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給与額がそのままレベルに反映されたら最強っぽくなった  作者: (独)妄想支援センター
Ⅱ.最初の街での怜悧な立ち回り そして商人相手の鮮やかなネゴシエーション
31/69

31 夜と朝

 あの後、改めて宿屋親子にハルを紹介した。


「ハルルル…いえ、ハルです。主様に貰っていただいた奴隷です」


 ちなみに貰ったんじゃなくて買ったんだからね。


「私ノーラ!ノーラだよ!ノーラって呼んでね!」


 ノーラちゃんそれ名前以外の情報が何も無い。


「大変だったな。まあ、ゆっくりくつろいでくれ」


 人攫いに捕まってたことになっているので二人とも好意的に接してくれる。

 捕まった原因はともかく全て事実だもんね、うん。


 特にノーラちゃんはやけにハルを構いたがって、食事の後にいろいろ話しをしていたようだ。


 俺はその間にハル用の寝床を整えておく。

 一緒のベッド、というのも考えたが、それだと絶対眠れなくなるので別に用意することにした。


「じゃ~ん、綿~」


 モコモコ丸の人に貰った綿の塊。


 ハルが言うには羊毛の綿らしい。

 生家でもこうした綿に包まって寝ていたそうだ。

 それなら丁度良いということで、これをハルの寝床として使う。


 貰ったはいいがどうしようかと思っていた謎の綿だが、

 意外にもすぐに使い道ができて良かった。


 部屋に戻ってきたハルは恐縮した様子で何度もお礼を言ったり、

 全身を清めるだの言い出したけど、なんとか宥めて寝かしつけた。


「…………すぅ」


 明かりを消してからもしばらくは俺の様子を窺っていたみたいだが、

 疲れもあってか程なく寝息を立て始めた。 



「…やっと寝たな」


 じゃあちょっとトイレに行ってきますね。




 ゴソゴソ


「ふぅ…」


 休火山となったカチカチ山を拭きながらふと思う。


「(コレ(・・)もこっちに来てから一度も洗ってないな…)」


 【謎の光】でパッと照らして見ると、やはりいくらか汚れが積もり始めている。


 やっぱり清めて(・・・)もらえばよかったかな。

 でも果たしてそれだけで済むだろうか。


 まあいいや、明日洗濯する時にこっそり洗おう。




「……」


 部屋に戻ってもハルは気付かずに眠っていた。


 体を丸めた姿勢で綿に包まって、時折ふにゃふにゃと寝言を呟いている。

 怖い夢でも見てるのかな。


 大人びて見えるがまだ15歳、JCⅢだ。

 今日くらいは抱っこして一緒に寝てやれば良かったかもしれない。


 でもそんなことしたら俺のボーイが大人びちゃう。

 ダメだ、却下、寝る。


 代わりに夢の中でサキュバスちゃんにゴニョゴニョしてもらおう。ふふふ…



 しかし願いに反して、夢に出てきたのは奇声を発するカイト氏だった。


 くそっ!



◆◇



 朝です


 今日はいつもの紳士服ではなく、上下セットワンコインの現地服を着用する。

 予想はしてたけど、これウール100%だわ。肌触りはあまり良くない。


「これを洗っておいてくれ」


 蒼峰産高級紳士服は洗濯に出す。


「……はい、はい、畏まりました」


 ハルはまるで珍しい宝を扱うみたいに両手で恭しく……



 なんてできるわけないよな。


「他に洗濯するものはございませんか?」

「無いな、それより先に朝食にしよう」



 ハルを伴って一階に下りる。


「おはようございます!ダストさん、ハルさん」


「おはよう」

「おはようございます、ノーラ様」


 ウェイトレスしてるノーラちゃんが元気にご挨拶。

 俺がプレゼントしたエプロンを着けてくれてるみたいだ。


 思った通りウェイトレス感アップで一層お姉さんっぽく見える。

 一生懸命背伸びをしてるお姉さん。俺より年下、不思議。


「もうっ!『様』なんて付けなくていいってば!」

「でも、でも、わたしは奴隷ですので…」

「ハルさんは私より年上なんだからいいの!それにうちのお客さんには変わりないでしょ?」


 確かに年上だけど、この二人は14歳と15歳だ。

 俺から見りゃどっちもJC。仲良くなりすぎるとお巡りさんが飛んでくる。


「……そうだな。変わりないな」


「ほら!ダストさんもいいって言ってるよ!」

「あ、あの、その、では…ノーラ…さん」


 俺そんなこと言ったっけ?


 ハルの手を握って嬉しそうにしているノーラちゃんは朝日よりも眩しいサンフラワー。


 傍から見るとよくわかるが、この子は本当にボディタッチが多い。

 『俺に対してだけかと思ってたのにぃ!』と勘違いした奴がストーカー化しかねないぞ。


 カウンターでうんうん頷いてる親父はその危険を理解してるんだろうか。


 やはりかわいい姪の安全は俺がバッチリ守ってやらねば。

 ストーカーが寄り付かないように俺が後をつけて行動を逐一チェックしないと。



 朝食はバター付きのパンに、オムレツと豆のスープ。

 清潔な食器に綺麗に収まっている。それを内臓フル稼働の俺はどんどん詰め込んでいく。


 一方、ハルは困ったように俯いたまま食器を見つめている。


「どうした?」


「寝て起きただけなのにどうして食物をいただけるのでしょうか?」


「うん?」


 話を聞くに、どうもキツネ族は朝食を摂らないようだ。

 というかそもそも朝食の概念が無い。


 食事は労働に対する報酬であって、朝はまだ何の仕事もしていないのだから食べないのが当然だ。ということらしい。


 働かざる者食うべからずを地でゆく精神性。

 俺の存在を真っ向から否定する危険思想。


 これはまずい……


「あれぇ?ハルさん全然食べてないじゃない」


 給仕をあらかた終えたノーラちゃんが、自分の朝食を持って俺達と同じテーブルに着く。

 ごく自然に同席してくれるの好き。


「どうしたの?お腹痛いの?」


 具合が悪いのかと心配してハルのお腹をさする。


「ここが痛い?ここは?」


「平気です、そこも」


「じゃあここ……っと!ご、ごめんなさい」


「んン!そこがおかしいみたいです」


「えっ?でもここって、あの……」


「主様にお会いしてからずっとぽかぽかしています」


「あ、あのね……そういうことはあんまり人前で言わない方がいいと思うんだ」


「?」


 早起き発動。

 ちょっとトイレに行ってきます。


「あれっ?ダストさんも具合悪いんですかっ!?」


 いえ、元気すぎて困るくらいです。




 戻ってきたら普通にごはん食べてた。

 

 ノーラちゃんがうまいこと言いくるめてくれたみたい。

 頼りになる。好き。





「今日はこれから冒険者ギルドでお前を冒険者登録しようと思う」

「はい、はい、がんばります!」


 予定では元冒険者奴隷でパーティーを組んで、討伐系の依頼をガンガン受けさせるつもりだった。

 でもよく考えたら、奴隷落ちした不良冒険者が素直に俺の言うこと聞くわけないよな。


 それなら従順なハルに簡単な仕事をさせて、小金を稼いだ方がいい。


 ちなみに奴隷はその証として左手首に革紐っぽい細い腕輪を巻いている。

 これに主人が自身の血を染みこませることで所有権を証明するのだが、俺はあえてそれをしていない。

 だってほら、俺って血とかダメな人だから…ではなく、あくまでかわいそうなキツネさんを解放してやったのであって、隷属させたいなどとは微塵も考えていないからだ。本当だ。


「よし、行くぞ!」

「はいっ!」

 

 ところで冒険者ギルドってどう行けばいいんだっけ。


 一度行っただけの場所なんて覚えてるけないよな。

 迷いの無い足取りで道に迷う俺は人生の迷い人。

 

 どこかで尋ねようか…ん、あれはいつぞやの服屋さん。


 丁度良い、ハルの服を買ってやろう。

 今着せてるのは俺の予備の現地服だ、すごく野暮ったい。


「ここが冒険者ギルドなのですか?」

「ん、服屋だな。お前の服を買う」

「?!」


 ここでまた自分には勿体無いだの、ボロ切れでいいだのと言い出した。


 馬鹿なこと言うんじゃないよ猥褻物。

 服装が人の印象に与える影響の大きさを、コスプレAVを例に挙げてしつこく説明してやった。


「衣装を汚したくないのはわかる、でも全部脱いじゃったら意味無いじゃんよ」

「あの、あの、それは…」


 要するにハルが理解できないことを一方的に喋って煙に巻いたんだ、うん。



「いらっしゃいませ」


 店に入るとすぐ店主のおじさんが接客に出てくる。

 中から俺達のやりとりを見ていたらしい。 


「服をください」

「仕立てですか?それとも出来合いの物で?」


 出来ればこの場で着せて帰りたいんだが、女物の既製服もあるんだろうか。


「すぐ着られるので、この子に似合いそうなやつを」

「それならこの辺りの物ですね、どれも金貨2枚ですよ」


 示された一角には袖の短いブラウスに、スカートとエプロンがセットになった衣装が並んでいた。


 なんだっけこれ、ディアンドル?欧州の田舎娘が着ているみたいなやつだ。

 色は赤と緑の二色だけ。後から青が発売されるかもしれない。


「じゃあこれ2着と…あ、そのフードみたいなのも」

「まいどあり」


 フリフリした可愛らしい被り物を見つけたのでこれも購入。

 道行く若い女性が日除けに被っていたのを思い出したからだ。

 女ばっかり見てたわけじゃないぞ。


〔ハーフボンネット〕

 品質:高

 効果:日除け・頭部保護(微弱)

 価格:金貨3枚


 ほーん。ボンネットっていうのか。

 地味に高いな…


「ここで着替えさせてもらおう」


 買った服とボンネットをハルに渡して、奥の試着室へ行くよう指示する。


「勿体のうございます」


 そう言いつつも軽い足取りでカーテンで仕切られた試着室へ向かう。

 何がボロ切れでいいだよ、しっかり喜んでるじゃないか。


 そういえば奴隷商で買った時に着ていたスケスケ衣装はどうしよう。

 いつまでも持ってたらノーラちゃんに変に思われるぞ。


 ここで買い取ってくれるかな?

 キツネ娘の使用済みなんですが、いかがでしょう。




「(その場で脱いだ物なら高値がつくかもしれない…)」


 ビッグビジネスを妄想していたら、ハルがカーテンの隙間から恥ずかしそうに顔だけ覗かせる。


「あの、あの…」

「どうした?」


「その、その、少しきつい所があって…」


 ははぁ~なるほどね。


 どこがきついかなんて聞くまでも無いが、

 ここはあえて自分の口からはっきり言ってもらいたい。


「遠慮せず言ってみろ、どこがきついって?」

「おちちです」


「……」


 直接的すぎるよハルさん。


 「胸」でいいじゃない。

 それをあなた、「お乳」って…


 俺が悪かったね、ごめんよ。


「お乳がきついです」


 言い直さなくていいから、聴こえたから。


「あの~すいません」

「はい、いかがされました?」


 収まりきらない部分は仕立て直しをしてもらった。

 追加で銀貨3枚払ったけど仕方ない、大切な器官ですから。




「(その場で脱ぐことによって『体温』という付加価値が生まれるわけで…)」


 待ってる間に大商いを妄想していたら、ハルが試着室から出てきた。


「…できました」


 そうか、デキたか。

 じゃあ結婚しよう。


 じゃなくて無事にお着替えできたらしい。


「いいじゃないか、似合ってる」


 まあかわいい!お人形さんみたい。

 地味な衣装でもこの子が着ると華やかに映る。


「あっ、あっ、あり、ありがとうございます」


 照れながらはにかむ姿がちょっとヤバいくらいに可憐。

 こんなかわいい村娘がいるなら一生村人Aでもいいと思えるくらいだ。


「良かったですね」


 横で店主さんが遠い目をして穏やかに微笑んでいた。

 なぜかは知らないが仕立て直し代をサービスしてくれた。


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