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給与額がそのままレベルに反映されたら最強っぽくなった  作者: (独)妄想支援センター
Ⅲ.世界へ踏み出す輝かしき第一歩 そして無辜なる者への果て無き慈心
33/69

33 隠れた効果

 ハルが野草が多く生える場所を知っていると言うので、

 俺は安心して何も考えず街を出る。

 

 その際、来た時とは別の門から出たのだが、

 門番ネットワークで俺のことが伝わっていたらしい。


「ご返上いたします」


 門番さんが膝を突いた姿勢で頭を下げ、両手で俺のギルドカードを返してくる。


「わ…」


 ハルも真似して膝を突き、俺を拝むような姿勢をとる。


「なんだ?」

「どこぞの貴人様かのう」


 周囲の人が何事かと目を向けてくる。

 やめてー!見ないで。


 君達、俺のお腹の具合も考えて行動してくれ。


 



 何日かぶりの大平原、見渡す限り何も無い。


 だがこっちに来たばかりの時とは違い、今は目的があってナビもいる。イケメンがいない。

 それだけで景色がまるで違って見えるんだから不思議なもんだ。


 迷う心配も無く、晴れ渡る草原をのんびり歩く。


「あ!主様、あそこに草原毒虫がいます!」


「あっちに草原人食い草が歩いています!」


「あれは幻惑キノコです!」


 ハルはさすが草原育ちなだけあって目が良い。

 危険があれば事前に知らせてくれる。


「そい」


 ビュン


 俺はその度に石ころを投げて対象を排除。


「すごいです主様!」


「さすがです主様!」


「お見事です主様!」


 不自然にテンションの高いハルに大げさに賞賛される。


「うん、まあ…な」


 チアガールしてくれるのは嬉しいんだけど、

 俺に好かれようと必死になっているみたいで少し痛々しい。


 広い草原に出たことで俺との距離が離れた気がして不安に感じているのかもしれない。

 心配しなくても今さら捨てたりしないって。


 だって金貨10,000枚だもん。


 俺が投げる石ころも随時拾っておいてくれるので、お供としても役に立つし。



「しかしほんの少し道を逸れただけで、こうもいろいろ出くわすとは…」


 雑魚ばかりとはいえ、この前に比べると格段にエンカウント率が高い。


 まさかこのキツネ…魔物を誘引するフェロモンとか出してないだろうね。


「さすがは主様です、安全な場所を通るうちにできたのがあの道なんです」

「なるほど、そういうことか」


 道があるから安全なのではなく、安全だからそこが道になったのか。

 変な疑い持ってごめんな。あと、何がさすがなんだ?


「っしょ、これと…この石も」


 石ころを拾おうと屈む度に、なだらかな尻のラインが目につく。

 …やっぱりフェロモンは出してると思うの。


 ムクリ


 ややっ!魔物発見!

 人食い毒キノコだ!





 野草が多く生えるという場所へやって来た。


「ここか?」

「はい、はい、たくさん生えています」


 俺には他の草と見分けがつかないが、草原育ちが言うのだから間違いないだろう。


「草摘みならお任せください」

「うん、任せた」


 言葉通り、全部ハルに丸投げして遊ぶことにする。




「そりゃ!取った!」


 有言実行。

 俺は草原を走り回りバッタを捕まえて遊んでいた。


「どうだ!でかいだろう」


 大きいのを捕まえると必ずハルに見せに行く。


「わ!本当にご立派です、さすがは主様です」 


 俺が何をやっても喜んでくれるので、ついつい報告してしまう。

 まるでお母さんだ。


「よーし…じゃあ次は」


 すっかり童心に返った俺は次なる獲物に狙いを定める。


「おっ!あっちにでかいのがいるな」

「…?!」


 遠目にも判るほどの大物。

 軽く見積もっても5メートルほどの巨体……?


「あ、主様!あれはバリバリ虫です!」


 なんじゃそりゃ。


「すごく大きくて強くて、びょんと飛んで…その、その、バリバリと何でも食べてしまう魔物です」


 ガタガタ震えて尋常でない怖がり方をする。

 恐らく「何でも」の中には人も含まれるんだろう。


「は、早く逃げましょう、あまり目は良くないので今なら…」


 彼我の距離は200メートルくらい。

 なんとか虫はじっとこちらを見ている。


 気付いてない…とは思えないんだよな。


 ビョーン


 跳んだ!


 200メートルの距離を一気に詰めて、俺達の目の前に着地する。


「ひぃ!」


 ハルが怯えてへたり込む。


「そこでじっとしてろ」


 前に出てハルを庇う。

 とは言え、俺も内心ビビリまくっていた。


 この虫、見た目はただのでかいバッタだ。

 だからこそ怖い。


 っていうかキモッ!バッタのドアップキモい!


 ギチギチ


 巨大な大顎から涎のような液体が垂れ、

 垂れた先の草がジュッと音を立てて溶ける。


「あ、あ、あ、主さ…ま」

「この程度すぐに片付けてやる」


 むしろこれ以上見てると夢に出てきそう。

 早いとこ始末しなければ。


 バシッ


 思った時には既に鞘からヒーローソードを抜き放ち、虹色光線発射体勢。


 目の前の虫を害虫と認識した俺は、考えるより先に体が動く。

 田舎の古い木造家屋で育ったが故の習性だ。


 シュワワン


 不思議な音を立て、虹色の光線が螺旋を描いてバッタに襲い掛かる。

 硬そうな外皮も、筋張った翅も、まとめて木っ端微塵に吹き飛ばす。

 

 ボーン


 何も考えず水平発射したせいで、遠くの丘まで丸ごと消し飛ばしてしまった。


 大量の土砂と共に、吹き飛ばされたモグラが空中でジタバタと藻掻いている。

 酷い環境破壊だ。


「……」


 なんか威力上がってるね。


 そういえば鞘に「魔力蓄積」って効果があったけど…

 やっぱりこのソードは危険だな、そのうち捨てよう。


「あ…ああ…すごい、すごいです…」


 ハルは目の前の光景が信じられないのか、目を瞬かせて呆然と呟く。


 これって草原住民のキツネさん的にはどうなんだろう。


「大丈夫か?」


 後で怒られたりしないかな。


「はい、はい、わたしは大丈夫です。主様が一緒に来てくださらなければ、今頃は…」


 当たり前だ。

 こんなか弱い女の子を一人で街の外へ行かせる馬鹿野郎なんているはずない。


 いるはずないよな?


「主様のような強い方にお仕えできて本当に幸せです」


 金色の瞳からキラキラと熱い視線を送ってくる。


 うっ!眩しっ!

 純粋な敬意が心に突き刺さる。


「大袈裟だな、お前達だって草原で暮らす以上は戦えないわけではあるまい」

「それは…その、その…」


 キツネさんの戦闘力を引き合いに出して俺の強さをアピールする完璧な流れ。


 ところがハルはもごもごと言い澱んだ後、俯いて口を噤んでしまった。

 ありゃ?また何かまずいこと言ったかな。

 




 少し落ち着いたところで話を聞く。


 キツネは比較的魔力の高い種族だが、腕っ節が弱く接近戦が苦手らしい。

 魔物に対しては専ら魔力を込めた弓による遠距離攻撃で対処するんだとか。

 

双頭魔狼オルトロスは目がいいので矢が当たらず、どうにもならなかったんです」


 ふ~ん、なにそれ怖いね。

 そんなのに出会ったらダッシュで逃げようぜ。


 ちなみにハルは弓が下手で、一族では戦力外扱いだったとか。


「さっきの虫も、目の間に上手く弓を当てれば倒せるんです。兄様ならきっと…

 でもわたし、弓が下手で…それで、その、その…ごめんなさい、ごめんなさい…」


 誰に向けてなのか、泣きながら謝り始めてしまった。

 恐らく過去に、ハルの弓の腕が原因で家族の誰かが怪我でもしたのかもしれない。


「(…ハルの家族か)」


 今更気付いたんだけど、ハルの家族は今も草原で普通に暮らしてるんだよな?

 帰れる場所はちゃんとあるんだ、俺と違って。


「なあハル、やっぱり家に帰りたいか?」


 ハルを買った金はどうせカイト氏から巻き上げたあぶく銭だし、

 帰りたいというのなら帰してやらんこともない。


 もちろんお礼は期待してます。


「えっ…」


 ところが途端にハルの表情はみるみる曇り出し


「ぁ、ぁぁ、あ…主様もわたしがいらない…ですか?」


 再び大粒の涙をぼろぼろ零しながらワッと泣き出す。


「(どういうことだ?帰りづらい事情でもあるのか)」


 こうも感情の変化が激しいのは愛情深く育てられた証拠だろう。

 口減らしという線は考えにくい。


「わ、わたし、主様の、お役に…ひっく」


 だとすると俺について行くよう言い含められているんだろうか。

 うん、きっとそうだな。


 なら帰す必要は無い。

 遠慮なくこき使…俺個人へのボランティア活動を自発的に行っていただける。


 あとは適当に「あなたが必要です」アピールしとけばおっけーだ。

 またしても【詐術】が役に立つぞ、フフフ…


「ハル、少し座れ」

「いえ、いえ、大丈夫です…大丈夫…です」


 まだ声が震えてる。

 こういう時は体を触れ合わせると落ち着くと聞いたことが無い。


「少し身体が冷えたな、暖めてくれ」

「!…はい、はい、ただ今…!」


 言われるとササッと駆け寄ってきて、背中からぴったり抱きついてくる。


 背中に当たる柔らかな感触に自分の判断が正しかったことを確信する。


「ハル」

「はい」


「さっきので俺が強いのはわかっただろう?」

「はい、はい、主様はこの世で最も偉大なお方です」


 そこまでは言われるとちょっと恥ずかしい。


「だが心までそうはいかない、この広い草原では寄り添う者が必要だ」


 まだ【詐術】が発動していない。

 なるほど、確かに草原で俺一人だと絶対迷子になるからな。


「だからお前には俺の傍に居てほしいんだ」


 ここだ!

 さあ【詐術】先生!出番ですよ!



「…………はい」


 少しの間を置いて、ハルが静かに、しかしはっきりと答える。

 身体がぎゅっと押し付けられ、暖かな体温が感じられる。


「え、あ…うん。ありがとう」


 ……あれ?

 【詐術】が発動しなかった。


 じゃあ今のは俺の本心ってこと?


「ずっと、ずっと、主様のお傍に居ります」


 ハルの心音がトクトクと鳴っているのが聴こえる。

 今背中に感じている重みは命そのものだ。


「そうか…そうだよな」


 お金で買ったからついペットに近い感覚でいたが、ハルは人格を持つ一人の人間だ。

 同じ扱いでいいはずがない。


 もちろんペットだって粗末に扱ったことはない。

 あいつは、ハムスターの、あー…あいつは俺の親友だった。


「絶対…放り出したりなんかしないから」

「嬉しうございます…わたしの、主さま…」


 しばらくハルとくっついたまま、ぼんやり空を眺めて過ごした。



 どこまでも高く澄んだ空にぽっかり浮かんだ白い雲。

 ずんぐりとした形のそれに、短い生を駆け抜けた友の姿を重ねる。


「(ハム…)」


 俺が小学生の時に飼っていた金熊ハムスターのハム…ハム?

 ハムなんとか。


 ハコベの花がお気に入りで、庭を散歩させると片っ端から貪り食っていた。

 3度目の春を迎える前に逝ってしまったので、最後に好物を食べることは叶わなかったが。

 

「ハルは何が好きなんだ?」

「主様のことが…」


「食べ物な」

「おさかなが好きです」


 魚か、街に帰ったら白身魚のフライ弁当を買ってやろう。

 あれは俺も気に入っている。


 今日はもう野草の採取はいいや。

 元からやる気無かったし。


 そういえばハルは摘んだ草を服のポケットに入れてたな。


 採取用の袋さえ用意してやってない、これではいけない。

 今後はもっと気遣ってやろう。


「ハルはいま何か必要な物はあるか?」

「主様が…」


「道具な」

「櫛があると良いかと」


 なるほど櫛か、女の子なら身づくろいしたいよな。

 せっかくの綺麗な金毛だし、手入れしないと勿体無い。


「せっかくの綺麗な御髪ですから、手を入れないと勿体無いです」

「そうだな」

「はい!」


 なんだろう…今すごく心が繋がってる感じ。

 俺達ってば最高にパートナーしてる。


 そのうち進化するかもしれないな。




 はぐれないように、との建前で、街まで手を繋いで帰った。

 といっても並んで歩くのではなく、ハルが俺の左手を両手で握って半歩後ろからついて来る形だ。

 その辺はどうしても譲れないラインらしい。


 それでも来る時のように変に気負わず、足取りも軽かった。


 俺はちゃんと居場所を作ってやれたのかな。

 どう思う?なぁ、ハム…えー…あっ!


「(思い出した…!)」


 あいつの名前はベンジャミンだった!

 ハム関係なかったね。


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