同が認めており、彼の仕事量は日に日に増えていった。ーー彼のおかげで、生徒会から『残業』という言葉が消滅したほどに。
すっかり会長のお気に入りになってしまったクラムは、王女という宮廷魔法使いへの貴重なコネを入手していた。彼の夢はほぼ叶ったも同然なのである。
ただまぁ、必要以上に近寄られたり、弟扱いされて頭を撫でられたりするのはやめてほしいと、クラムは切に願っている。王女の匂いが染み付きでもしたら、聖女になんといえば良いか分からないのだ。
フローラも含め美少女2人からの誘惑(?)にも負けず、クラムは真剣に授業を受け、黙々と仕事をこなす。会計のモノフィー先輩が淹れてくれるコーヒーは素晴らしき癒しだ。
所謂『社畜』と成り果てているクラムは、今日も5人分に相当する仕事を終え、帰路につこうとする。グレイスを誘った喫茶店に寄るのは最早日課だ。顔パスで値段をまけてくれる程度には。
ただ今日は何か嫌な予感がしたため、アリスの誘いに乗り王城まで彼女を送り届ける事にした。喫茶店には後で必ず行こうと、クラムは思っていた。
彼の直感は必ず当たる。百発百中の『未来予知』だ。
アリス目掛けて短刀が飛んでくる。それを見もせずに吹き飛ばすクラム。
「先輩、ちょっと足を」
「いいえ、このまま帰りましょう?この程度、貴方なら大丈夫なはず」
「いえ、ですが危険では…」
「姉からの命令です」
「姉ではありません…」
何を考えたのか、並んで歩き談笑しながら暗殺者の攻撃をやり過ごせと命じる王女。
彼が志望する特務部隊の仕業か、数分で攻撃は止み、
「はい、到着!有難うね、弟君」
「ですから弟ではーー」
お褒めに預かり光栄だが、 額に指を当てて『むぅーっ』とするのはやめてほしいーーと、クラムは思った。しかしどうにも逆らえない彼は、何とも複雑な気持ちで喫茶店へと足を向けたのだった。
「中々の腕前だな、彼は」
「久方振りに『即戦力』となりそうですね、フレア」
「あぁ、全くもって鍛え甲斐がある。それに何やら、私と同じ雰囲気を持っているようだし」
「頼り甲斐がある人ですよね。身分さえ合えば、父上にも認めてもらえそうですが…」
「武勲を立てれば如何にでもなるだろう。暫し待て、アリス」
「そうですね…『御膳立て』、よろしくお願いしますよ」
「あぁ、任せろ」
アストレア聖王国宮廷所属、特務部隊隊長のエルフレア=フォン=スカーレッドと、第一王女アリスの会話である。
彼に課した『試験』の判定は合格。クラムの夢は、実はこの時点で成就していたのだが、本人がそれを知るのは大分後になるのだった。




