4 一息Ⅰ
倉庫から脱出した後、俺と銀髪の少女は人通りのある場所に出た。
アレスたちが追って来られないように裏道をグネグネと走ったため、ここがどこかは分らない。
街の中心にある時計塔との距離から推測するに、倉庫からはかなり離れたはずだ。
「怪我はないか?」
息切れを起こしている少女に声を掛ける。
「は…………は、い…………。大、コホッコホッ…………。はぁー、大丈夫です。……ありがとう、ございます」
少女が落ち着くまで俺は待つことにした。
そこで一つ、気になったことがあった。
「……おい、あの銃はどうした」
取り返した銃が見当たらない。
最後に俺が見たのは倉庫で大砲になった時で、走っている間は見ていない。
落としたとか、置いてきたとかは勘弁してほしい。
「あ、それなら……」
少し落ち着いた少女が膝丈より少し短いスカートの裾をピラっと捲る。
白い太ももが姿を現し、そこに革のホルダーが巻かれていた。銃はハンドガンの形に戻っており、ホルダーにしっかりと固定されている。
これなら、外から持っているかどうか分からなくて当然か。
「きゃっ!」
少女が銃をホルダーから取ろうとした時、いきなり強風が吹いた。
少女がスカートから手を離した。自由になったスカートは風に吹かれてフワッと浮き上がる。白い何かが見えーーーーー。
ーーーーバッッ!!と少女がスカートを上から押さえつける。風はすぐに止んだ。
少女は顔を少し紅くしてこちらを見てきた。
「…………見ました?」
「見えたが、見ていない」
「見ていないんですね、よかったー……」
フー、と息を吐き、安堵する少女。しかし、すぐに「ん?」と考え始め、みるみる顔を紅く染めていく。
「って! 見たんじゃないですか! はわぁ〜……」
赤面しながら俺に向けて叫ぶと、身を屈めて塞ぎ込んでしまった。
「恩人さんだけど…………助けていただいたけどー…………はうぅぅ」
何やらブツブツ言っているが、放っておこう。
とりあえず、フェアとの約束は果たした。これ以上関わる必要はない。
俺は踵を返して、この場を去ることにした。
「あっ、ま、待ってください!」
少女に服の裾を掴まれ、俺は足を止めた。頭だけ動かして、少女を見る。
「なんだ」
「あ、あの………」
少女はモジモジして、なかなか話そうとしない。
焦れったい……。
「俺の用事は済んだ。じゃあな」
前へ向き直して、少女の手を振りきるように強く歩き出す。少女の手が裾から離れた感触が服から伝わってきた。
これでやっと飯を食べに行ける。
「あっ! うー…………もうっ! 待ってくださいってばっ!」
少女に後ろの襟元をしっかりと掴まれ、そのままグイッと後ろへ引かれる。
女にしてはかなりの力だ。
「おっ………!」
油断していたこともあり、俺の体勢が崩された。
やばい、後ろに倒れる。
俺は立て直そうと、右足を軸に身体を捻った。
よし、これで身体を起こせば…………。
「えっ、えっ!?」
「おいっ……!」
立て直そうとするも、少女はまだしっかりと俺の襟元を握ったままだった。
それにより上手く身体を捻ることができず、逆に体勢をより崩してしまう結果になってしまい…………。
「はうっ!」
結局、俺は少女を巻き込んで倒れてしまった。
「いっつつ……。お前なぁ」
なんとか腕を伸ばして、少女とぶつかることを避けることができた。
俺が少女を押し倒しているような格好になったが、まあいい。
俺はゆっくりと立ち上がり、砂埃を払う。
「危ないだろうが……」
「ご、ごめんなさい! ごめんなさい!」
少女が慌ててペコペコと謝ってくる。
元気なやつだ……。
「あの、それで……」
「……なんだ」
面倒だが、俺は少女の返答を待つことにした。
また何かやられてはたまったものではない。
「助けてもらった……お礼に、その、お食事でも……」
少女は上目づかいで俺に聞いてきた。
ふむ、このまま断るのも、これから食事処を探すのも面倒だな……。ふむ、どこか紹介してもらうとするか。
俺は考えた末に、誘いを受けることにした。
「そうだな。人気の少ないところで頼む」
「えっ! な、何をするつもりですか……?!」
少女は顔を紅くして、身を守るように両腕を胸の前で交差させた。
「…………はぁ」
俺は面倒なやつを助けてしまったかもしれない…………。
◇◇◇
お店に移動した私と恩人さんは、一番奥のテーブル席に腰を下ろした。
ここは最近私がはまっているところで、普段から人の出入りはほとんどない。今も私達以外のお客さんはいない。
人気の少ないところって言われたからここにしたけど…………。大丈夫かな。
注文を終え、恩人さんはゆっくりとお冷を一口飲んだ。
「今回は助けていただき、本当にありがとうございました」
恩人さんが一息ついたところで、私は深々と頭を下げてお礼を口にした。
感謝してもしきれないものだ。
「気にするな。それに礼はフェアに言ってくれ」
「フェア…………?」
「じゃ、俺は寝る……」
「えっ! あのーー」
恩人さんは腕を組んだまますぐに寝入ってしまった。なんて早い……。
まだお名前すら聞けていないのに……。どうしたら……。
どうしようか悩んでいると、テーブルに置かれた黒い小袋が目に入った。
「これ、何だろう?」
中身が気になり、手に取ろうとする。
ガサガサッ……。
「はうっ! な、何?!」
突然動き出した袋に私は驚き、伸ばした手を引っ込めた。
「もー、リュウちゃん。また紐を緩めずにー……」
「こ、声っ?!」
謎の袋の口がゆっくりと開かれていく。
え、何?! 怖いッ!
「よいしょっ、と。ふう、やっと出れたのです」
袋から小さな女の子が一人出てきた。私と似た銀髪で、背中に二枚の羽が生えている。まるで噂で聞いたことがある妖精さんのようだ。
……誰なんだろう。
「あっ、あなたは! 無事だったのですね! よかったのです〜」
この子は私のことを知っている?
「フェアはフェア・クローバーなのです。よろしくお願いしますなのです!」
あ、もしかして……。
「あなたが、フェア……ちゃん?」
「はいなのです」
フェアちゃんは笑顔で頷いた。
「あなたの名前は何ですか?」
「あ、私はリリー・ホワイトライト、です。……リリーって呼んで下さい」
反射的に答えてしまった。
「はいなのです、リリーさん」
ここで会話が止まってしまい、妙な間が生まれた。
フェアちゃんは首をかしげて、不思議そうな顔をしている。
「あの、もしかしてリュウちゃんから何も聞いていない……のですか?」
リュウちゃんって、恩人さんのことかな?
「えっと、何も……聞いてない、です……」
フェアちゃんはあきれたようにため息を吐いた。
うぅっ、私……何か間違ったかな?
「あっ、ごめんなさいなのです! このため息はリュウちゃんに呆れただけであって、決してリリーさんに向けたものでは……!」
フェアちゃんが慌ててフォローを入れてきた。あたふたするフェアちゃんが可愛いく見えた。
そんなフェアちゃんが可笑しくて、私はクスッと笑いをこぼしてしまう。
笑いを抑えようとするも、フェアちゃんの姿がまぶたに浮かび、堪えることができない。
そんな私を見て、今度はフェアちゃんも笑った。それにつられて私も笑ってしまう。
……警戒していた私が馬鹿みたいだ。
少しの間、二人の笑い声がしんとしていたお店を優しく支配した。
次回、食事の続きと『学園』について少し触れます。




