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給与額がそのままレベルに反映されたら最強っぽくなった  作者: (独)妄想支援センター
Ⅰ.異世界トリップからの冷静な状況分析 そして草原での華麗なる無双劇
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8 形見

 幸せな恋人達を見送り、ほうっと息を吐く。

 俺もいつか自分だけのヒロインを見つけられるのだろうか。


 ニートになる夢を叶えつつヒロインと結ばれる。

 そんなハッピーなフォーチュンが俺にも訪れるのだろうか。


 ヒロインちゃんが俺を養ってくれたら二つの夢が同時に叶うね!やったー


 …ダメだ。

 俺が成りたいのはニートであってヒモじゃない。


 君達はライオンの雄がニートだと思うかね?思わないだろ。

 種付けも立派な仕事なんだ、あいつらも命削って頑張ってるんだ。

 ライオンのたてがみってのは人間で言うところの…あれ?何の話だっけ。


「きゃあああぁぁっ!!!」


 ブゴッフォッオッオッオッオッオッオッ!


 突然、絹を引き裂くような女の悲鳴が響き渡る。

 続けて興奮した豚の鳴き声が。


「(!…行かなければ)」


 思考の海に沈みかけた意識が急浮上する。

 頭は一瞬でクリアになり、状況を正しく理解する。


 “オークが女を襲っている!”


 間違いない!

 夢にまで見た光景がいま眼前に顕現しようとしている!


 オーク農場が拓かれた。

 働き者の農夫はさっそく種蒔きに勤しむことだろう。


「(動け…!捉えろ、一瞬たりとも見逃すな!)」


 魂が肉体に檄を飛ばし、それに応えるように体の隅々にまで力が漲る。


 跳ね上がるように身を起こし、先程転がり落ちた丘を一息に駆け上がる。

 そして丘の天辺から思いっきりジャンプ!

 特等席を確保すべく踊りかかった。


 ズムッ


 舞い降りた俺は勢いのまま落下地点にいたオークを踏み潰す。

 ヒゲおやじに踏まれたキノコみたいにふにゃっと潰れて地面の染みになる。


【スキル:ヒーロー推参 を習得しました】


 今はそんなことどうでもいい!

 俺が欲しいのはこの先100年使えるような極上の映像資料だ。


 お目当てのものを探してゆっくりと現場全体を見渡す。

 

「…?」


 おかしい、見当たらない。


 ひょっとしてこの世界のオークは獲物を巣に持ち帰って産む機械にする習性が無いのか?

 性欲を満たしたらついでに食欲も満たしちゃおうとか、ちょっと野蛮じゃないかしら。


 …ダメだな。

 このオーク達とはやっていけそうにない。殺そう。

 

 ジョワ~ン


 殺意の波動に目覚めた俺は、全身から青白い燐光を発する。

 

 【スキル:謎の光 を習得しました】


 さあ解体ショーの始まりですわよ。

 屠殺はスピーディーかつスマートに、

 インテリジェンスでエグゼクティブなニューデリーのヘリコバクターだ。


 ブ、ブヒィ!?


 俺が一歩足を踏み出すと、豚共が怯えたように後退る。


 へへっ…なんだこいつら、ビビってやがるぜ。

 そして俺もビビってるんだぜ…


 どうしてかって?

 このタイミングでレベル1億の可能性を思い出しちゃったからさ。


 雑魚の代名詞であるゴブリンと、中盤モンスターのオークでは当然レベルも段違いだろう。


 今は人柱で鉄砲玉で捨石のイケ高君がいないからオークの強さがどれ程なのか判らない。

 そう考えると奴も中々に役立つ存在であったことに今更ながら思い至る。


 それなのにあいつめ早々にリタイヤしやがって!

 こうなったらサキュバスちゃんの希望の明日ホール絶対貸してもらうんだからね!


 ブゥー!


 喜びに胸を開き大空を仰いだことで俺の殺気が緩んだのか、気付くとオーク共が大胆さを取り戻していた。

 数を頼りに、半ば包囲するようににじり寄ってくる。


「(やべっ…)」


 今度は俺が後退る。


 コツン


「んっ?」


 足に当たる硬い感触。

 見れば足元に棍棒が落ちているではないか。


「これは…」


 見覚えのある棍棒、確かイケ高君がゴブリンから剥ぎ取ったやつだ。

 汚いから俺は遠慮したけど。


 でも今は好き嫌い言ってられない。

 この状況で武器を手にできたのは大きい。


 イケ高君がこの世界で初めて手に入れた武器――棍棒。

 とっても大事にしていた棍棒。

 パパから貰った棍棒。

 セとイとシの音しか出ない棍棒。


「(借りるぜ、ブラザー!)」


 イケ高君の大事な棒をぎゅっと握り締める。


 シュワワー


「眩しっ?!」


 握った瞬間、棍棒は眩い光を放ち、ムクムクと大きくなる。


 イケ高君の大事な棒が大きくなっちゃった!

 しかもこれ熱くなってきてるんだけど!?


 どういうこと!?

 マジ勘弁!ゲラウェイ!


 どうしよこれ、捨て…

 いや、だんだん光が弱まってきたぞ。


 シャラン


 光が収まると、さっきまで棍棒を握っていた手の中には――


「剣…?」


 銀色に輝く一振りの剣が収まっていた。


 刀ではなく剣だ。

 子供向けヒーローが持つような微妙に短い剣、ソードだ。


「おおっ…これは」


 ずっしりとした重さはそれが玩具でなく本物の武器であることを主張する。

 この剣が強大な力を秘めていることを俺の中の深い部分、少年ハートが肯定した。


 男はいくつになっても男の子、永遠のピーターパン。

 心はいつだって半ズボンで終わらない夏休みを駆け抜けるのさ!

 うおぉー!俺は天才だー!


 すっかり子供並のハイテンションになった俺は、

 レベル1億の恐怖など夏休みの宿題の如く忘却の彼方へ追いやる。


 くらえ!必殺!

 ハイパーなんとかスラッシュボンバーレーザービーム!


 ザシュッ


 近付いてきたオークを意味も無く回転して斬りつける。


 ブギャッ!


 オークの汚い悲鳴が上がる。


「んっ!?」


 だが今はそんな瑣末事どうでもいい。

 無駄に回転した際に、今まで気にしていなかった背後が視界に入った。


 そしたらさ、いたのよ。

 オークと女が。


 服を引き裂かれた女性と、ビッグボーイを露出させたオークがいたのよ!

 名画「蛸と海女」にも匹敵するような芸術が俺の真後ろに展示されていたんだ。


 単に後ろにいたから見えなかっただけとは…

 さすがの俺でも見抜けなかったぜ。

 

 嗚呼、思へば長い長い道のりであつた。


 いろいろあったが、俺の鑑賞会はここから始まるんだ。


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