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給与額がそのままレベルに反映されたら最強っぽくなった  作者: (独)妄想支援センター
Ⅰ.異世界トリップからの冷静な状況分析 そして草原での華麗なる無双劇
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4 恥知らず

 最高の西部大平原を行きながら商人さんこと、カイト氏にいろいろな話を聞く。


 カイト氏はここの領主であるメルメル子爵の直営商会に属している雇われ商人。

 つまり俺と同じサラリーマンだ。


 草原にはいくつかの村が点在していて、以前は個人の行商人が商売に赴いていたらしい。


 しかし近頃は魔物の活動が活発化したせいで、めっきり行商人が寄り付かなくなり、そうした村々は物資不足に困窮しているんだとか。


 見かねた領主のご息女が隊商を企図し、カイト氏もそれに参加。今に至るというわけだ。


「――というわけです」


「なるほど」


 ……で?

 そのご令嬢は何処に?


「どうしたんです五味さん?なにか探しものですか」


「あー…いや。なんでもない」


 来てるわけねえか。

 リアルお姫様だもんな。


「私は知己のいる村を訪ねに、一時本隊と別れて行動していたのです」


「そうだったんですね」


 ゴブリンなんかがいる危険な草原で、どうして一人でいるのかと思ったらそういうことか。


「今は手持ちが少ないのですが、本隊と合流できたらお二人にお礼を差し上げたいと思います」


「お礼…」


 お礼と聞いて奴隷を想像したあなたは間違いなく異世界脳。


 しかし今は美少女エルフ奴隷よりも、生きるための食糧と現金が必要だ。

 着の身着のままでは過酷な異世界でこの先生きのこることはできない。


「ありがとうございます、実は僕らお金も食糧も無くて…すごく助かります」


 バカのイケ高は遠慮するかと思ったが、意外と現実が見えてるみたいだ。


 きっときのこる先生のご指導が良かったのだろう。

 評価を一段階プラスしておこう。(-100 → -101)


「こちらこそ!お二人と一緒なら道中も安心です、わはは!」


 どうやら護衛としても期待されてるらしい。


「任せてもらおう」


 イケ高君がんばってね。



◇◇



 案内人兼、カネづる…雇い主をゲットして異世界旅行は極めて順調。

 ついでにイケメン勝ち組と二人きりの辛い状況からも抜け出せて気分爽快。


 もちろんおっさんになど微塵も興味は無いが、自分より格下の人間がいると実に心が安らぐ。


「プッ…カイト殿はその、普段どんな仕事をされているんだ?」


 危険な隊商に引っ張り出されるくらいだ。

 きっといなくなっても影響の無い窓際族に違いない。ププーッ!


「そうですね…私は商会では会頭を任されておりまして。普段は領主館の一室で書類相手に頭を悩ませております」


「ほう…?」


 会頭って…えっ?

 商会の頭…トップ…まさか社長!?


「おかげで戦いはからっきしで。いや、本当に助かりました」


「はい!お役に立てて何よりでございます!」


「……五味さん、急にどうしたんです?」


 バカ野郎!

 領主様子飼い商会の会頭さんだぞ!


 つまり絶対潰れない会社の社長だ!

 控えろスネかじり虫!


「カネ…いや、経験を経た年長者には敬意を持って接するべきだろう」


 俺の苦し紛れな言い訳にハッと顔を上げる。


「そ、そうでした!魔物から助けたくらいでいい気になって僕は…ありがとうございます五み…ダストさん!お陰で目が覚めました」


 だからどうしてそうあっさり騙されるんだ。

 俺が悪いことしてるみたいじゃないか。


「うん、力が全てではないからな、世の中は」


 などと、いい感じに〆ようと思ったら…


「いいえ!力こそこの世で最も尊ぶべきものです!」


 まさかのカイト氏からの否定のお言葉。


「ですよねー」


「そうですとも!」


「えぇー…五味さん…」


 その名で呼ぶなモラトリアム!

 大人の変わり身の早さを思い知れ。


「(よく考えろ、この世界には魔物がいるんだぞ。力が無ければ生きることすら難しい)」


「(!…なるほど、さすがは五味さん!)」


 こいつバカなのかしら。



◇◆



 大草原にあまねく光と熱を届けた太陽も、地平の彼方にその身を沈めようとしている。


 日本ではまずお目にかかれないが、アフリカあたりに行けば見られるかもしれない雄大な光景にしばし言葉を失う。なんで妙にアフリカ推しなの俺?


「綺麗ですね…」


「そうだなぁ…」


 キミの方がずっと綺麗さ。


 隣に立つのが美少女エルフメイドならそんな台詞もするりと出てくるんだろうが、相手がバカのイケ高だと しね としか思わない。


「しね」


「えっ?」


「ほんと綺麗だなぁ」


「そうですね…」



 陽が落ちた草原は想像以上に冷え込む。

 体力の消耗を抑えるため今日はここで野宿するらしい。


 ずっと歩いてもまだ追いつけないとは、本隊からどれだけ離されているのか…

 カイト氏の能力に多少の不安を覚えた。




 焚き火を囲み、食事を摂る。


「今はこんなものしかありませんが、どうぞお召し上がりください」


「ありがとうございます、いただきます」


 出されたのは黒くて堅いパンと、これまた黒くて堅い干し肉。


「……うっ」


 正直言って不味い。

 特に肉は臭みが強くて食えたもんじゃないので、こっそり地面に埋めた。


 イケ高君は「変わった味ですね」とか言って完食してた。正気か。

 


 満腹には程遠いが、疲れもあってそのまま眠りについた。



 全員が寝入ってからしばらくのこと… 


 ァンゥオ~ゥェェ


「んんnっ!?」


 なんか狼っぽい獣の遠吠えが聴こえてくるんですけど!?


 ねぇ、ちょっ…!そういえば誰も見張りとかしてないけど。

 いいのかこれ?大丈夫なの?


「お、おい!池野君、カイト殿…」


「ぐー」「ぐおぉ」


 どういう神経してんだこいつら?!


 ……まあいいか。

 

 どうせ真っ先に食われるのは太ったカイト氏だろうし。

 その隙に逃げればいいや。


 いまは余計なことを気にせず体を休めておこう。


「(左胸の内ポケット…ヨシ!)」


 もしもの時のため、カイト氏の財布の場所だけは確認しておいた。



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