プロローグ
「…は?」
「だから、私が聖女に選ばれたんだって!奇跡じゃない!?」
「有り得ねぇ…」
とある王国、とある村の教会前。
少年と少女の会話である。
「第一なぁ、お前のどこが聖女だよ。我欲丸出しじゃねぇか」
「なんですってぇ!?この私から溢れる聖なるオーラが、貴方には見えないの!?」
「守銭奴の間違いだろう。この国もけち臭くなるのか、嫌だなぁ…」
「なによ、もう!クラムなんて知らない!ばーか!」
「聖女の使う言葉じゃねぇ…」
何かの間違いか、聖女に選ばれてしまった少女、セレシア。…いや、『聖属性魔法への適正』という点においては確かに『天才』としか言いようのないものを持っているが、いかんせん性格がコレである。如何ともし難い。
セレシアの幼馴染である少年、クラムは驚くより先に、大いに呆れていた。だが、
「まぁ、頑張れ。聖女なんて大役、この国に数人もいねぇからな、うまくいけば沢山稼げるぞ」
「そうね!この国の誰よりもお金持ちになって見せるわ!」
激励の言葉は忘れない。これでも18年もの間、一緒にいたのだ。彼女の性格など、とうに慣れている。
そうして少しばかり時は過ぎ。セレシアが王都へ旅立つ日がやってきた。
「我らアストレア聖王国の、新しい聖女の門出である!」
騎士が叫んでいる。村人は拍手と歓声で送り、セレシアはそれに手を振って応える。何気に聖女面をしてやがるぞこいつ、とクラムは心中で苦笑した。
「がんばれよーー」
とだけ声をかけておく。彼女がそれに応えようとした時――-激しい頭痛がした。
よろめくのと、吐き気を必死にこらえる。側から見たら頭を押さえただけだ。お陰で返答が聞こえなかったが。
馬車が征く。返答は聞けず、妙なしこりを残しながら少年は家へと戻った。
思えばこの頭痛とは、今日が初対面だったかもしれない。
『長い付き合いになりそうだ。』と、漠然とした予感だけがあった――