表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
給与額がそのままレベルに反映されたら最強っぽくなった  作者: (独)妄想支援センター
Ⅱ.最初の街での怜悧な立ち回り そして商人相手の鮮やかなネゴシエーション
23/69

23 冒険者ギルドにて

 朝よー

 

 昨夜は変な夢を見た気がする。

 内容はよく憶えてないけど、股間にテントが設営されている。

 きっと楽しいキャンプの夢だったんだろう。



 今日の予定は特に無し。

 とりあえずの寝床は確保できたので、その辺をぶらぶらしてみようと思う。

 お約束の冒険者ギルドとかあれば行ってみたい、観光目的で。


 まずは朝ご飯をいただきましょう。

 階下からいい香りが漂ってくる、この世界で初めての朝食だ。

 

 やっぱり呪いなんて無かった。

 疑ってごめんなヒーローソード、当面はサブウエポンとして使わせてもらうよ。

 メインは石ころ様だけどな。


 ソードを()ごと掴んで腰に提げると、身支度を整えて一階へ向かった。



「あ!おはようございます!」

「おはよう」


 一階に降りるとウェイトレスしてるノーラちゃんが元気良く挨拶してくれる。


 こうしているとお姉さんぽく見える、ウェイトレスのお姉さん。

 俺より年下だけどお姉さん、不思議だね。


「昨日は本当にすみませんでした」


 ぱたぱたと駆け寄って来てぺこりとお辞儀する。


「いい、気にするな」


 朝日のような晴れやかな笑顔。

 昨夜あの後、親父といい話でもしたのかな。


「あれからお父さんといろいろお話したんです。

 これからはキチンとお料理を教わろうって」


「それはいいことだ」


 でもそういう報告は俺じゃなくて担任の先生にしてね。


「はい!味見も毎回必ずお父さんがしてくれることになったんです」

「ほほぅ…」

 

 どうやら親父は覚悟を決めたらしい。

 厨房の奥から悲痛なオーラが漂ってくる。


「早くお客さんに出せるものが作れるように頑張りますね!」

「期待して待っているよ」


 他の客が。


 例えばそこの…あっ!目を逸らした。


「あの…」

「うん?」


 まだ何かあるのかな、早くご飯食べたい。


「遅くなりましたけど、私ノーラっていいます。この宿の娘です」


 知ってる、【鑑定】したから。


「お客さんのお名前を教えてもらってもいいですか?」

「あぁ…」


 名乗ってなかったっけ。

 そういえば宿帳とかに名前を書いた憶えも無い。


 え…?そんな得体の知れない人間を泊めたんですか?

 この宿のセキュリティは大丈夫なのかしら。

 いくら俺がスタンドアロンでも物理的な侵入は防げないんだぜ。


 やだ…こわい。


 おっと、いけね。

 ノーラちゃんが不安そうな顔で目を伏せちゃったぞ。


「俺はご、ダスト。ダスト・スターだ」

「ダストさん!ですね!」


 パッと顔を上げると本日一番のグッドスマイルを披露する。

 さっき目を逸らした客も思わずガン見するほどだ。


 でも名前を教えただけでそんなに喜ばれると逆に変な疑い持っちゃうな。

 あの…勝手にお金とか借りないでくださいね。


「私のお料理が上達したらダストさんには一番に食べてもらいたいです」


 えぇ~…何で俺が。


「…楽しみだ」

「はい!期待しててくださいね!」


 親父が厨房でウンウンと頷いている。


 この野郎!他人事だと思って…!

 きっちり毒見はしてもらうからな。


「というわけで、残念ですが今朝はまだお父さんの作ったお食事で~す」


 残念じゃない、ちっとも残念じゃないよ。

 むしろずっとこのままでいい。


 異世界初の朝食は根菜のスープと魚の香草焼き、あと黒パン。

 黒パンは草原で食べた堅くて不味いあれと違って、黒いだけで普通のパンだ。

 ややビターな味わいが大人の俺にぴったりフィット。


「おかわりありますよ」

「頼む」


 【アーリィ・ライザー】の効果なのか、朝なのに内臓の調子がすこぶる良い。

 調子に乗って全部おかわりしたが、胃もたれする様子も無い。

 

 これは意外と良スキルだったかもしれない。

 何しろパッシブで生涯効果があるんだからな。


「ふぅ、ごちそうさん」

「お粗末さまでした」


 注いでもらったお茶を飲む。


 ノーラちゃんは俺が食べている間ずっと給仕してくれてたけど暇なんだろうか。

 他にも客はいるみたいだけど…


 あ、ほら。さっき目を逸らした客が何か言いたそうにしてる。

 いいのかな?いいか。





 この宿には概ね満足したので、当面はここに泊まることにする。


「しばらく世話になる、これは前金だ」


 金貨を5枚渡す。

 これで10日は泊まれるはずだ。計算間違ってないよね?


「わっ!あ、ありがとうございます!」


 ノーラちゃんは金貨を大事そうに両手で受け取る。

 こういうところに純真さを感じる。お小遣いあげたい。


 子供はちょっとのことでも喜んでくれるからかわいいよね。

 お土産にお菓子買ってこよう。



「出かけてくる」

「いってらっしゃい!」


 女の子にお見送りされて出かけるのは気分がいい。

 仕事に行くわけじゃないのが若干心苦しいが。


「っらっしゃい」


 親父は黙ってて!


 



 さて、昨日はあまりよく見なかったけど、なかなかに広い街だ。

 活気はあるが建物がゆったり配置されているせいか、人の密度は低い。


 これは俺的にかなりありがたい。

 人混みは俺にとって毒の沼地だ、歩くだけでHPがガンガン減っていく。


 見た感じ道行く人はほとんどが人間らしい。

 もしかしたら微妙に違う種族もいるのかもしれないけど、外見に大きな違いは見受けられない。

 

 特に若い女性は日除けのフードみたいな物を被ってる場合が多いので、

 パッと見ただけでは定番のエルフ嫁がいるか判別できない。


「(どこにいるんだー…どこに……おっ!?)」


 まだ見ぬ嫁を探していると、明らかに人間でない種族を発見。

 でかい爬虫類が二本の足ですっくと立ち、ノシノシと荷運びをしている。


「(トカゲ人間!リザードマンか?!)」


 いいねぇ、ファンタジーだねぇ!


 【スキル:鑑定 を発動しました】


〔ワークリザード〕

 品質:中

 効果:健康

 価格:金貨25枚

 備考:直立した大型のトカゲ

    運搬用の使役動物 

 

 鑑定結果は物扱いだった。


 使役動物…知的生物じゃないのか、がっかりだわ。


「すみません」

「グワッ」


 やっぱり動物か。


「すみません」

「はいよ」


 これは屋台のおばちゃん。


「冒険者ギルドへはどう行けばいいでしょうか」


 不足するファンタジー分を補うべく、お約束の観光スポットへの道を尋ねる。


「それならこの道を真っ直ぐ行って右へ曲がった先にあるよ」

「なるほど、ありがとうございます」


 良かった、冒険者ギルド存在したよ。

 「なにそれ?」とか言われたらどうしようかと思った。


「あ、あとそれ3つください」

「銅貨6枚だよ、ありがとね」


 道を訊いたから、というわけではないが屋台の商品を購入する。

 ドーナツみたいなお菓子だ、ノーラちゃんへのお土産にしよう。





 う~ん、柑橘系の果物の香りが強くてほのかに甘い。

 砂糖の塊みたいな本物ドーナツに比べるとちょっと物足りないかも。


 ドーナツもどきを食べながら道を歩いていくと、大きな看板を掲げた建物が見えてきた。

 ここが冒険者ギルドだな。


『冒険的専門職業者総合互助事業機構西部地区出張所』


 …正式名称なげえ。


 堅苦しい名前とは裏腹に、両開きの扉は開け放たれていて誰でもウェルカム。

 このビッチドアめ、さては俺の冒険者童貞を奪うつもりだな。


 ギシッ


 何の抵抗も無くスルっと中に入る。

 ひゃあ!こいつガバガバだぜ!


 …うん。


 中に入ると想像していた酒場兼用みたいな雰囲気とは違い、

 建物内にはたくさんの掲示板が等間隔に並んでいる。


「(これが…ギルド?)」


 掲示板に貼られているのは全部依頼のようで、

 これを奥の受付に持って行って受注するらしい。


「(思ったよりずっとお役所的だぞ…)」


 仕事の斡旋が主な目的で、パーティーの結成や冒険者同士の情報交換のようなファンタジー要素が抜け落ちているように感じる。


 元の世界の感覚でいえばむしろ利用しやすいとも言えるが、

 俺は依頼を受けるつもり…というか働く気は全く無い。

 観光で来たんだ。


「(お約束の絡まれイベントも起きそうにないな)」


 当然ながら酔っ払いなど一人もいない。

 他の利用者は真剣に掲示板に見入っている。


 まあ、絡まれるのは嫌なんだけど、こうも何もないとさすがに寂しい。


「ん?」


 ぶらぶら歩きながら見回していると、ふと受付嬢さんと目が合う。

 黒いカチっとした服を着こなしたキレイ系のお姉さんだ。


「どうぞ、こちらへ」


 迷っていると思われたのか、涼しげな微笑を浮かべお招きしてくれる。


 しかしここで俺の苦手センサーが反応する。

 あの黒い服がどうにもスーツに見えて仕方がない。


 詳しくは話せないが、某行政機関の女性職員に不備を厳しく指摘された記憶が甦る。

 お腹痛くなってきた…


「…はい」


 いっそこのまま帰ろうと思ったが既にスマイルを頂いてしまった以上、

 このまま出て行けば対価不払いで罪に問われる可能性がある。


 しょうがない…頑張れ俺の括約筋、今こそ活躍の時だ。


「冒険者ギルドへようこそ」 


 見事な営業スマイルで迎えてくれる。

 さすがにあの長ったらしい名称は普段使わないらしい。


「初めての方ですね、ご登録ですか」

「いえ、登録はしません」


 ただの観光客ですから。


「ではご依頼ですね?」

「依頼でもない、んです…」


 冒険者に依頼したいことなど特に無い。

 女性エルフ限定で俺の嫁になってくれる依頼が可能なら別だが。


「…では何をしにき、来られたのでしょう」


 曖昧な態度を取っていたら、営業スマイルが不審者を見る目に変わる。


「失礼ですが身分証を拝見してもよろしいでしょうか」

「……」


 まずいぞ。

 ここには俺の身元保証女神のルチアさんがいない。

 俺を赤ポニテにぎにぎしないと安心して眠れない体質にしておきながら肝心な時にいないとは何事であるか!


「もしかしてお持ちでないのですか?」


 黙っていると、受付嬢さんは独力で正解に辿り着いてしまった。


 …こうなれば逃げるしかない。

 いやダメだ、顔を見られてる。


 となれば……やるか。


「身分証は無いんです、この街に来たのは初めてでしてね」


 やると決まれば堂々としたもの、気分はすっかり居直り強盗。

 毒を食わずばヒダの一枚一枚まで賞味させていただきます。

 

「なんだ、じゃあやっぱりご登録じゃないですか!」


 身分証不携帯であることを白状したというのに、

 どういうわけか受付嬢さんから警戒の色がスッと消えた。


「街の外から来られた方ですと、冒険者ギルドに登録してギルドカードを身分証として使う方も多いんですよ」

「ははぁ…」


 そうだったのか、意外と俺みたいなのがいるみたいで安心した。

 この世界は身分証不携帯の不審者で溢れているらしい。

 いやぁ安心、安心…じゃねえ!物騒すぎる!


「実はそうなんですよ、登録をお願いします」


 そうと知れば尚更登録しておくべきだろう。

 そんなに不審者だらけならいつ職質がきてもおかしくないからな。


「はい、かしこまりました」


 危ない局面もあったが、なんとか身分証を入手できそうだ。

 俺の冷静な判断力と培った経験が活きたといえる。

 特に何もしてないともいえる。


「では冒険者について説明させていただきます」

「よろしくお願いします」


「冒険者のお仕事はとってもカンタン!」

「え…」


 おいおい、いきなり不穏なワードが出てきたぞ。


「まず依頼を選んで受付します」

「ふむ」

「依頼を達成したら報酬が貰えます」

「うん」

「依頼に失敗したら報酬が貰えません」

「そりゃそうだ」

「場合によっては罰金が科せられます」

「ありゃま」


 罰金て…マジかよ

 これは予想以上にダークネスじゃないの。


「依頼をこなしていくとランクが上がります。

 ランクはA~Fまでで、最初はFからスタートです」

「なるほど」


「ギルドカードを身分証代わりにしている方は皆さんだいたいFランクですね」


 俺もその手の輩だからFランクだな。

 うん、Fラン…俺はFラン…うっ、頭が!


 ところでランクといえばお約束のアレが無いぞ。


「Aの上にSランクとか無いんですか?」


「あるにはあるのですが…余程の偉業を成し遂げない限りはSランクに認定されることはありません。

 それこそ勇者様に匹敵するくらいでないと…」


 おぉー!

 ここへきてお約束のビッグネームが登場だ!


「勇者様ですか…」

「ええ」


 この世界にもいたんだ。

 要チェックだな、後で調べておこう。


「では登録いたしますので、このプレートに手を触れて下さい」


 受付嬢さんが奥から細かい紋様が彫られた銅色の金属板を引っ張り出してくる。

 なんだろう、すごくワクワクする。


「これは何ですか」

「ステータスチェッカーです、現在のレベルとステータス及び補正値を計測する道具ですね」


 やっぱりそうだ!

 これをバーン!て弾けさせればいいんだね?


 よーし、やってやる…


 いや、待て。

 本当にいいのか?


 俺のステータス、というかレベルはかなり高い。

 強いとかかっこいいとか抱いてー!とか尊敬される次元じゃない。


 さすがにまだ見ぬ勇者様よりは低いだろうが、

 それに類するものが無職でブラブラしてたら世間の目が怖い。


「あの…やっぱり登録するの止めます」

「えっ、何故ですか!?」


 ここまできて尻込みする俺に受付嬢さんが驚きの声を上げる。

 それがまるで世間の人達の反応に見えた。

 「えっ、あの人レベル高いくせに無職なの!?」みたいな…


「ステータスとか見られると恥ずかしいので…」


 本当の理由を言えない以上、感情に訴えるしかない。

 もらい事故でいつまでも首が痛いと言うのと同じだ。


「それならご安心ください、登録情報を外部に漏らすことは決してありませんから」

「でも…」


 俺の懸念を払拭するように丁寧に言い含めてくれるが、どうにも踏ん切りがつかない。

 しかし身分証は欲しいし…う~ん。


「そもそも出張所に配布されているチェッカーでは詳細な計測はできませんので」


 迷っていたがその一言が決め手になった。


 俺は【鑑定】で見放題だから忘れていたが、

 確かに他人のステータスが見られる道具なんてそうそうあるとは思えない。


「…それだったら」


 ようやく心を決めて金属板に手を載せると、紋様がぼやっと光を放つ。

 チキチキと小さな音を立てて板に情報が刻まれていく。


「はい結構です」


 受付嬢さんは金属板にサッと目を通す。


「犯罪歴等は…ありませんね、登録完了です」

「ありがとうございます」


 どうやらこれで犯罪歴が判ってしまうらしい。


 今後はついカッとなってやらかさないよう気を付けよう。

 いくら強くたって四六時中ヒットマンに狙われたら心が保たないからね。


「こちらがギルドカードです、再発行にはまた(・・)料金がかかりますので紛失にはご注意下さい」

「わかりました、気を付けます」


 金属製の小さな札を手渡される。

 入門の時に他の人が持ってたのと同じやつだ。


 ようやく念願の身分証を手に入れたぞ。

 大事にしよう、失くしたらまた(・・)料金がかかるらしいからな。


 …また?


「カード発行料は金貨1枚になります」


 有料でした。


「発行料は依頼報酬から差し引くことも可能ですがいかがされますか?」

「…いま払います」


 何度も言うようだが俺は依頼なんか受けるつもりはない。

 想定外の出費は痛いが、ここは大人しく払っておくとしよう。


「以上で手続きは全て終了です、今後のご活躍を期待しています」


 暗に依頼を受けるよう勧められる。

 この場で発行料を払った俺が、依頼を受ける気が無いことを見抜いたんだろう。


「はい、まあその…ぼちぼち」


 またしてもお腹が痛くなってきたので、ごにょごにょと言葉を濁して立ち去った。





「おい!待ちな」


 帰ろうとしたら知らない人に呼び止められた。


「なんです…うわぁ」


 振り向いてみると、ハゲでヒゲのゴリラみたいなおっさんが仁王立ちしていた。

 どう見てもこれから因縁つけますって雰囲気だ。


「冒険者はな、お前みたいな軟弱な野郎には務まらねえんだ!おとなしく帰りな!」

「ご心配なく、今から帰るところですので」


「どうしても帰らねえってんなら俺が冒険者の厳しさを…あ?」

「帰ります」

「お、おぅ…」


「…」

「…」


 割とノープランだったらしい。


 いいのかな?行っていいのかな?

 よし、帰ろう。


「待て!」


 なんだよ!


「俺はCランク冒険者のゴンゾ様だぞ!忠告してやったんだから謝礼を寄越しな!」


 素早く要求を切り替えてきた。

 ゴリラのくせに意外と頭の回転は速いらしい。


「(さて、どうするか…)」


 適当に〆ちゃったらまずいよな。

 犯罪歴が付く。


 ほどほどに痛めつけるにはどうすればいいだろう。


 【謎の光】で威嚇は…ダメだ、周囲にも影響が出る。

 受付嬢さんがビビってお漏らししちゃうかもしれない。


 ぜひ見てみたい気もするが、さすがに仕事中にお漏らしは可哀想だ。

 その辛さは俺が一番よく知って……うっ。


「へへっ…なぁに、金貨1枚くれりゃそれ以上は何もしねえよ」


 ブルってる俺を見て怯えてると思ったのか、図に乗って態度がでかくなる。


 勘違いするな、俺はただトラウマを刺激されただけだ。

 貴様のような下等生物など恐るるに足らんわ。


 俺も釣られて態度がでかくなる。 

 そうだ…【詐術】が使えるんじゃないか?

 

「俺は王子様だぞ」

「寝ぼけたことぬかすな」


 【スキル:詐術 の発動に失敗しました】


 ダメか、あからさまな嘘はバレるんだっけ。


 じゃあ今度は逆に下手に出てみよう。


「いや、俺実はゴンゾさんの友達の弟の義兄の叔父の息子の妹の元カノのマブダチのブラザーの知り合いの知り合いなんです」


 考える暇を与えないよう、早口で一気にまくし立てる。


「なんだなんだ、何言ってんだ。つまりどういうことだ?」


 よしよし、案の定混乱しているようだ。

 もう少しわかりやすく言ってあげましょうかね。


「つまりは身内です」


 もちろん全て嘘だが、おかしなことは言ってないはず…

 あ!「妹の元カノ」ってなんだよ!おかしなこと言ってた!


 これはまずいかな…?


 【スキル:詐術 を発動しました】


「…そういえばそんな奴いた、な」


 大丈夫だった。


 こんな適当な嘘でも騙されるあたり、

 スキルの成否には相手の賢の数値も関係してそう。

 

「ゴンゾさんのことはあいつからよく聞かされてました、俺もそんなすごい冒険者になりたくて…」

「そうだったのか…そいつはすまなかったな」

 

 なんだか急に優しくなったぞ。

 この手のタイプは身内には優しいって本当だったんだ。


「困ったことがあったら俺に相談しろよな、いつでも力になってやるぜ!」

「ありがとうございますゴンゾさん、あいつにもよく言っときますんで」

「おう!あいつによろしくな……?あいつって誰だっけか…」


 やばい、気付かれる。


「ほ、ほら…あの妹の…」

「ああ、元カノな。あいつか」


 妹の元カノ実在してた!?

 なんだか急に世界が美しく見えてきましたわ。


 こうして無事に身分証をゲットし、何事も無く冒険者ギルドを後にした。





「んふふ…私だけが知ってる冒険者の秘密」


 ギルドの一番奥の部屋、誰の立ち入りも許可していないそこで、

 先ほど登録した冒険者のステータスをチェックする。


「私のかわいいチェッカーちゃん、あなたの知ってることをぜん~んぶ教えてね」


 ステータスチェッカーに指を当ててロックを解除する。


 本部から配布された安物とは違う、

 大枚叩いて購入した私物のステータスチェッカーだ。


 レベル、補正値、年齢、本名と、ほぼ全ての情報を正確に読み取れる。


「外部には漏らさないとは言ったけどー…

 内部ではバッチリ拝見させてもらっちゃいま~す!」


 自信の無い男性の恥ずかしいアレを見るのが私の何よりの楽しみ。

 このためにギルドの仕事をやっていると言っても過言ではない。


「さあお姉さんに全部見せてごらんなさ~い…っと、んんん??」


 果たしてそこに浮かび上がってきた情報は――


名前:ダスト・スター

種族:人間

LV: 測定上限超過 

HP** 測定上限超過

MP** 測定上限超過

力** 測定上限超過

守** 測定上限超過

速** 測定上限超過

賢** 測定下限超過

魔** 測定上限超過


犯罪歴:なし



「なによ…これ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ