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給与額がそのままレベルに反映されたら最強っぽくなった  作者: (独)妄想支援センター
Ⅲ.世界へ踏み出す輝かしき第一歩 そして無辜なる者への果て無き慈心
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44 鎮魂

2017.07.10 改

「今日はこれから旅に必要な物を買いに行こう」

「おかいもの!」


なんだ?

妙な所に食いついてきたぞ。


「わっ…わたし、おかいものって初めてなんです!」


そうなんだ。

もしかして街に来たのも初めてだったのかな。


そういや前に服を買ってやったけど、あれはカウントしてないんだろうか?

あれは俺から服を恵んでもらったという認識だったのかな。


なんにせよ、こいつがここまでグイグイ来るのは珍しいことだ。


「ねえお父さん!私も行っていいよね?」

「はぁ?お前、今日も片付けを手伝いに行くってさっき自分で言っ…」


ガスッ


「ぐぅ…」

「あらら、お父さん寝ちゃった」


「……」


今更だけどノーラちゃんはかなり力が強い。


親父を殴り倒す以外にも水の入った大瓶を一人で運んだり、食材を買出しに行って羊を丸ごと担いできたこともあった。


ステータスはいたって普通なのにどうしてこんなに力があるんだろう?

不思議に思いよくよく鑑定してみたら【特性:怪力】というのを見つけてしまった。


親父にそのことを訊ねようとしたところ、


「だめーーっ!!」


カウンターを飛び越えてきたノーラちゃんに殴り倒され1時間をほど目を覚まさなかった。


「わ、わわわ私は特性なんて持ってないですよ?!」


あの時のノーラちゃんの慌てようは凄かった。


「【特性】は天から授かった奇跡で、すごく特別な人にしか宿らないって神官様おぼうさまが言ってましたし」


奇跡か……

なるほど、俺が就職できたのはまさに奇跡だったんだな。


しかしいくら天からの授かりものでも女の子的に怪力はやはり恥ずかしいようだ。

ならこの嬉しくない乙女の秘密は俺の胸の内だけに留めておこう。



「ね、ね、ダストさん。私もついて行っていいかな?」


椅子の後ろに回り込んでご機嫌を窺うように肩をぎゅっぎゅと揉んでくる。


「う~ん…そうだなぁ…」


【怪力】のくせにボディタッチが多いという中々に困った子だ。

ノーラちゃんと仲良くするのは結構命懸けだったりする。


そういえば他の客達が時折妙にビクついてるな、とは感じていた。

お話はしたいけど…タッチは怖い、みたいな。


うかつに褒めたりすると「やだもー!」とか言って背中をバン!と一発。

そのまま天国行きもあり得る。


なるほど…怖いな。


俺は守24万6800のおかげで全く気にならないけど。

もしかしてその辺が懐かれる理由なんだろうか。


「まあいいか」

「やったー!ありがとう!」

「わ!ノーラさんも一緒だなんて、すごくたのしみです!」



そんなわけで今日の午後は、娘っ子二人を連れての危険なショッピングになった。









冗談じゃない!


そんな面倒事を許容できるダストさんじゃありませんわよ!

ニート志望を甘く見ないでいただきたい。


「悪いが俺は他に大事な用がある、買い物は二人で行ってきてくれ」


【スキル:詐術 を発動しました】


「そ、そうなのですか…」


ハルは目に見えてションボリしていたが仕方ない。

女の子二人の買い物に混ざれというのが無理な話なんだ。

いつの間にか仲良くなっる君達が悪い。




◇◇◇




「さて…」


どうしよう。


二人には用があると言ったがもちろんそんなものは無い。

街はまだ復旧作業で慌しく、兵士さんも多く走り回っている。


職務質問とかされたら嫌だし…

どこか人気ひとけの無い所へ行こう。




というわけでやって来ました。

俺の第二の故郷こと空き地公園。


ここで適当に時間を潰そう。


「ん?」


ところが今日に限って先客がいた。


「あらら?」


空き地で花を摘んでいる人が一人。

隠語ではなく本当に。


雑草の合間から迷いなく花だけを選び出し引き抜いていくあたり、もしかしてこの人が植えたんだろうか?今は雑草生い茂る空き地だが、元は花畑だったのかもしれない。


「ここに人が来るなんて珍しいわねぇ」


俺が人見しり…どう対応したものかと思案していると向こうから先に声を掛けてきた。


ちなみにこの人、女性ではない。


妙にクネクネしたお兄さんだ。

あえて言うならオネエさんだ。

 

「あぁ…ちょっとな」


なので俺の態度も極めてドライ。


「もしかしてお花をお求めかしらぁ?」

「花か…」


有翼獅子グリフォン襲撃の犠牲者にお供えしてみようか。


犠牲者を悼む心優しい俺を偶然にもルチアさんが目撃して好感度アップとかあるかもしれない。


「…そうだな」

「にょふふ、贈り物ですかなぁ?」


オネエがいやらしい笑みを浮かべて肘でツンツンしてくる。

てめえマジやめろ、ぶっとばすぞ。

 

「そんなところだ」

「それなら今あるのがまさにうってつけにゅふ♪」


花篭を抱えてその場でくるんと回ってみせる。

そろそろ吐き気を我慢するのも限界だ。


「一つもらおう」


さっさと買っておさらばしよう。

じゃないとヘドより先に手が出そうだ。


「お買い上げありがとうございます、銀貨1枚頂戴いたします」

「えっ、はい…じゃあこれで」


うわびっくりした……急に素に戻るなよ。

思わず敬語になっちゃったじゃないか。


「今日は大サービスよん♪」


一つと言ったのに持っていた花を全部寄越してきた。

見たことの無い紫色の花が籠いっぱいに詰まっている。


うわー…いらねぇー。


「またよろしくねぇ~☆」


ヒラヒラと手を振るオネエさんに見送られその場を立ち去った。


くそっ、余計な荷物が増えちまった。


どうしようこれ…さすがに捨てるのは忍びない。

そうだ!池野んにこっそり置いてきちゃおうぜ!



池野ん家どこだよ……




◇◇




あてもなくぶらぶら歩いていると、門に程近い場所に石積みの崩れた一角を見つけた。


「ここは…」


そうだ…確か有翼獅子グリフォンとの最終決戦があった場所だ。


怒涛の如く迫り来る獣の群れに人間側は持てる全ての力を結集し、セイント†グレイト†ナイトこと俺の号令一下、最後の突撃を敢行した――



……ような。


あまりに激しい戦いだったせいか、少々記憶が混濁している。


でもここで戦闘があったのは間違いない。

そこいらに崩れた石積みと焼けた木片が転がってるのが何よりの証拠だ。


犠牲者が出たかは知らないけど、もう面倒だしここに花を供えちゃおうぜ。



「これはひどい…」


具体的に何がひどいかはよくわからないが、どことなく痛ましげな表情をつくり石積みの側に歩み寄る。


いぇーい、ルチアさん見てるー?

情け深い俺に心ゆくまで惚れ込むといいよー。



「ここは櫓だったのか」


元はかなりの高さがあっただろう石造りの建物。 


おそらく一番最初に有翼獅子を発見し、攻撃を受けたのだろう。

崩れた石積みの中には引っ搔き痕のついたものが多数見受けられた。


既にある程度片付けられていたようだが、木片に刺さった矢は回収されず、赤黒い染みを残していた。

あれは果たして有翼獅子か人か、いづれの血痕であろうか…


血……うっ。


あふ…余計なこと考えなけりゃよかった。

か、体中の力が抜けぬふぅ…


あ、そうだ!


血を見るのがダメなら見えなくしてしまえばいい。

幸いにもごく自然に覆い隠せる物を持っているじゃないか。


「(お花さんお願いします、僕の心を助けてください)」


なんとなく乙女チックに祈りを捧げてみる。

ただ血痕を覆い隠すように花を並べるだけなのだが…


【スキル:祈り を発動しました】


ありゃ?スキルが発動しちゃった?

この場合の効果対象は何になるんだろう。


まさかとは思うけど血痕から元の持ち主が再生したら嫌だな…


ボワボワワン


見ると適当に並べた花が薄っすらと光を放っている。

なるほど、花の切り口が怪我と判定されたのか。


光は切り口に集まり、そこからにょきにょきと根が伸びてくる。


うわぁ…気持ち悪っ?!


伸びた根っこは植物にあるまじき速さで次々と土に潜り込んでいく。

あまりの不気味さにただ呆然と見ているしかなかった。


これちょっとやばくね?

放っておいたら植物モンスターとかに進化しそうな勢いだよ。


これ始末しておかないとまずいよね。

手で触れるのは嫌だから…ソードで切り刻んでしまおう。



「……げっ!」


ところが派手にピカピカしていたのがまずかった。

異変を察した門番さんがわらわらとこちらに向かって来る。


「(ま、まずい!)」

 

抜こうとしたソードを慌てて鞘に収める。



キィン



ぎゃあ!思ったよりでかい音が鳴った。

は、早く逃げないと!


挙動不審にならないように、努めてゆっくりその場を立ち去る。

去り際にちらっと振り返って見ると、門番さん達は例の現場に集まって剣を掲げていた。


ほっ…どうやら門番さん達が始末しておいてくれるらしい。


さすが治安維持のプロフェッショナルだ。

植物モンスターの危険性にいち早く気付いて対処してくれた。


今のところ俺が原因だとはバレていない。

あとは不審に思われないよう自然に立ち去るだけだな…


途中までゆっくり歩き、ある程度離れたところで24万6800スピード全力ダッシュ。


「!?」


傍からは消えたように見えたはずだ。


夢か幻か。


この場には誰も来なかった。


モンスターは自然に発生した。


それでいいじゃないか。


いいんだよ。




△△




「…出かけたね」


主様がお出かけするのをノーラさんと二人でお見送りします。


ではこの後はいよいよ…


「おかいものですね!」


主様が一緒でないのは残念ですが、初めてのお買い物はとっても楽しみです。


それに、お、お友達とお出かけするのも初めてです!

いろんな初めてがいっぱいでドキドキします。


「ダストさんの後をつけよう!」


ところがノーラさんがとんでもないことを言い出してしまいました。


「え…えぇっ?!いけません!主様のお邪魔をするなんて…」


そんなことをしたら主様に嫌われてしまいます。


もしまた捨てるなんて言われたら…ひぃ!嫌です!


「こっそりつければ大丈夫だよ!ハルさんだって気になるでしょ?」

「それはそうですが…でも」


主様のことなら何でも知りたいです。


わたしはまだ主様に貰われてから日が浅いので、知らないことがたくさんあります。


この街に来たのも初めてだと仰ってました。

わたしと同じです、えへ、えへへ。


…でも主様がどこから来られたかは知りません。

とても遠くだということくらいしか… 


もしかしたらいつか其処へお帰りになってしまうのでしょうか。

その時はわたしも連れて行って欲しいです。


「ほら!行こう!見失っちゃうよ」

「あ、ああ…!待ってください、待って…」


結局、ノーラさんに手を引かれて主様の後を追うことになってしまいました。




やって来たのは街外れにある空き地です。

忘れもしない、わたしが主様に脚を治してもらった思い出の場所。


檻の中に来たお医者さんは「もう二度と歩けない、切るしかない」と言っていました。

それを聞いてとても怖くて悲しかったです。


でも主様に触ってもらったらそれだけで治ってしまいました。

あの時の暖かさと気持ち良さは今でも時々思い出して…

  

「…あふっ」


「(しっ!見つかっちゃうよ!)」

「(ご、ごめんなさい…)」


思い出したら声が出てしまいました。


主様に触れられるのは本当にいい気持ちなんです。

もっと触ってもらいたい、撫でてもらいたい、噛んでもらいたい…



噛む?!


そ、そそそれは伴侶になる方にしか許しちゃいけないことで…!

でも、でも、もし……


はっ!?


「わわわわ…!わたしはなんて大それた事を…!」

「(静かに!)」


トスッ


「うっ…」


「(あ!ご、ごめんハルさん、つい…!)」


畏れ多いことを考えたせいで罰が当たったのでしょうか。

見ていた景色がストンと落ちて目の前が真っ暗になりました。




□□




あちゃー!やっちゃった!

ついハルさんの首筋を軽く、軽~くだよ?殴…叩いちゃった。


で、でもほんとに軽くだから大丈夫だよね?ね?


「ぅ、ぅん…?」


ほら!すぐ気が付いた!

これがお父さんだったら半日は目を覚まさないもん。 


「ハルさん大丈夫?まだ疲れてるみたいだね」

「ん、んぅ…?ノーラさん。すみません、わたし寝てしまった…のでしょうか?」


悪いけどここは黙っておこう。

正直に話したら怖がられちゃうかもしれないし…


「(それよりほら、見て!ダストさん誰かに会ってるみたい!)」


誰だろう?遠くて見づらいけど…?

あー…あのヒラヒラした感じの人は見覚えがあるなー…


「(あ、あの方に会いに来られたのでしょうか…?)」


ハルさんが不安そうに目をパチパチさせる。


「(あの人は、総合アートデザイナー(自称)のカマーラさんだね。女の人じゃないよ)」


この街ではちょっとした有名人なんだよね。

…悪い意味でだけど。


「(そうでしたか、よかった…ほっ)」


あんまり安心できる相手でもないんだけど…

それは黙っておこう。うん。



ダストさんは銀貨を手渡しで花篭を受け取った。

どうやらただの買い物だったみたい。あ~、よかったぁ。


でも気になるのは…


「主様…お花を買われました」

「そう、だね…」


誰かへのプレゼント?


それがハルさんにだったらいいんだけどな。

きっとすっごく喜ぶと思うんだ!

 

わ、私も貰えたら嬉しいかな?


けど、全然別の誰かだったりしたら…


「……ひん」

「ま、まだわからないよ!ちゃんと確かめないと!ね?」


ちょっと迷ったけど、知らないままでいるよりは絶対いいはず。


「いいんです…わたしは奴隷ですから」

「ほら!いくよー!」


座り込むハルさんを引っ張ってダストさんの後を追いかけた。




△△




「あっ…」


わたし達が目にしたのは、崩れた石積みに向けて祈る主様のお姿でした。


そう…ここは有翼獅子グリフォン襲撃で一番の犠牲を出した北門の物見櫓です。 

主様の買われたお花はその方達に供えるためのものでした。


「そっか…そういうことだったんだね」


隣にいるノーラさんの声が遠くに感じます。


一本ずつ丁寧にお花を捧げる主様のお姿を見ていると、胸が苦しくて仕方ありません。

もし違った形でここにいれば、傍でお手伝いすることもできたはずなのに。


「うっ、うぅっ…ひっ」


自分のしていたことが恥ずかしくて悔しくて、涙が後から後から溢れてきます。


「ハルさんごめんね…私が無理言ったから…」


ノーラさんが手を握って謝ってくれますが、悪いのは全部わたしです。

 

だってわたしは主様のものなんです。


主様が御心を痛めておられることに気付かないばかりか、疑いを持って密かに後をつけるなど絶対にしてはいけないことです。こんなことではいつか本当に置いて行かれてしまうかもしれません。


「……っと」

「えっ?なに?」


もっと主様のお役に立ちたい…!


二度とあんな悲しいお顔をされることがないよう、嬉しいことだけで満たして差し上げたい。




。○〇。〇。




「わぁ…きれいだね」

「ぐすっ……はい、はい」


花達が主様のお祈りに応えるようにふわふわと光を吐き出しています。

あんな小さなお花でも主様の御心を慰めようと頑張っているのです。


わたしがこれからも主様のお傍に置いてもらうには、きっと…全部でもまだ足りないのだと思いました。

 



やがて主様はおもむろに剣を抜かれると、勢いをつけて再び鞘に収められました。



キィン



高く澄んだ音はまるで魂に響き渡るようです。

あれはきっと旅立つ御魂を勇者様の星に導いてくれる天の音色に違いありません。


「あれは…」

「うん、きっとそうだね」


いつの間にか周りには門の兵士さん達が集まっていました。


お仲間の死を悼んでくれたことへの感謝なのでしょうか。

その場を去る主様へ向けて、剣を掲げて見送っていました。


主様はそれを一度だけゆっくり振り返ると、陽の中へ溶けるように消えて行かれました。


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