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給与額がそのままレベルに反映されたら最強っぽくなった  作者: (独)妄想支援センター
Ⅲ.世界へ踏み出す輝かしき第一歩 そして無辜なる者への果て無き慈心
32/69

32 依頼

 さて、再びやって参りました冒険者ギルド。


 相変わらず誰でもカモンなビッチドア。

 2回目ともなればまるで抵抗すら感じない。


 ギッ


「ぃ…!」


 あまりのアバズレっぷりにハルもビクビクと驚いている様子。

 新品様のお通りだ!扉を開けろー!開いてる。


 ところが運悪くいきなり魔物にエンカウント。 


「なんだお前、女奴隷を買ったのか?」

「あ、ゴンゾさん」


 また出たよハゲヒゲゴリラ。


「つい買っちゃいました」

「わかるぜ!」


 わかるんだ。 

 こいつに理解されても嬉しくないけど。


「にしても…随分な上玉じゃねえか」


 無遠慮な視線でハルの肢体をジロジロと眺める。


 まあいやらしい!なんて不躾なゴリラでしょう!


「せっかくなんで冒険者登録させようと思いまして」


 いやら視線を遮るよう前に出て話題を変える。


「これなら冒険者よりアッチ(・・・)の仕事をさせた方が儲かるぜ?へへっ…」


 だがゴリラはゲスい台詞を吐きながら回り込んで、ハルのセクシャルポイントにアクセスしようと手を伸ばしてくる。


 待たれよ!


 ガシッ


 ゴリラの腕を掴んで止め…ようとしたけどやめた。

 毛もじゃのゴツゴツした腕なんか触りたくないもん。


 替わりにハルを抱き寄せて庇う。


「ひん」


 はぁ…スベスベ、柔らかい。


「おい…」


 ゴリラが恨みがましい目で睨んでくるが、こいつの扱い方ならもうわかってる。


「実はこいつ、俺の友達の弟の叔父の叔母の甥の姪の妹の元カノの義兄の義父の義母の知り合いなんですよ」


 ゴリラの習性を利用したスマートでクレバーなマウスホイール(口車)。

 完璧すぎる自分が怖い。 


 ん…?あ!

 また「妹の元カノ」言っちゃったよ。


 だってあれ以来ずっと気になって仕方が無いんですの!


 これはさすがに気付かれたか…?


「つ、つまりゴンゾさんの身内でもあります」


 【スキル:詐術 を発動しました】


「…そうだったのか、すまなかったな」


 伸ばしていた手を引っ込めて、態度がベリーソフトになる。


 ふぅ…難しい局面だったがなんとか勝利を治めたぞ。

 ほんとこの馬鹿は馬鹿なだけが取り柄だぜ。


「侘びと言っちゃなんだが、こいつをやろう」

「これは?」


 赤色に鈍く光る丸い石。

 なにこれ?


「魔晶石だ、クレーターの調査で見つけたんだが俺じゃ扱えねえからな。狐の嬢ちゃんにくれてやりな」

「ありがとうございます、ゴンゾさんはやっぱりすごい冒険者です」


 魔晶石が何だか知らないけど一応貰っておく。

 ついでに馬鹿を煽てて木に登らせておく。


「おう!困った時はいつでも俺を頼れよ!」


 そして面白いようにスルスルと登る。

 木登りが得意ってことは西ローランドゴリラだな。

 どうでもいいか。



 さて、ゴリラなんか放っておいて登録だ。

 ハルを連れて空いてる受付へ行く。


「冒険者ギルドへようこそ」


 今回の受付嬢は白いブラウス姿の地味系お姉さんだ。


 腹痛は…よし、大丈夫だな。

 

「彼女を冒険者登録をしたいんですが」

「そちらの方ですね…あら?」


 ここで一つ問題が発生。


「奴隷を冒険者登録するには、Dランク以上の方の保証が必要になります」


 なぬ?それはまずいですよ。

 今の俺はFラン…Fランクだ。

 依頼を受けるつもりは全く無いから、今後ランクアップする見込みは無い。


「ご主人様はDランク以上…ではありませんね。他に保証してくれる方が必要です」

「すみません、もう一度言ってもらえますか」

「はい、Dランク以上の方で保証人を見つけられれば登録可能です」


 そうじゃなくて「ご主人様」のところを言って欲しかったんだけど。

 まあいいか、後でハルに言わせよう。


 しかし困ったな、Dランク以上の冒険者に知り合いなんか…


「俺に任せろ」

「ゴンゾさん!」


 まだいたのか。


「話は聞いたぜ。俺はCランクだからな、その保証人になってやる」

「さすがゴンゾさん、助かります」


 今回はほんとに助かる。

 あまりこの馬鹿を馬鹿馬鹿言うのは止めておこう。


「確認いたします、ゴンゾ様…はい、確かにCランクですね。

 ではゴンゾ様を保証人としてハルさんを冒険者登録いたします」


「お願いします」


 馬鹿のおかげでなんとかハルの冒険者登録は完了した。




 出来上がったカードをハルに渡す。


「ほら、失くすなよ」


 俺の方が失くす可能性が高いのはこの際どうでもいい。


「わっ、あ、ありがとうございます。大切にします」


 ぜひそうしてください、再発行は金貨1枚ですから。

 …俺のカードも預けておこうか?


 冗談はさておき、


「じゃあまずは簡単な依頼を受けてみよう」

「はいっ!」


 やる気は十分のようだ。




「これなんかどうだ?『野草の採取』、報酬は…銀貨1枚か」


 小遣い程度の報酬だが、最初の依頼としてはこんなもんだろ。

 野草は薬草とは違うのかな?


「野草は香り付けに使う食べられる葉っぱです。

 お外に生えていて危ないので街の人は自分では摘みに行かないみたいです」


「そうなんだ」


 どうも街住まいの人にとって外への忌避感は思いのほか強いようだ。

 街の外で活動するのに抵抗が無いってのはそれだけでアドバンテージになるんだな。


「ハルは野草の種類がわかるのか?」

「はい、はい、家では草摘みはわたしの仕事でしたので」


 なんだ、意外と使える奴じゃないか。


「じゃあこれにしよう」


 ハルに依頼票を持たせて受付してくるよう指示する。

 俺が受けるわけじゃないからね。


「ぃ、行って参ります!」


 緊張した様子のハルを見送り、ほうっと息を吐く。


「(これでひとまず収入の目処は立ったな)」


 低ランクの報酬は小額だが、1日に2つか3つこなせば俺とハルが食べる分くらい稼げるだろう。 

 どうしてもの時はカイト氏にお金を借りればいい(返済期限なし)


 生活基盤は整ったと見てよい。


「(なら次はいよいよお楽しみの女奴隷をウヒヒ…)」


 あれ?もういるじゃん。


 我ながら鮮やかな手際だと感心していると、横合いから声を掛けられた。


「ダスト様」

「はい?…っ!」


 げぇ!この前のスーツっぽい服装のキレイ系受付嬢さんだ!


「お待ちしておりましたよ」


 ニッコリと営業スマイルを浮かべ、ごく自然に退路を塞ぐ位置に立つ。


「あ、はい…ごぶさたでございます」


 大腸が盛んにぜん動を始める。

 やばい、お腹痛くなってきた…


「で…何か御用でしょうか」


「実はギルドマスターがどうしてもダスト様にお会いしたいとのことです。

 少しお時間をいただけますか?いただけますよね?」


 ものすごく嫌だ。

 これ絶対面倒な頼み事とかされるパターンだわ。


「先に用件を済ませたいのですが…」


 【スキル:詐術 を発動しました】


 よーし!スキルきた!


 ちなみに100%嘘というわけでもない。

 お手洗いに用があったりなかったりするからだ。


「ではお済みになりましたら受付奥の部屋までお越しください。お待ちしております」

「わかりました」


 用件が何なのか、いつ終わるのかは一切口にしていない。

 つまり行かなくても問題なし。


 これぞ大人の男の世渡り術、墨を吐いて逃げるイカの如し。


「さて…」


 逃げよう。

 このままギルドにいたら本当は用事なんか無いのがバレちゃう。


 ギシィ


 ビッチドアをこじ開けて表へ出る。

 どけよアバズレ!



 外は抜けるような青空。

 爽やかな風が心地良い。


 こんな日に仕事をするなんてほんと馬鹿らしい。

 宿に戻ってお昼寝しよう。


「あ、あ、主様…どこですか、主様ぁー…」


 おっと、いけね。


「ハル、こっちだ」


 半泣きでうろうろしているハルを手招きで呼び寄せる。


 外で待ってるって言わなかったね、ごめんよ。

 逃げる?何の話でしょう。


「依頼は受けられたのか」

「ぐすっ…はい、はい、この通り!」


 誇らしげに依頼票を掲げて見せる。


 [担当受付]欄には地味子さんのサインがされている。

 字が汚い俺のコンプレックスを刺激する見事な達筆だ。 


「それじゃ行くか」

「はい!はい!主様のお供ができてとても嬉しうございます!」


 ……?


 何で俺のお供をすることになるの?

 俺はこれから宿に帰って昼寝、あなたは外で野草の採取。

 おかしいでしょう。


「あ、ちゃんと主様のお名前で受けています」


 …なんだと。


「依頼票をもう一度見せてくれ」

「はい、はい、これです」


 依頼番号:11081771

 内容:野草の採取

 報酬:銀貨1枚

 期限:本日中

 担当受付:ジェイミー・クリアライト

 特記事項:ギルド規約第2章第10条適用

      ※奴隷の受けた依頼はその所有者が全ての責務を負うものとする



「(奴隷の受けた依頼は所有者が全ての責務を負う…?)」


 つまりこの依頼の責任は全部俺に……


「わたしがいっぱいお仕事すれば主様のランクも上がるそうです。

 なので、その、その、がんばりますね」


「そう…だな、がんばろ…う」


 ハルがこれだけやる気なんだから俺もそれに応えてやりたい、

 そう思っただけだ。


 そして二度とギルドを利用しないと心に決めた。





「んふふ…来ましたね謎のニューフェイスさん」


 ギルドの一番奥の部屋、誰の立ち入りも許可していないそこで、

 問題のステータスをあらためて眺める。


名前:ダスト・スター

種族:人間

LV: 測定上限超過 

HP** 測定上限超過

MP** 測定上限超過

力** 測定上限超過

守** 測定上限超過

速** 測定上限超過

賢** 測定下限超過

魔** 測定上限超過


「まったく…こんなモノを私に見せたからには、きっちり責任取ってもらいますからね…ふふ」


 チェッカーで読み取れない以上、直接本人から問い質すしかないわよね。

 待ってなさい、貴方の隠された秘密を丸ごと全部暴いてあげちゃいます。


「例え言いたくなくてもギルドに所属する以上、私の指示には逆らえないわ」


 そう!美人有能受付嬢とは仮の姿、私こそが現ギルドマスターなんです!

 ふっふっふ、驚く顔が目に浮かぶよう。楽しみで仕方ないわぁ。




「…遅いわね」


 かれこれ1時間、そんなに焦らして私にどうしろって言うのかしら。

 でもいくらなんでも遅すぎる。


 ちょっと様子を見て来ましょう。


「(いない…?)」


 ホール内には姿が見えない。

 受付の子に訊ねてみる。


「ねえジェイミー、ダストさんはどちらかしら?」

「ダスト様ですか?随分前に帰られましたけど」

「…は?」


 帰った…?

 なんで、ギルドマスターが会いたがってるって言ったわよね?


「なによ…それ」


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