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紅蓮の挑戦者  作者: 水谷 空
入学式編
4/45

3 救出


「誰だ、お前!」


 少女を押さえていた男が立ち上がり、叫んだ。俺は男を無視して、状況を把握するためにもう一回中を見渡す。

 少し先に大剣を持った男、その足元に目的の少女、隣にローブを羽織った怪しい奴。それと、外から確認できなかった木箱の上に男が二人立っている。


 ……ふむ、まずは少女の安全が最優先か。


「誰だって聞いてんだよッ!」

「あっ、アレス殿!」


 大剣ーーバスタードソードを構えた男が俺に向かって突っ込んできた。どうやらアレスという名前らしい。見た感じ足はさほど早くはない。


「『加速アクセル』!」


 俺が懐から刀身のない赤い柄を取り出したところで、アレスが何かの魔法名を口にした。


 アレスの全身に青い光が漂い始め、遅かった動きが加速された。


 速度上昇系の魔法か。


 俺は落ち着いてそれを見てから、手の甲にある『印』に意識を集中する。それに呼応して『印』がほのかに光りだす。


「おらっ!」


 間合いに入ったアレスが速度を殺すことなくバスタードソードを上段から振り下ろしてきた。

 細かいコントロールはできないだろうと推測し、俺は身体を少しだけ横にずらす。すぐにバスタードソードが俺の横を勢いよく通り過ぎ、地面を破砕した。


「避けるな!」


 そんな無茶な。…………おっ……。


 ドクンッと俺の中で何かが鼓動した。どうやら完了したようだ。


「『加速アクセル』」


 俺もアレスと同じ魔法名を発声する。同様に白い光が身体を覆う。


「お前、その魔法……ッ!」


 何やら驚いているようだが、今は無視。少女の安全確保が優先だ。


 右足に身体の重心を傾け、一気に地を蹴る。そして、勢いをそのままに二歩目を踏み込む。魔法の補助もあり、一秒と掛からずアレスから遠ざかる。


「チッ! 待てやぁ!」


 離れる俺に反応してアレスがバスタードソードを力任せに振るってきたが、俺を捉えきることができずに空を斬った。ズドンとアレスが倒れる音も聞こえた。音からしてすぐに追ってはこないだろう。


 というか、…………下手くそ……。


 自分の武器に振り回されているようじゃあ、まだまだだ。それに、この魔法はお前には合ってない。


 重心移動が大事となるバスタードソードと速度を上げる『加速アクセル』の併用は悪手。足元がもたつくことは目に見えている。


「く、来るな!」

 

 俺が接近したことで背の低いローブの奴が慌てふためく。


 目立った武器を持っていないため『加速アクセル』の速度を利用し、ローブの奴に跳び蹴りを決める。

 俺の足は見事に腹に決まり、ぎゃっという声が聞こえた。


 蹴りを決めた俺は、身体を少し捻り慣性を殺してから着地した。遅れてローブの奴が直線上にある木箱にぶつかった。


「(あ、あなたは……………)」


 困惑の色を浮かべている少女がパクパクと口を動かして、何かを伝えようとしてくる。


 ……声が出ないのか?


「説明は後だ」


 彼女の声が出ないこともあり、いろいろと面倒なので説明は後回しにした。それを察してか、少女はコクリと頷いた。


 俺は手にした赤い柄を少女の手足を拘束している縄の前に出す。

 柄だけでは使い物にならないので『力』を発動。


 『印』が光り出し、ほぼ同時に赤い柄へ刀身が生成されていく。

 刹那の時間で刃渡り約七十センチほどの刀身が出来上がった。

 俺の刀『紅葉もみじ』の本来の姿がここに現れた。


 俺は生成した『紅葉』で少女の手足の縄をすばやく切る。


 これで少女も少しは動けるだろう。


「おいお前。武器か魔法を使って少しは戦え」


 俺が庇いながら戦ってもいいが、それはそれで面倒だ。少女にも少しは協力してもらうことにする。

 けれど少女は慌てて手のひらをこちらに向けて振ってきた。


 もしかして………… 。


「……武器、ないのか?」


 少女はぶんぶんと首を縦に振り、木箱の上を指さした。その先には一人は剣、もう一人はハンドガンを握り、警戒体制を取っている。

 少女の指の先にはハンドガンが示されていた。


「あれか………」


 この状況からして逃げることを優先するべきか否かを考え、俺はハンドガンの奪還を決定。


 俺はフェアと『できればみんな怪我がないように』と約束した。約束したからには守る。それが俺のモットーだ。


 俺が油断することは絶対にない。それでも、もしもの時に備えて少しは彼女自身に自らを守ってもらう必要があると判断した。


「絶対に俺から離れるなよ」


 俺の後ろに回って小さく縮こまった少女はこくこくと頷いた。


「やりやがったな、てめぇ!!」


 そうこうしているうちに放置していたアレスが激情し、攻めてきた。木箱の二人もアレスが攻めるタイミングに合わせて動き出した。


「うわ、面倒…………」


 三人まとめて、しかも一人は飛び道具……。


 少女のこともあるので、俺はここで三人を迎え撃つことにした。


「『探索サーチ』」


 俺はまた『力』を発動させた。

 『印』が輝き、不可視の領域が俺を中心とした大体半径一メートルの半球状に広がった。

 領域の展開が完了したのを確認しつつ、『紅葉』を構え、息を吸う。

 

 スーーーーー……………。


 俺の意識は世界をゆっくりと捉え始める。


 始めに領域内に入ったのは、木箱の上にいた男が振るってきた剣。俺は斜めに振り下ろされた剣めがけて…………ではなく、剣を握る男の手に向けて的確に『紅葉』で峰打ちを入れる。男は衝撃に耐えかねて手から剣を落とす。

 剣が手から離れる瞬間、ハンドガンの鉛弾三発が領域に侵入。このタイミングでは、『紅葉』を振り上げ直している間に命中してしまう。

 そこで俺は『紅葉』の刀身を消した。

 柄だけとなった『紅葉』を流れるように弾道上に引き寄せる。それからすぐに刃を生成して、その刃で一発目を右に、二発目を左に受け流す。三発目は顔を右にずらして回避。

 次にバスタードソードを持ったアレスが近づいてきた。


 まだアレスは領域には入ってきてはいないが……。


 俺は、領域内でバスタードソードを振るわれると後ろの少女が危険だと即座に判断。

 剣を落とした男の腰を『紅葉』の峰で打ち、男がひるんだ隙に空いている左手で男の襟を掴む。そのまま左足を軸に一回転し、アレスの足元に向けて放り投げた。男は見事に狙い通り飛んでいきアレスの体制を崩した。そのままアレスはバランスを立て直せずに、いとも簡単に倒れた。


 バスタードソードによって重心が変わっており、なおかつ『加速』により動きが直線的になっていたため倒しやすいのなんの……。


 最後にハンドガンを持つ男に向かって『紅葉』を投擲。俺自身も後を追うようにして走る。

 ハンドガンの男は、俺が武器を手放したことに動揺したのか急いで引き金を引いた。照準を合わせないまま放たれた弾丸は的はずれな所に着弾。

 『紅葉』が男の顔スレスレを通過して、木箱に刺さった。男は『紅葉』に驚きつつも、なんとかしてもう一度ハンドガンを構え直す。しかし、時すでに遅し。

 俺は男の前で踏み込み、男の手元を狙って蹴りを放つ。蹴りは綺麗に決まり、ハンドガンをほぼ正確に少女の方へと飛ばすことに成功した。念のため足を入れ替え、男も蹴飛ばしておく。


 よし、完了。ーーーー離脱。


 刀身を消したことで落下を始めた『紅葉』をキャッチし、少女の元へ戻る。


「行くぞ」


 入ってきた所から出るにはアレスの横を通る必要があるので、俺は反対側の壁を指して少女に合図する。しかし、少女はハンドガンを手にしてへたりこんだまま動かなかった。


「あーもー!」


 面倒なので少女の手を掴み、強引に立たせて連れていく。あとはここから出るだけだ。


「待てや…………! ーーーーゴラァッ!!」

「え……ッ!」


 あと少しで壁に到着するところで、アレスが叫んだ。それだけならば俺も無視できた。が、今回ばかりは無視できないこととなった。


 なんとアレスが倒れた状態から無理矢理バスタードソードを俺たちに向けて、投げてきた!


 風をきりながらこちらに向かってくる巨大な刃を見て防ぐことは不可能と直感し、咄嗟に避けようとした。その時ーーーー。


「い、嫌ーーーーーー!!」


 声が出ないはずの少女が叫び、持っていたハンドガンが姿を変え始めた。

 大きさはどんどん大きくなり、最終的に大砲サイズまで変形した。

 バスタードソードがあと数センチで当たるところで、ドコンッ!と大きな音を鳴らして黄色い魔力弾を打ち出す。魔力弾はバスタードソードを呑み込み、延長線上のアレスに被弾。砂埃と風が舞い、轟音が倉庫に反響する。

 

 うわぁ…………って、見てる場合じゃない。


 突然のことで足を止まってしまっていた。俺はすぐに目的を思い出して少女を連れて壁側に行く。

  俺は少女に一歩後ろに下がるよう指示し、『紅葉』の刀身を生み出す 。


 そして、奥の手を使っての脱出を試みる。


「『紅葉狩り』!」


 キンッと、甲高い音と共に金属の壁に人が通れるぐらいの出口が出来た。

 暗いところにいたせいか、差し込んでくる明るい。外の光がとても眩しく感じる。


 ……四の五の言ってられないな。


「急ぐぞ」

「は、はい!」


 最後に倉庫内からアレスの怒号が聞こえたけれど、俺と少女は一目散にその場を後にした。


次回、リリーとの食事。


今回に戦闘シーンでおかしな点・不自然な点などがあれば遠慮なくドンドンご指摘ください。次回に活かし、クオリティーを上げていけるように精進します。

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