5 カイト氏
此度の隊商は子爵のご息女であらせられるルチア様のご提案でした。
商売というよりは辺境の村々に対する救済の意味合いが強く、さほど利益は見込めない。
そのため参加を渋る者も多く、会頭の私が自ら加わらねばならないほどでした。
しかし得られたものは大きかった――
本隊と別れ、グラス村に赴いたのは、昔馴染みに会う為です。
残念なことに彼は魔物の襲撃で故人となっており、会うことは叶いませんでしたが…
帰り際、まだ若い未亡人――彼の妻から木彫りのお守りを手渡されました。
私の商売が順風に恵まれるよう、無事に帰り着けるようにとの祈りが込められていました。
すっかり感じ入った私は、これからは毎月彼女へ仕送りをしようと心に決めたのです。
うまいこと誑し込まれた?ハハハ!そんな馬鹿な。
その証拠に、本隊と合流する途中、早速お守りは私を守ってくれたのですから!
30匹ものゴブリンに囲まれ、死を覚悟した私のもとに救援が駆けつけてくれたのです!
「せりゃぁー!」
叫び声とともに飛び込んでくる若者。
ゴギャッ!?!
勢いのままにゴブリンを殴りつけ、ただの一撃で黙らせる。
「おおっ!?」
まさか無手で魔物を仕留めるとは!
相手がゴブリンとはいえ、これは相当な修練を積んだ戦士に違いない。
しかし多少背はあるものの、全体に細身の若者。
一体どこにそんな力が秘められているというのか…
驚きから立ち直る間もなく、今度は真っ白い火の玉が飛来する。
ブシャッ
火球は吸い込まれるようにゴブリンの頭部に命中、粉々に吹き飛ばす。
何事かと辺りを見回すと、若者の視線の先に太い笑みを浮かべた男が伏せっていた。
自信に満ちた表情から、先程の火球を放ったのはこの男で間違いない。
笑い返す若者、察するにこの二人は仲間なのだろう。
練達の戦士と高位の魔術士。
魔物の脅威が増している昨今、これだけの手練れならば引く手数多なはず。
それがどうしてこのような僻地にいるのだろう…
ゴブリンの群れを容易く片付けた二人は、
疲れた様子も無くこちらに近付いてくる。
「お怪我はありませんか?」
稀有な力を持つ者は得てして傲慢になりがちである。
しかし彼らは礼儀正しく、言葉の端々から高い教養を感じさせた。
名のある生まれかとも思ったが、男…ダストさんが言うには田舎から出てきたばかりで世情に疎いという。
謎は深まる一方だが、ここで過剰な詮索をして悪印象を与えては拙い。
武に優れ、礼を弁え、そして決して驕らぬ心を持つ。
間違いなく傑物。
「今は手持ちが少ないのですが、本隊と合流できたらお二人にお礼を差し上げたいと思います」
さりげなく本隊――ルチア様のもとへ誘導しつつ、出来る限り友好的に接する。
この二人こそ此度の隊商で得られた最大の収穫。
もし彼らが子爵家に仕えてくれたら、大いにルチア様の助けになってくれるに違いない。
この時は知る由もなかったが、この出会いはもっと大きな意味を秘めていた。
人の尺度では到底計りきれない、それこそ世界を変えてしまうほどの――