13 試合 ーハルカ&ナツミ後編ー
「リュウヤさん、助けてー!」
「はあ......」
逆さ吊り状態のリリーが五月蝿い……。
俺は『模倣』で生み出した剣で、リリーの足首に絡まったツタを斬った。
「ワワワッ! ......イテテ、ありがとうございます、リュウヤさん」
「礼はいいから下がってろ」
アウト判定になったリリーは試合に参加出来ないため、ここにいられては邪魔だ。
「あ、はい。すみません、リュウヤさん。頑張って下さい!」
それだけ言い残して、リリーはトコトコと離れた場所まで移動した。
......さて、どうするか。
霧を『紅葉狩り』で消したことで視界は開けた。けれど、形勢はかなり悪い。
相手は二人、こちらは俺のみ。それだけでなく、向こう側は『探索』によって俺の場所を掴んでいるのに対して、俺はまだハルカもナツミも見つけられていない。
こうなったら、実力勝負だ。
俺は腰を落とし、剣を構える。ふぅ、と息を吐く。
魔法に頼るのではなく、気配を感じ取る。気配だけでない。風の流れ、草木の動きや音など視覚と聴覚も研ぎ澄ます。
少しの間があった後、『印』がまた反応した。俺はすぐさま周囲を確認。背後からリリーを捕まえたツタが、こちらに伸びくるのを認識した。
右足を軸に身体の向きを変えて、上段から剣を振る。ツタを両断してから、俺は後方へ移動する。
斬ったツタは、短くなりながらもまだ俺を追いかけてきた。斬るのではキリがないので、『模倣』を発動。同じツタを地面から生み出す。
逃げながらの操作は難しかったが、なんとか追ってくるツタと生み出したツタを絡ませることに成功。ツタの無力化はこれでいけそうだ。
ふう…………ッ!!
足を止めて息を整えようとしたら、頭上の木の枝から殺気を感じた。
咄嗟に上を見ると、ダガーを手にしてハルカが物凄い勢いで飛び降りてきた!
俺は無理やり横へ飛び退き、なんとか回避。しかし、着地する際に草に足をとられ、体勢が崩れた。
空振りに終わったハルカは、手を緩めることなく俺へ追撃を仕掛けてくる。
……『模倣』ッ!!
今のままでは追撃を避けることはできない。そこで、『模倣』を発動させてツタを生み出し、ハルカへと向かわす。
「『アポロン』!」
ハルカは速度を落として、腰に携えた剣の柄に触れた。すると、俺のツタは激しく炎をあげた。
ハルカが減速した隙に、俺は素早く体勢を立て直す。
ツタはあっという間に灰と化し、ハルカは追撃を再開。俺の肩口を狙って、タガーを突いてきた。
俺は腰を低くして、手にした剣の腹を使い、ハルカのダガーを反らす。
そして、向かってきたハルカの勢いを利用しつつ、ハルカの腹に向かって蹴りを繰り出す。
ハルカは動揺することなく、俺の蹴りに連動するように後ろへと跳躍。予想していたかのように、華麗に避けられた。
……逃がすか!
逃げたハルカに向けて、ツタを三本伸ばす。狙うはリリーが捕まった時と同様に足首だ。
「『アポロン』!」
……まあ、焼かれるよな。
「『自然:アイヴィー』!」
ハルカばかり意識していると、右辺りからナツミの声が聞こえた。
『印』が輝き、前方からツタが地面から二本伸びてきた。
先程と同様にツタで応戦することを考えたが、今回のツタは動きが早いため間に合いそうにない。
「『加速』」
俺は魔法で身体を加速させ、ツタが追いつけない速度でナツミがいるであろう右方向へ移動する。
先に厄介なナツミ本人を倒すことにしよう。
「させない!」
ハルカがナツミを追う俺に向かって、何を放ったのが見えた。
はっきりとは見えなかったが、お得意の炎では進行方向先にいるナツミを巻き込む可能性があることから、手にしたダガーだと推測。
俺はツタを大量に生み出して、背後に壁を設置。これでダガーは飛んでこまい。炎だった場合は逃げ切るのみ。
足を止めることなくナツミを探すと、チラリと見覚えのある服が映りこんだ。方向転換して、その後を追う。
「…………リュウ、ヤ……っ!!」
俺はすぐにナツミを発見。といってもまだ距離はあるので、俺は手にした剣をナツミに向けて投げる。当てることは意識せず、脅しとして。
「……ッッッ!! 『自然:ウォール』!!」
魔法名を口にして、ナツミは地面に手をつけた。触れた所の地面が勢いよく盛り上がり、一枚の土壁がナツミを守るように出現した。
俺の飛ばした剣は土壁に衝突し、少しだけ土を削った。
それを見た俺は、土壁は破壊可能と判断して、『模倣』でバスタードソードを生成。両手で持ち、身体の捻りを効かして土壁に向けて投げた。
二つがぶつかるドゴッ、と鈍い音と共に土壁は瓦解し、ただの土の山となった。バスタードソードも勢いを殺され、土の山の傍に落ちた。
土壁が無くなったことにより、ナツミの姿を再び捉えた。
俺はすぐに剣を生成して、一撃を加えようと接近する。
「『アポロン』!」
そこに、追いついたハルカによる火球が飛んで来た。
俺はすぐに接近を中止。しかし、火球がぶつかるまでに身体の慣性を殺しきれそうにない。
なので『模倣』によるツタを使って、自分の身体を後方へと引っ張る。火球は俺の目の前を通り過ぎ、ブルムシュカの木に衝突。木に燃えうつることなく、火球は消えた。
「大丈夫、ナツミ?」
「うん、ありがとう。お姉ちゃん」
しまった………。
俺がツタを解き、体勢を戻している間にハルカとナツミが合流してしまった。
これは……かなり面倒になった。
リリーがおらず、二対一。ここまでは擬似的な一対一に持ち込むことでなんとか凌ぎることができていた。一人一人相手をする分には問題はない。
けれど、合流されては別だ。
ダメージ覚悟でやり合えば勝てるだろうが、この試合のルール上、ダメージを受けることは負けとなる。
「どうする、リュウヤ。……続ける?」
ハルカが炎が出る柄を構えて、俺に問いかけてきた。
ナツミも万年筆のようなものを手にして、こちらを見てきた。
ふむ、本当にどうしよう。
俺の今回の目的は、ハルカとナツミの実力をこの目で見る事。別に勝つ必要はない。負けたからといって、特に失うものもない。
俺としては、二人の実力を肌で感じることができた。つまり、目的は達している。
二人にはまだ奥の手がありそうだが、それは今知らなければならないことではない。
総合的に考えて、俺が導き出した答えはーーーー。
「いや、今日はここまでだ」
俺はすんなりと試合を降りることにした。
「そうね。日も沈み始めたし、続きはまた今度にしましょう」
ハルカはナツミの頭に優しく手を置いて、武器を収めた。
……続きなんてやらんぞ、面倒くさい。
「お疲れ様なのです! みなさん!」
「お疲れ様〜」
俺が『模倣』で生成した剣を消したところで、審判をしていたフェアと離れていたリリーが近づいてきた。
「ああ、お疲れ」
俺は近寄ってきたフェアの頭を撫でた。フェアは大人しく俺の手を受け入れて、「えへへ……」と声を漏らした。
「リュウヤさん、先に負けちゃってすみません……」
「気にするな」
「でも、次こそは負けません! 私、もっと強くなりますから!」
だから、次はないからな…………。
次回、寮に住みます。