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給与額がそのままレベルに反映されたら最強っぽくなった  作者: (独)妄想支援センター
Ⅱ.最初の街での怜悧な立ち回り そして商人相手の鮮やかなネゴシエーション
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24 勇者さまのお話

 ギルド観光を終えた俺はそのまま服を買いに行く。


 今着ているのはトリップした時と同じ、青や…ブルーマウンテン産の高級紳士服だ。

 上着はルチアさんにとられちゃったからシャツの上はベストのみだけどね。


 そう!俺はベストを着用しているんだ、紳士っぽいだろ?


 ともかくこれは替えがきかないからなるべく温存したい。

 目立つのも避けたいし、ここは現地迷彩の地味服を調達したいところだ。


 とりあえず目に付いた店に入ってみる。


「服をください」


 ギブ・ミー・えー…服。


「仕立てですか?それとも出来合いの物で?」


 あら、異世界のくせに既製服があるのね。


「すぐ着られるので、普通のやつを」

「それならこの辺りの物ですね、金貨1枚ですよ」


 なるほど、1万円スーツコーナーか。

 でも売り物の程度は野良着レベル。


 近代文明以前の繊維製品の高さはデフォだから仕方ないか。


「じゃあこれを2着と…あ!そのエプロンもください」

「まいど」


 フリルの付いた可愛らしいエプロンを見つけたのでこれも購入。

 ノーラちゃんへのお土産だ。


 これからお料理頑張るとか言ってる子にエプロンをプレゼントとか、

 今の俺は最高に気の利いた大人の男してる。


 もちろん狙いは別にある。

 これを着て給仕したらウェイトレス度アップ間違いなし。

 ますますお姉さんぽくなるノーラちゃん、ウェイトレスのお姉さん。

 俺より年下でもお姉さん。

 

 するとどうなる。


 甘えても許される。


 な?





 完璧すぎる計画に満足しつつぶらぶら歩く。

 ニートは引きこもりとは違うので普通に街を散策してもいいんだ。


 おっ、屋台でドーナツっぽいお菓子を売ってるな。

 あれもお土産に買っていこうか、うん…?


 違和感を感じたので素通りする。

 なぜか屋台のおばちゃんに「またよろしくね!」と言われた。


 やだ…知らない人に声掛けられちゃった、こわい。


 曖昧に笑いつつ軽く会釈をして足早に立ち去る。


 ふー…危なかったぜ。

 恐らくは俺の計画を妨害しようとする組織の刺客だろう。


 家康もびっくりの用心深さで、危機を華麗に回避してみせたぜ。



 次に訪れたのは本屋さん。


 さすがに用件も3件目ともなると怠け心が騒ぎ出す。

 しきりに「もう帰ろうぜ」と訴えかけてくる。


 まあお待ちなさいな、帰ってもネットもゲームも無いんですよ?

 せめて本くらい買っていこうや。


「…これが本?」


 なんとか宥めすかして来たものの、俺の知ってる本屋さんと何かが違う。

 置いてあるのは冊子じゃなくて巻物だ。


 一応店員さんに確認した方がいいかな。


「これは本ですか?」

「これは本です」


 This is a book.

 どうやらこの世界では巻物が一般的な本の形らしい。


 これじゃ「薄い本」って表現が使えないな。

 かわりに「細い巻物」か?なんだか趣きが無いね。


「勇者様についての本とかありますか」

「もちろんたくさんありますよ、これなんかわかりやすくておススメです」


 差し出されたのはズバリ『勇者さまのお話』、どう見ても子供向け。

 どういう意図があって成人男性の俺にこの本を薦めるのでしょう。


 …もしかして子供へのお土産だと思われてる?

 すいません、当方独身子無し素人DTです。


 まあいいか、子供ならこれから作ればいい。

 もしくは俺が幼児化すればいい。


「それください」

「金貨1枚です」

「高いな!」

「じゃあ銅貨1枚で」

「安いな!」

「では銀貨1枚で」

「よし買った!」


 …あれ?


 不思議な気分で本屋を後にする。

 時刻はまだ昼前だけど今日はもう帰ろう。





 昼食を済ませた後は、ノーラちゃんが働く姿をぼんやり眺めながら過ごした。


 たまに視線に気付くとニコっと笑顔を返してくれるのが嬉しい。

 こういうところはちょっとユリーカちゃんに似てるな。

 まだ別れてから一日も経ってないけど急に恋しくなってきた。


 俺の嫁候補元気にしてるかな、お風呂入ったかな、今日の下着は何色かな。

 そういえばどうして別れてきたんだっけ?疲れてたからかな。

 

 客足が落ち着いたところでお土産に買ってきたエプロンを渡す。


「わわっ!これを私にくれるんですか?!」

「ああ、料理の練習をするなら必要だろう」

「ダストさん…ありがとうございます、私その、大事に…いえ、頑張りますね!」

「うん」


 とっても喜んでくれた。

 買ってきて正解だったな。


 親父が厨房でウンウンと頷いている。

 一番頑張らないといけないのはあなたですからね。





 その晩は早速買ってきた本を読む。

 異世界で夜更かししちゃう俺ってばマジ文化人。


 でも油ランプの照明だけだと薄暗くて目を悪くするかもしれない。

 ちょっと明かりを足そう。


 【スキル:謎の光 を発動しました】


 よし、よく見える。


 ガタン


 ドサッ


「うん?」


 なんだか部屋の外が騒がしいぞ。

 野良猫が喧嘩でもしてるのか?


 ウ~ワンワン!

 他所でやれ。


 ふー、さてなになに…



 ■ ■ ■



 ──1000年前、魔界から魔王リーチがこの世界にやって来ました。


 リーチは地上の魔物全てを従えると、人の国へ攻め寄せてきました。


 魔王に率いられた軍勢は、たちまちいくつもの国を攻め滅ぼします。

 世界一の魔導帝国も、最強の鉄騎王国もまるで歯が立ちませんでした。


 とうとう全ての国が滅ぼされ、人々は魔物に脅えながら隠れて生きる辛い時代を迎えます。


 そんなある時、西の草原に勇者さまが現れたのです!


 勇者さまの名前はキタミヒカル・ロクサイデス。

 黒い髪に黒い瞳の少年でした。


 この世界に来たばかりの勇者さまのもとに双子の姉弟が馳せ参じます。

 二人はすぐに勇者さまがこの世界の救い主様であることに気が付き、お供を申し出ました。


 勇者さまは仲間に絆の証名(アーダナ)を授けることで自身の力を分け与えることができました。

 双子の姉は「アキノセンセイ」、弟は「ピーチャン」を新たな名とし、共に旅に出ました。


 勇者さまはその後もお供になった人達に、絆の証名(アーダナ)を与えました。

 彼らは英雄としてその力を振るい、魔王の軍勢と戦いました。


 そしてついに激しい戦いの末、魔王を討つことに成功したのでした。


 ★英雄達の活躍は「英雄」シリーズ(全87巻)で詳しく描かれています

  各巻銀貨2枚で好評発売中 お子様の教育にぜひともお役立てください

 

 戦いの後、皆は勇者さまに王様になって欲しいと頼みました。

 けれど勇者さまはそれを断り、代わりにピーチャンに国を治めるよう言いました。


 ピーチャンは言いつけを守り、一生懸命国を建て直しました。 

 勇者さまはアキノセンセイと結婚し、その国で幸せに暮らしたということです。



 ■ ■ ■



「なるほどね…」


 勇者様がいたのは1000年前のことらしい。

 そして魔王を斃して隠居した、と。


 これは有益な情報だ。


 実は勇者が存在すると知った時点で、密かに「なら魔王もいるのでは?」と懸念していたんだ。

 ほんとはいま気付いたんだけど。


 しかし実際はとっくの昔に滅びていた。

 1000年前なんて遥か大昔、恐竜とかマンモスと同じレベルだぜ。ガオー

 そんなのいないも同然、この世界に脅威は存在しない。


 やったー!

 これで俺の異世界生活も安泰だぜ!

 勇者様に感謝だな。


 そういや勇者様の名前が少々気になる。


「キタミヒカル…か」


 どう考えても日本名だよな。

 何やらおかしな姓もくっついてるけど。


 「キタミヒカル・ロクサイデス」って、

 これもしかして「北見(喜多見?)ヒカル、6歳です(・・・・)」じゃないの?


 子供の自己紹介をフルネームと勘違いしたんじゃなかろうか。

 双子の姉弟とやらも中々のおバカさんだったのかもしれない。


 しかも姉の方は最終的にヒカル君(6)と結婚しちゃうとか、どういう倫理観してんだ。

 ちくしょう羨ましい…当方、オネショタ大好物です。


 アキノ先生か、どんな人だったんだろう。

 どんなショタ食い女だったんだろう。

 肖像画とか残ってないかな。

 

 幼児にとっての先生っていうと幼稚園か保育園のだよな。

 もしかしたら初恋の保母さんに似ていたのかもしれない。


 あー気になる。

 異世界トリップした幼児を魔王討伐まで導いちゃう保母さんとかすごい気になる。

 俺もそんなお姉さんに優しく導いてもらいたいだけの人生だった。


 気になるといえば、弟のピーチャンもかなり珍妙だ。

 なんだよピーチャンって、鳥かよ。


 どういう経緯でそんなあだ名つけられたんだ。

 せめて人間の名前にしてやれよと思う。


 この国がピーチャン王国なのもヒカル君(6)のせいだったわけだ。

 しかも他の仲間にも片っ端からあだ名をつけていったらしい。

 もしかしたらこの先もふざけた名前に出くわすかもしれないな。


「さて…そろそろ寝るか」


 さっきからずっと【謎の光】を出しっぱなしだ。

 魔力はまだまだ余裕だけど、あまりやりすぎて周囲に影響が出たらまずい。

 ベッドに入って妄想でもしてればすぐ眠たくなるだろう。


 今日はせっかく本を読んだんだから、これをベースにしよう。

 お気に入りの作品に自分を登場させて活躍させる手法、君達もよくやるだろう?


 今回は、そうだな…

 俺は幻の88人目の英雄で、実は勇者様と同じ世界から来ていたという設定。

 彼以外に姿は見えず、陰ながらサポートする役回り。

 勇者の兄貴的ポジションだ。


 最後の戦いで魔王の攻撃から勇者を庇って死亡…いや、魔王と相討ちにしよう。


「キミはいつも一人ではなかった」 ビシッ


 これ決め台詞。


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