15 スキルと特性
「はぁ…」
ルチユリを鑑定する好機を逃してしまった。
それというのもユリーカちゃんをイカ臭くしたオークが悪い。
あとルチアさんも悪い。
おまけに夕食を全部吐いてしまって、お腹もハートも空っぽだ。
陽が落ちた草原の空には満天の星々が輝いている。
日本じゃまずお目にかかれないがアフリカあたりなら見られそうな煌めく星空も俺の傷付いたセンチメンタルをエレメンタルでレアメタル。
意味わからん。
そういえば俺は星の王子様(自称)なんだから星の光を魂の活力に変換して、
お腹と心を満たしたりできないだろうか?
「(天の従者達よ、星の御子の名の下に命ずる。我が許へ――集え!)」
何も起こらなかった。
そもそも俺はいったいどういう存在なんだろう。
星の王子様(自称)は無いにしても、何か変なモノになってたりしないだろうか。
【スキル:鑑定 を発動しました】
名前:ダスト・スター
種族:人間
性別:男
年齢:2X
LV :246800
HP*1 246800
MP*3 740400
力*1 246800
技*1 246800
守*1 246800
速*1 246800
賢*0 0
魔*4 987200
自分自身も【鑑定】できるのか。
賢の補正値がまだ直ってないけどそのうちなんとかなるだろう。うん。
名前はしっかり変わっている。
これでもう俺はゴミクズじゃない。
俺をゴミ呼ばわりした奴はコロス。イケ高コロス
種族は『人間』か。
もしかしたら『異世界人』になってるかもと思ったがこれなら何も問題ない。
つまりこの世界で問題なく生殖可能であるということだ。
生殖行為までもっていけるかはまた別だが…
いっそのこと【即ハメおっけー】スキルとか手に入らないかなー。
あ、そうだ。スキルの詳細も確認しておこう。
【スキル】
①詐術:常時有効
適当に吐いた嘘でも信用される
あからさまな嘘はさすがにバレる
②投擲:常時有効
物を投げる際、速度と命中にプラス補正
補正値は現在の力と賢の平均値
③見る人が見ればわかるイケメン:常時有効
優れた鑑識力を持つ者に対し容姿上昇補正
④闇夜の狙撃手:常時有効
夜間・暗所での投擲に命中プラス補正
補正値は現在の賢と魔の平均値
⑤アーリィ・ライザー:常時有効
早起きが苦でなくなる
胃もたれ防止にプラス補正
補正値は現在の守と速の平均値
⑥ヒーロー推参:常時有効
ヒロインのピンチに颯爽と駆けつける
移動速度にプラス補正
補正値は現在の速*100
補正後の数値が一定以上で転移可能
⑦謎の光:任意発動
全身から青白い燐光を発して対象を威嚇
成功率および効果は彼我のレベル差に依存
消費MP100~
⑧例の電撃:任意発動
指定対象に電撃を放つ
電圧は現在の魔力*1000
消費MP1000~
⑨祈り:任意発動
祈りによって願いを叶える
消費MP500~
⑩鑑定:任意発動
対象の情報を表示する
成功率は彼我のレベル差に依存
消費MP10~
【特性:先着10】
スキルの取得に必要な経験量を99.999%減少させる
先着10個まで
「ちょっと待てよ…」
スキルの詳細は概ね予想通りだからいいとして、
【特性】に気になる点を発見してしまった。
「スキルの取得に必要な経験量を99.999%減少させる…か」
あれだけ簡単にスキルを習得できたのはこれのお陰だったか。
おそらく普通にやったら相当な努力や才能が必要なんだろう。
ありがたいことじゃ。
「それが先着10個まで…」
さすがに無制限に覚えられるほど都合よくいかないらしい。
今後は習得するスキルを慎重に吟味していかなければならない。
慎重に吟味していかなければならない。
「……もう埋まっちゃってるじゃんよ」
なんてこった…
まさか初心者限定のボーナス特性だったとは。
いや、ボーナスの話なんか止めよう、頭が痛くなる。
あ…でもボーナスで思い出した。
「先着10」ってこれ、俺が入社した時の採用形態だ。
当時採用その他諸々担当してた人が激務に耐えかね、
ヤケになって選考一切無しの先着順で10人採用したんだ。
俺のようなゴミ…ちょっとユニークな学生さんが就職できたのにはそんな悲しい事情があった。
ちなみにその時の10人はX年経った今でも全員勤めている。
まさか俺が最初の脱落者になるとは思わなかった…それも異世界転移という形で。
まあ、なんにせよ俺はこれ以上スキルを覚えることができないというわけだ。
努力?なにそれ。
こんなことなら剣でも振り回して鉄板の剣術スキルを習得しておくべきだった。
せめてイケ高君みたいにパンチでもしてれば格闘系のスキルが手に入ったかもしれない。
「攻撃に使えそうなのは【投擲】と【例の電撃】くらいか…」
【闇夜の狙撃手】は投擲の補助に近いし。
【アーリィ・ライザー】に到っては只の健康補助。
元の世界で持っていたら重宝したかもしれないが。
ともかく俺は今あるスキルだけで異世界をニートとして生き抜いていかなければならない。
容易なことじゃない。
でも俺にはこれしか無いんだ、だからこれが一番いいスキルなんだ。
「…そんなわけあるかよ」
透明になるスキルとか、壁の向こうを透視するスキルとか欲しかった。
無限の可能性が費えてしまったことに深く絶望した。
「寝よう」
せめていい夢が見られるよう祈ろう。
【スキル:祈り を――
待て待て!
発動せんでいい、キャンセル!
「…」
ふぅー…あぶねえ。
◆
異世界の夜は早い。
何もすることが無いし、何もする気が無いので寝るしかない。
ァンゥオ~ゥェェ
ところが、昨夜に続いてまた狼っぽい獣の遠吠えが聴こえてきた。
またかよ!勘弁してくれよ…
この草原はどんだけ狼っぽい獣パラダイスなんだよ。
だが先見性に優れた俺はこのような事態を見越して道すがら小石を拾っておいた。
決して綺麗な石を集めていたわけではない。
「(昨夜は失敗したからな)」
拳大の石を全力投擲したせいでクレーターを造ってしまったからね。
さすがにあれはまずい。俺の仕業だとバレるのが特にまずい。
考えてもごらんよ、ちょっとびびったくらいでクレーターを造っちゃう奴が街の中にいたらどうだ。
怖すぎるだろ。出てけー!ってなるよね。
しかし街に入れないと俺の快適なニート生活が根底から崩れてしまう。
自給自足のネイチャーニートなど、もうニートとは呼べない。ただの野人だ。
俺はあくまで健康で文化的なノーワーク・ライフを送りたいんだ。
「(でもこの石なら…)」
ビー玉くらいの大きさのピカピカした小石。
この程度なら力を抜いて投げれば上手いこと追い払えるんじゃないだろうか。
というわけだから、狼っぽい獣よ、
俺の幸せの為にこの小石を食らってギャイン!とか言って退散するがよい。
…って、あれ?小石どこいった。
暗くてよく見えん。
【スキル:謎の光 を発動しました】
おっ、結構明るい。
威嚇用のスキルだけど照明代わりにも使えるな。
小石は…うん、手に持ってたわ。
「(じゃあこれを適当に…それっ!)」
ゴミ箱に使用済みティッシュを投げ捨てるくらいの力加減で小石を投げる。
ヒューン
「(おおっ…!カーブしてる)」
あまりに適当に投げたせいか、狙いが大幅にずれていたらしい。
それでも【投擲】と【闇夜の狙撃手】の効果が載った小石は強引に軌道を修正し、
大きく曲線を描いて目標へ向けて飛んで行く。
ギャイン!
そして見事に命中。
「(なるほど…俺が最大の力を発揮するのは夜間に物を投げた時なんだな)」
すごく微妙です。
ともかくこれで獣は逃げ出すだろう。
痛い目に遭っても懲りないのは欲深な人間と記憶力の怪しいバカだけだ。
俺がどっちにも該当するなんてことは一切無いので安心してほしい。
「もう大丈夫だ」
口に出すのは自分に言い聞かせる効果がある。
怒り狂った獣が逆襲に来るかも?と思ったら怖くなったとかそんなことはない。
内心ビクビクしていると、前方でいくつもの火が焚かれ始める。
そうだった、今は見張りの人達がいたんだった!
安心したら眠くなってきた。
夢の中でサキュバスちゃんに会えたら嬉しいな。
おやすみぃ、ぐぅ…