3 商人
俺達の活躍で馬車を取り囲んでいたゴブリン共は全てこと切れていた。
俺達の、ね。
呆然と突っ立つ商人さん、見たところ普通の人間のようだ。
樽みたいな体型のおっさんだけど、ドワーフじゃないよね?
ちなみに、馬車の中にヒロイン候補の女の子が乗っているかも、
と期待したが中身は全部荷物だった。
苦労して助けたのがおっさん一人だけという事実は俺の心を急速に萎えさせる。
「お怪我はありませんか?」
人知れず落ち込む俺を余所に、
イケ高君が人好きのする笑みを浮かべて商人さんに話しかける。
「お、おぉ…ありがとうございます。あなた方が助けてくれた…んですよね?お二人だけですか?」
人数を確認してきたのはたぶん、圧倒的な戦果に対して二人というのは少なすぎるからだろう。
途中から何だか楽しくなってきてぽんぽん石を投げてたけど、30匹はいたゴブリンを皆殺しってのは確かにすごいような気がしないでもない。アリの巣相手に無双した少年時代を思い出す。
「なんにせよ助かりました、私はカイト。ご覧の通りの商人です」
異世界人から見ても商人とわかるまさにテンプレ商人。
「僕は池野高志、タカシが名前です。そしてこちらが…」
「ダストだ」
「えっ?…五味さん何を言って…」
「俺の名はダスト・スター」
そうさ。
なぜ異世界に来てまでゴミクズを名乗らなきゃいけない。
クズはクズでも今日から俺は星屑になる。星の王子様だ。
聡いイケ高君はすぐに察してくれたのか、それ以上は突っ込んでこなかった。
突っ込むのも突っ込まれるのもお断りだぜブラザー。
「タカシさんにダストさんですね。お二人はご兄弟なのですか?」
ハハッ!バカ言うなやおっさん。
誰がこんなクソ陽キャ野郎と兄弟だ。
ふざけたことぬかすと鶏みたいに〆るぞ。
「同郷の者だが兄弟ではない」
ここはきっぱり否定しておく、何事も最初が肝心だ。
俺が強いらしいことは判明したから口調も少々強め。
たかが商人なんぞにナメられるわけにはいかん。
「ほほう?それにしては似ていると思ったでのすが」
え?!いま似てるって言った?
リア充イケメン陽キャ高校生と俺が似てるって言ったよね?ね?!
いやぁ~まいったな、やっぱり見る人が見ればわかっちゃうのかな、
この俺の内面的イケオーラが。
さすがにやり手の商人さんともなれば確かな鑑識眼をお持ちなわけだ。
やっぱり商人てのはすごいね!最高だね商人!
商人なんぞと馬鹿にするクズ野郎は俺が許さん。
…うん、わかってるよ。
単に髪の色が同じだからとかその程度の意味だろ。
「まあ異せか…異国の方には見分け難いかもしれんな」
見慣れない人種だとみんな同じに見える~みたいなもんだ。
気に入った金髪爆乳洋ピンモデルの出演作探す苦労を思い知れ。
名前書いてないとほんとわからん。たまに顔変わるし。
それでも…!
俺はこの商人さんの慧眼を信じたい。
俺はイケ高君に似ている=俺はイケメン。証明終了。QEなんとか。
【スキル:見る人が見ればわかるイケメン を習得しました】
ちょっ!?ここでスキル習得なの?!
まてまて!なんだその微妙っぽいのは!?
どうせならもっとパーフェクトなイケメンにしてくれ。
たのむ!!
……
しかし無情にも新たなメッセージは流れてこなかった。なんてことだ…
おそらく類似したスキルは習得できない仕様なんだろう。
俺に完璧イケメンの資格が無いとかそんなことは決して無い…はず。
「ところでお二人はどこからいらしたのですか?」
俺の気持ちなど知る由もなく、商人さんはすっとぼけた声で訊ねてくる。ひっぱたくぞ。
思慮深い俺は即答を避け、しばし思案する。
もし正直に「ニポンから来ましたざます」なんて言ったらどうなる?
頭のおかしい不審者扱いされるに違いない。
だったら「田舎から出てきたので常識に疎いんでごわす」とか答えておいて、ついでに情報と同情を引き出せば完璧でごわす。
そうと決まればイケ高君が余計なこと言わないよう釘を刺しておくでごわ…おこう。
さりげなくアイコンタクトを…って、ダメだこっち見てない。
「僕達は日本から来ました」
あーあ…言っちゃった。
何も考えずに発言しちゃう人って嫌いだわ。
もし異世界人が迫害の対象になってたらどうする気だよ。
えっ!キミが囮になって俺を逃がすって!?
まあなんて立派なんでしょう!
「はて?聞いたことのない地名ですね。ここはピーチャン王国メルメル子爵領の西部大平原です」
幸か不幸か商人さんはあちらのことを何も知らないようだった。
イケ高君の足を折って囮にする計画は延期された、よかったね。あくまで延期だが。
にしてもピーチャンにメルメルってふざけた地名だな、西部大平原が一番まともだわ。
やっぱり西部大平原てのはすごいね!最高だね西部大平原!
そうでもない?
そうでもないか。