9話 この位常識だ。
「はいここ、火属性魔法の性質について、クラム君」
「はい。火属性魔法は他属性の魔法に比べ比較的詠唱速度が速く、相対的な威力も高いです。その為、戦場では火属性魔法の使い手が優遇されるという実情があります。同じ詠唱速度を持つ雷属性魔法は使用者が限られている上、高威力の魔法を放つことのできる人材はかなり希少である為、繰り返しますが『戦闘においては』火属性魔法の優位性は確立されているものだと考えます」
「…よ、よし。ありがとう、クラム君」
少々話しすぎてしまっただろうか。カーロン先生と小さい頃から議論していた結果であり、だからこそ火属性魔法一辺倒で訓練を続けていた。他属性は使えはするが、実戦ではモロ、火属性だけだ。
「火属性が本当に好きなんですね」
「あぁ、まぁな」
この瞬間、この教室にいる全員が、『クラムに火属性魔法の話を振ってはいけない』という共通の認識を持った。かなり簡潔にまとめられてはいるが、休み時間にでも振れば終わりまで拘束されるだろう。
属性について再確認する授業での1幕である。その他にもクラムの『暴走』は発生し、
「詠唱と無詠唱の違いについて、クラム君」
「はい。魔法は本来無詠唱で使用するものですが、詠唱を行う事により無詠唱に比べ正確な魔法の発動が可能になることは、既に知られている事実です。詠唱の他にも頭の中に魔法陣を記憶しておき、必要な時に詠唱を行わず確実に、迅速に魔法を発動させる『法式記憶』や、魔剣・聖剣の様に大規模な魔法を封印し、魔力を送るだけでそれを現出させることのできる『宝式封印』などの手法があり、現代では魔法の発動の正確性は、非常に高いものとなっております」
「魔法による身体強化について、クラム君」
「はい。魔法による身体の強化は魔法使いにとどまらず、騎士等の武闘派の人間にも関係する技術です。例えば走るという行為への強化ですが、足の筋肉を強化し速度を上昇させる方法と、『移動速度』という概念に干渉しその値を書き換える方法があります。身体強化は主に前者で、比較的簡単な手法のためかなり普及しています。後者は身体への負担が大きい他、『概念干渉』が出来る魔法使いが非常に限られている為余り普及していません」
などと、この一週間で彼の『地雷』は数十個に登り、最早彼に質問を吹っかける人間は隣のフローラ位となった。たまに熱心な先生が、彼と議論するためにゼミ室に呼んだりもするが。
ともかく、彼の魔法に対する『知識』は教師陣と真っ向から張り合えるほどのもので、同級生はおろか上級生すら太刀打ちできない程だった。首席の名は伊達ではないのである。
自らの博識さを存分にアピールしたクラムだが、そのせいで友人が出来にくくなってしまった事に対しては、誠に憐れとしか言いようがないだろう。
「なぁグレイス。クラスメートに話しかけようとすると、直ぐに去られてしまうのだが」
「当たり前だオタクが。もう少し簡潔に話せ」
「これでも簡潔に話している。このくらい常識だろう」
「お前の常識というのは他の人の常識とはレベルが違う事を自覚しろ。そんな風では、いくら経っても友人が出来んぞ」
「…そうなのか」
入学から2週間経って、この状況はようやく改善されたのだが、少し遅いと思うのは間違いではないだろう。




