グランド・ゼロ
1945年8月6日午前8時15分―――日本、広島。
第二次世界大戦はここ日本で最終局面を迎えようとしていた。
それは大量虐殺。日本軍の意思を、いや日本人の意思を砕こうとした暴虐の蹂躙であった。
米軍の圧倒的な物量による沖縄占領に加え、最後の鉄槌とくだされる一撃。
それは科学の神の怒りとした炎による殲滅である。
その日、人類で初めて原子の炎が兵器として燃えた。
生きとし生けるものすべてがその炎によって燃やし尽くされ、汚染された灰が舞う。
まさにそこは阿鼻叫喚の地獄であった。
一瞬にして蒸発した者は幸いである。彼らは痛みどころかそれが一体何であったかさえ知る間もなく消えた。熱をただの光としか感じず、彼らの肉体は分子にまで分解され爆風によってこの世界の一部と散った。
爆心地からそれた者は地獄である。
体のほとんどを炭化させ、水分を失った黒いミイラが無数に散らばっている。
この世の地獄。
怨嗟も、悲鳴もあげられずただ光によって分解、死滅させられた者。
放射能によって水を求め苦しむ者。
煉獄と表すならそれはまさに神の怒りによって燃やされる罪人たち。
だが、彼らは罪人であろうか?
彼らはただ生きていただけである。攻撃した者も攻撃された者も等しく人間であり、どちらもまた善人であり罪人である。
では何が彼らの運命を分けたのだろうか?
そこに横たわった運命とは何であろうか?
答えなど疾うに決している。
そこに横たわるのは力である。
力とは技術であり、数であり、資源であり、それらを統括する暴力がその二つを分かつ。そこに罪などない。大義などない。
ただ力もって勝者と敗者を分かつ機械的な作業である。
その力が神に与えられたというのならば敗者とは確かに罪人であろう。
されどそれは神ではなく人が得た力ならば、その善悪とは何に由来するのであろうか。
答える者などいない。その由来はただ結果のみ。
力を得た者こそが勝者であり善。
得られなかった者が敗者であり悪。
それが世界の法則。
神以外の何者にも犯されざる世界の法則の一つである。
「たぁ・・・」
すけてと声にならない呻き声が小さく消えた。
炭化させた枯れ木のような手を掲げた少年は、焼けて固着した声帯をなんとか震わせて天に目を向ける。
いや、それは正しくない。
彼はただ手を伸ばしただけだ。熱風を受けその眼球のタンパク質が凝固し、白濁している。
彼は見えていない。彼には何も聞こえない。
ただ全身を責める激痛と暗闇の中で手を掲げただけである。
無常。それを一言で表すならそうなるだろう。
その少年はその生を謳歌していたにすぎない。たとえ、戦時下で貧困に喘いでいたとしても全身に火傷を負い、激痛の中で助けを求めなければならないほど彼は何もしていない。ただその場にいた。たまたまその場にいたからこそ彼は今助けを求め、光のない目で天を、死の灰が巻き上がるその空を見ていた。
悲痛だった。
彼はまだ生きたいからこそ助けを求め手を上げる。その手を上げることでさえも想像を絶する激痛が彼を襲おうとも彼は天に助けを求めている。
されど、死が支配する焼け野原でその手を、その助けとなる者などいない。
すべて少年と同じく、いや少年はたまたま分厚いコンクリートの建物の側にいて生き残れただけである。他の者は皆一様に黒い炭となって朽ち果てていた。
ならばそこには生きた生命は存在しないことになる。
千度を超える熱風と放射能に晒されて生き残る生命体などこの世にはいない。
故に彼が手を伸ばしたのはただの徒労にすぎない。痛みを背負い命を零したに過ぎなかった。
数分後、彼の命は絶望と激痛の海に沈む。
運命は彼を見捨てていた。
「・・・・・・・・・」
だがその少年の手を握る者がいた。
破壊尽くされ、あらゆる生命が致命的な火傷を負ったその場所で、何者かの大きく温かい手が少年の手を握ったのである。
「天照皇太神の宣わく、人は則ち天下の神物なり、須らく掌る静謐心は則神明の本主たり、心神を傷ましむること莫れ是の故に―――」
その人物、仏頂面を崩さず、一文字に口を引き締めた男が祝詞を口に刻む。
耳に諸の不浄を聞きて、心に諸の不浄を聞かず
鼻に諸の不浄を嗅ぎて、心に諸の不浄を嗅がず
口に諸の不浄を言いて、心に諸の不浄を言わず
身に諸の不浄を触れて、心に諸の不浄を触れず
意に諸の不浄を思ひて、心に諸の不浄を想はず
六根を清浄し、身に潜む執着―――此処でいうには痛みと絶望より救う祝詞。
揺るぎない鋼の声で厳かに地獄に響き、祝詞ともに少年から苦痛の表情が消えてゆく。
朗らかで幸福な死が彼の身を包んでいった。
「為す所の願いとして成就せずといふことなし、無上霊宝、神道加持」
祝詞が締めくくられたときには少年からすべての力が抜け、息を引き取った。
脱力し、男の腕には枯れ木のような少年の亡骸だけが残る。
「・・・・・・・・・」
男は無言でその様子を見ている。
日本帝国軍の軍服を身に纏った偉丈夫。それは古代の武人を思わせる芸術的な筋肉と巌のような巨大さであった。
声はなくとも、涙はなくともその背中が丸められ、慟哭にむせび泣く獣のようであった。
「気は済んだかい? 無常」
傍らからその一部始終を見ていた女がつまらさそうに煙管をくゆらせながらそう聞いた。
艶やか。魔に魅入られそうになるほどの妖艶な女。惜しむべきはその半分の相貌に爛れた無残な傷跡。それを隠すために左半分を長い髪で覆っている。
「・・・」
無常と呼ばれた男は立ち上がる。
「ちっ。なんで私がこの男と。まあいい。少佐がお待ちかねだ。私たちの損耗率を確認したいとね」
熱気の中、肩にかけた彼女の軍服がはためいている。しかし、その軍服の中には決して人が見ることができない暗闇。闇がわだかまり、固形化していた。
無常は女の言葉を聞いても無言であった。ただその前を歩き、女はその姿に舌打ちする。
「つくづく面白くない男だね。任務とはいえ、原子爆弾の直撃を受ける試験でこんな男と心中しかけたと思っただけで虫酸が走る。ああ、忌々しい灰だこと」
空から舞い降りる黒い灰を払いながら女は、煙管をたたいて灰を捨て、無常とともに爆心地へと歩き出した。
「あはははははは!」
哄笑が地獄に響き渡った。
巨大な黒い鎧。人の丈を数倍にしたような鎧が動き回り、暴れていた。
破壊。
これほどその行為が似つかわしい存在はなかった。
原子爆弾が神の怒りとすれば、それは小規模の暴風といったところである。
熱と爆風で瓦礫と化した建物に追い打ちをかけて、更地にしていく人型の巨大兵器。戦国時代の武者鎧を模したその人型兵器は、巨大な太刀を操り、棍棒のように振り回し、瓦礫や遺体もかわまずに地鳴りと共に一切合切を粉砕していく。
そしてその鎧から聞こえる声は、その巨悪な姿に似つかわしくない少女の声。西洋の天使の歌声といっても過言ではないほどの美しい声で破壊を繰り返す。
「死ね死ね死ね死ね!!! 弱い奴らはみんな死ね!!!」
武者鎧の兵器が折り重なった遺体ごと太刀で両断する。
此処が地獄なら地獄の番人、いやそれ以上にそれは人に対する増悪が人の形になった悪鬼。
「零亜、彼らもまた日本国民。私たちが慈しむべき国民ですよ」
そこに涼やかな、このまだ冷めぬ高熱と死の地獄に似つかわしくない声が響く。
暴れ回る武者鎧に微笑みを浮かべる一人の女性がいる。
軍服の上から豪奢な羽織衣を着込んだ優しい雰囲気の女性。眼鏡越しの大きな瞳とその下の泣きぼくろが朗らかに緩んでいた。町中、それこそどこぞの喫茶室で会えば間違いなく男が振り向くほどの大和撫子。
妹の戯れに微笑んで注意するような温かい声。
だが、その暴れ回る武者鎧とこの地獄ではあまりにも不釣り合いであった。
戯れ。
この世がすべて自分たち姉妹の戯れのように微笑みを浮かべていた。
その声につられて武者鎧も動きを止めて姉を見る。
「ねぇちゃん。でも弱い奴らはみんな非国民だろ?」
「ああ、そうでしたね。じゃあ構いません」
彼女はそうでしたと口元を緩めて笑う。
その言葉に喜んだ鎧武者はさらにはしゃいで笑う。笑って破壊行為を純粋に楽しんだ。
「もう零亜はしかたないんですから」
公園で遊ぶ妹を見るように彼女は、くすりと笑って一瞬はたと気がつく。
「ああ、零亜。少佐がお呼びです」
「えー、もう?」
薪割りのように瓦礫の山を一刀で切断した鎧武者から非難の声が上がった。
「ええ、八咫烏さんから連絡がありました。行きましょう」
「ちぇっ。しょうがないなぁ」
身長差およそ四倍以上になる姉妹は、悠然と瓦礫と死の地獄を歩き始めた。
「だりぃ」
瓦礫の上でだらしなく男が寝転んでいた。
そこもまた熱が冷めやらぬ地獄である。中心地からそれていたとしても千度以上の炎が吹き荒れた大地は鉄さえも赤く染まっていた。
着崩した軍服。野卑な顔つきと無造作な髪を爪でがしがしと掻きながら男がやる気なく呟いていた。
「といいましてもなぁ。これも任務でっしゃろ?」
そこに関西混じりの方言が鼻につく言葉が混じった。
「おい、狐顔」
「なんですかいな、狼さん」
皮肉には皮肉で返す。狐顔と呼ばれた男はクツクツと笑いながら狼と呼んだ男に聞き返す。
確かに狐顔。目が細く、輪郭が鋭い。人を小馬鹿にしたような笑い方は狐が人を化かした笑いそのものだ。
「飽きた。俺を殺せ」
不意に狼が呟いた。
ほんの気まぐれのような声色で、物騒なことを言う。
「またですか? あんさんはいつも同じことを・・・」
あきれた顔で狐顔は肩をすくませる。
空、巨大なキノコ雲があたりを薄暗くさせるその悲惨な光景をみつつ狼はなおも続ける。
「いいから殺せ。そうじゃなきゃ俺が―――」
べしゃりと熟れた果実がつぶれる音とともに赤い血しぶきが瓦礫に飛んだ。
狼の顔が不可視の鉄槌を食らったかのようにきれいにつぶれる。骨も脳漿も、眼球も、肉片と血の海に沈んでいた。
即死。あまりにもあっけない死。
原子爆弾の爆発を耐えた肉体があっけなくつぶれた。
「ほら、殺しましたよ」
まるでつまらない手品だとでも言うように狐顔は軽く告げた。
「かはっ・・・だぐ、んなんで死ぬかよ」
だが狼は死んでいなかった。
つぶれた肉片がべりべりと瓦礫からはがれて、元の顔へと再生していく。顎、舌で言葉を発し、瞬く間に皮膚のない筋肉だけの顔。それは再生ではない。まるで時間を逆再生したような速度だった。
「はいはい。原子にまで分解しても再生するあんさんを殺す方法なんてあるわけないでっしゃろ」
「使えねぇ似非関西人が」
再び元の顔をした狼が不満げに顔を曇らせる。
「まぁまぁ。そろそろいきましょ。八咫烏さんが呼んでますよ。集合でっせ」
「ちっ・・・なぁ狐顔」
「はいはい」
「少佐はいつ俺を殺してくれるんだろうな」
「さぁ? ワテも少佐のことはわかりませんからねぇ。そのうちじゃないですか?」
「そうか・・・まぁそうだろうなぁ」
「ほらほら。そんなにダラダラしていると狼から亀になりまっせ」
「ったく」
狼はのろのろと立ち上がると、軍服のポケットに手を突っ込んだまま瓦礫から降りた。
狼と狐。
人を喰らう者と人を誑かす者。
二人はさらなる地獄へと歩き出した。
「ぬるい」
地獄の中、一人の男が呟いた。
佩刀した日本帝国軍の軍服を着込み、整えられた総髪に鋭い目は嗤っていた。美麗と言えば間違いではないがそのあまりにも狂気じみた瞳が彼を怜悧な妖刀のような印象に変えている。近づけばすなわち斬られる。そんな鬼気迫る面である。
そこは爆心地。
灼熱の原子の炎は百万度にも達し、爆心地表面では四千度にもなる灼熱の地獄。
グツグツといまだ煮えたぎる大地、爆風と急激な気圧変化であらゆるものが更地へと化した地獄の奥底。
今もなお原子爆弾の熱によって地面は溶岩のように煮えたぎる場所で、平然と立つ姿は異常であった。
「八咫烏、試作念転防御壁の損耗率は?」
冷えてもまだ千度。アスファルトが融解し、地面からの熱気で陽炎のように空気が揺らめく中、男は陽炎からゆらりと近づいた黒い鴉のような人物に声をかけた。
「試作防御壁の損耗率は8割。今回の実験結果で改良すれば問題ない範囲かと」
「それは重畳。部隊員の損耗率は?」
「生体反応に異常はありません。目視での確認を推奨します」
「ならば収集しろ。陛下へのご報告は?」
「完了しています」
「そのお心は?」
「恐怖。完膚なきまでの恐怖に支配されています」
男は目をつむり、額に手を当てる。
その八咫烏の言葉に男は静かに口を開く。
「やはりな。我らが崇め奉る神は所詮人間であったか。ならば答えは出た」
男は、少佐と呼ばれたこの異常な部隊の首魁は視線をその地獄へと向ける。
「我ら軍人のなすべきことはなんだ? 八咫烏」
少佐は傍らの八咫烏へ語りかけた。
その答えは決まっている。聞くまでもない。
されどそれを問いかけることにこそ意味があると言うように。
「勝利です。勝利し、この国を守ること」
「然り。その通りだ八咫烏。我らの責務は勝利を天皇陛下に捧げること。故に、負けることなんぞ言語道断。我らはそのために死を克服したのだ」
悠然と少佐は手を広げる。
「ならばこれは何だ? この有様は何だ? ここには死しかない。ここには我らが守ろうとした国民の死しかない。これが我らが望んだことか?」
「いえ、違います」
「その上に陛下は降伏するとおっしゃる。神である天皇家の家系が白い猿に頭を下げるなどとは…許せざる我ら、いや日本への裏切りだ」
少佐の声が冷徹に言い切った。
「我らの答えは勝利である。人間に屈する程度の神ならば我らが弑逆しよう。神の座を奪い、我らが勝利を敷こう。勝利と繁栄をこの国に掲げよう。我らに敗北の二文字はない。それは闘争を諦めた力なき者の選択。生命としての進化を止め、隷属する奴隷だ」
揺らめく陽炎。
少佐が目向ける陽炎の地平から揺らめく影が現れた。ひとり、またひとりと少佐の前へと進み出ておのおのの敬礼をする。最後、やる気のなかった狼が集まったとき、その部隊はそろっていた。
「総員傾注」
八咫烏が静かに命じる。
その部隊を見つめ少佐は鋭く声を上げた。
「我ら第四十四試作特務部隊、我らはいまここで解散する」
どよめきが起きる。
部隊員たちはその信じられない言葉に一瞬呆気にとられ、口々に何かを―――。
「傾注」
言いかけて八咫烏の怜悧な瞳で押し黙った。
それを制して少佐が口を開く。
「言葉を換えよう。我々はいまここで新生する。灼熱の炎から生まれ変わるように、地獄の炎で我らは新たな組織へと新生する。それは則ち―――」
少佐は語りかけるように手を広げる。
それは魔に魅入られた人間。
自らを神とあがめるような狂信者。
されどその狂信者は己が言葉に陶酔し、それが伝播する。
「我らは新日本帝国軍。我ら八人でこの日本となる。絶対たる力を持ち、神の国の人柱たりえるのだ。さあ、同志諸君よ。いまここより敵に地獄を見せようではないか。奴らが起こしたこの地獄よりもなお煮えたぎり、鏖殺する地獄を再現しようではないか。我らが神の代わりに神罰を。この神の国に抵抗した敵どもを残らず殺し尽くそう」
自らの部隊を日本と言い切るその傲慢。
だがこの地獄に無傷で立っているその姿を見れば誰もがそれを否定するのを躊躇う。
「そして、勝利を。この世界に純然たる力の行使を。この世界を統一する力を持ってすべてを支配しよう。我らは力なり。我らは日本なり。富国強兵、一騎当千。我らが真なる日本帝国軍としてその威信を知らしめ、我らの日本国を打ち立てようではないか。楔は炎、祝詞は敵の悲鳴、見せつけるは力と地獄。その中で真の支配者とは何かを教えようではないか。我らの力を持って! 八咫烏!」
冷静にそれでも瞳には狂信者の陶酔を宿した少佐が傍らの八咫烏に声をかける。
「はっ!」
「聞け。そして私に伝えろ。この地獄で命を落とした者の声を。なんと答える。我らの言葉を聞き、なんと答えている?」
八咫烏の瞳が青く光る。
するとその爆心地に無数の青い光が浮かび上がった。
それは憎悪である。
それは絶望である。
それは悲鳴である。
それは嘆きである。
それは無数の人が叫ぶ声の集合であった。
自らを消し飛ばし、自らを燃やし尽くした者たちに叫ぶ怨嗟の声である。
無数の羽虫の羽音のように声が響き渡る。
八咫烏、それは御先とよばれる神霊の一種。かの霊鳥は神武東征の際に神武天皇の先導を起こした。しかれどミサキの本質は、神の御使いであり、人の魂の声も届ける存在である。
したがってその場に聞こえる無数の声は、いまその場で死んだ者たちの声であった。
憎い。私たちを殺した奴らが憎い。私たちが何をしたいというのだ? 私たちは・・・私たちは・・・もっと生きたかった。
彼らは一様に合唱する。
生きたい。生きていたかった。
それでも叶わぬと言うならば―――。
「恨みを晴らしたい」
八咫烏は無表情に答えた。
それに少佐は手を広げ、オペラを鑑賞し終わったように万雷の拍手で答えた。
「それこそが願いだ。何にも代えがたい尊い願いだ。そうだ。復讐だ。我らは願いを聞いた。我らに示された道はただ一つ」
慄然と部隊を睥睨し、告げる。
「復讐と勝利だ」
唇を微笑みにゆがめた少佐が歩き出す。
冷えゆく熱を再び灼熱に変えて。
「同志諸君。さあ行こうではないか。我ら日本が求めるは、復讐と勝利。敵を悉く殺し尽くし、敵の死体の上に我らの御国を打ち立てよう。続け、新日本帝国軍よ。我らは数百万の英霊の願いを背負った日本。さあ、これより戦が始まる。新たな戦だ! 我ら日本対世界。その第三次世界大戦と雪崩れ込もうではないか!」
ひとしきり語った少佐は突然足を止めて笑い出す。
「クハハハ。なるほど。お前たちには関係ないことであったな。よい。ならばわかりやすく言おう」
振り返った少佐は微笑んで隊員たちを見渡す。
「殺せ。敵を見つけたらすべて殺せ。我らに立ちふさがる悉くを殺し尽くせ!」
「「「「了解!!」」」」
獣たちの咆吼が、死の空へ響き渡った。
1945年8月6日。
その日を境に獣が世界に貪り喰らい尽くさんと飛びかかる。




