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給与額がそのままレベルに反映されたら最強っぽくなった  作者: (独)妄想支援センター
Ⅰ.異世界トリップからの冷静な状況分析 そして草原での華麗なる無双劇
13/69

13 定番

 ともかく当初の目的である本隊との合流は果たされたわけだ。

 まずはカイト氏からルチアさんに事情を説明してもらう。


 現状、俺は突然現れてオークを塵にした謎の男でしかない。

 そこで一応は信用のあるカイト氏に俺を紹介してもらって改めて名乗る段取りだ。


 その間に護衛の騎士達の様子を診てみる。


 カイト氏が応急手当をしたようだが、足を折られていてこのままでは歩けそうにない。

 殺されていないのは意外だが、オーク的にはご馳走が最優先だったのだろう。


 ダメ元で【祈り】を使ってみたら見事に回復した。

 このスキルの回復効果はかなりのものらしい。


 3人とも特におかしな反応はしていなかったので、アレ(・・) はユリーカちゃん特有の反応か、

 あるいは重ね掛けが良くないのかもしれない。


 自分には絶対に何があっても使わないようにしよう。


「ありがたい…」

「ありがたい…」

「ありがたい…」


 全く同じ台詞を微妙に音程を変えて礼を述べる護衛の3人。

 話を聞くと、彼らは子爵家に仕える正規の騎士だそうだ。

 足並みが揃っているのは訓練の賜物か。

 だからって台詞まで全く同じなのはどうだろう。


 ちなみに通常、オークは1体退治するのに兵士3~4人でボコる必要があるらしい。

 騎士なら1人で相手にできないこともないが、今回は数が多すぎた。


 30匹オークちゃんはもはやどうにもならない災害みたいなもので、

 それを一瞬でパウダーにした俺は最早対抗心とか持つレベルじゃないようだ。

 そのせいかやけにおとなしい。


「動けるなら見張りでもしていたらどうか」

「「「承知!」」」


 言ってみたら素直に従った。 

 ビシッとした礼をして駆け足で三方に散っていく。


 ふー…騎士とか実際に見るとリアルマッチョすぎて怖い。

 俺の方が強いのはわかっていても心の強さはまた別物だ。


 圧迫感から解放された俺の心を草原を吹く風が優しく撫でる。


 ピタッ


 うわっ!虫だ!

 こいつめー!





 【スキル:祈り を発動しました】


 せっかくなので潰れた虫に【祈り】をかけてみたが…生き返らないか。

 これほんとにただの回復スキルなんだろうか?


 検証の結果なにも判らなかった。



 さて、カイト氏は上手く説明してくれているかな。


 遠目で様子を窺ってみると、何やら大げさに身振り手振りを繰り返している。


「~~!~~~ッ!!」


 あ!ジャンプした!

 そこからのチョップ!

 

 俺そんなことやってねえよ!?

 てか自分の体重考えろ、膝が死ぬぞ。


 それを聞くルチアさんも熱心に頷いたり、拳を握ってゴクリと息を呑んでみたり。


「~~~!」


 そして両手をバンザイしてわーっと快哉を叫んでいる。


 あれが子爵令嬢として取り繕わない素の表情なんだろう。

 肉体の発育は良好だが精神的には意外と幼いようだ。


 逆にユリーカちゃんは側に控えたまま静かに耳を傾けている。

 時折ハッとした顔をするが、すぐに澄ました侍女フェイスに戻る。

 これも訓練の成果なのかしらね。


 たまにこっちの様子を窺っているようで、俺が見ているのに気付くと微笑んで小さく手を振ってくる。


 …あれだな、相当に【祈り】が癖になってるな。

 これ以上は身体にどんな悪影響があるかわからないし、

 少し彼女を避けた方が良さそうだ。イカ臭いし。



 粗方説明が終わったのか、カイト氏がルチアさんとユリーカちゃんを先導して来る。


 ザザザッ


 話をしているうちにまたテンションが上がったのか忍者走りみたいに身を低くしている。

 おい、おっさん…膝の負担もそうだがまずは歳を考えろや。


「お待たせいたしましたダストさん、こちらメルメル子爵のご息女ルチア様です」

「ルチア・‡・メルメルです。この度の多大なお力添え、父に代わりまして御礼申し上げます」


 片足をスイっと引いて膝を折る、優雅な礼を違和感無くこなす。

 やっぱ本物は違うわね。


 ミドルネームの(それ)は何て読むんだろう?後でカイト氏に聞くか。

 ルチアさん相手にはできるだけ格好付けたいからね。


「こちらはルチア様の侍女のユリーカさん」

「ユリーカと申します」


 例のにこり微笑に両手をお腹の前に組んで上半身を折る上品なお辞儀。

 姿勢が正しくて美しいね。

 やっぱ本物は違うわね。


 さて次は俺の番だな。


「ダスト・スター、旅の者だ」

「え?そうでしたっけ」


 カイト氏は黙ってて!


「旅の方…でしたか、行き先はどちらなのでしょう?」


 ルチアさんが期待した風な様子で訊ねてくる。


 どうしよう、こっちの地名なんて一つも知らないぞ。

 敢えて言うなら自分探し…?


「当ては無い、修行の旅だ」

「え?そうだったんですか」


 カイト黙れや!


「旅の途中で申し訳ないのですが、どうか街までご同行願えませんでしょうか。

 お礼も、その…落ち着いた場所で…ごにょごにょ」


 ルチアさんはあまり背が高くないのか、向き合うと自然に上目遣いの形になる。

 もちろんそんな風にお願いされたら一発で落ちるわけだが。


「構わない、元より街には立ち寄るつもりだった」


 都市なら不労者一人養う余裕くらいあるだろう。

 そこでなんとか宿主を見つけてニート生活したいもんだ。


「本当ですか!あ、ありがとうございます」


 なにがそんなに嬉しいのか、パアッと表情を輝かせる。


 しかしこの子、あらためて正面から見るとほんと美人さんだわ。

 宝石のような真紅の瞳が美しい。舐めたい(眼球舐めは一般性癖)


「必ず、必ずお礼させていただきます!」

「(ダメですよルチア様、何度も申しますがそのお役目は私が、私がいたしますからね)」


「(…ユリーカ、あなたもしかしてあの方のこと)」

「(ち、違います!いえ、全く嫌だというわけでも…あ、そう!侍女の務めですから!)」


 えっ?なんだって?

 聴こえない。


「せいっ!せりゃああああ!!!!」


 ビュン ビュバッ


 ……マジで聴こえん。


 おっさんが威勢の良い掛け声とともにパンチとキックを繰り出してるせいだ。

 ほんとどこまで子供返りしちゃってるのこの人…





 出発の段になって、ルチアさんから同乗のお誘いがあった。


「ダスト様、よろしければ私の馬車へご一緒にどうぞ」


 絶対嫌だ。


 だってこの馬車見るからに乗り心地悪いもん。

 車輪はスポークスの無いただの木の円盤だし、当然サスペンションなど付いていない。


 道だって舗装されていない踏み固められただけの草原道だ。

 俺のメインウエポン石ころ様がゴロゴロ転がっている。


 おまけとばかりにイカ臭いユリイカちゃんが同乗する。

 こればっかりはどうしようもない。


 元々ルチアさんのお付きみたいだし、強姦(未遂)に遭ったばかりの女性にまさか外を歩けとも言えない。

 そんなわけでこの乗り物酔い必至の吐瀉物製造ボックスに入るという選択肢は最初からありません。 


「いや、私は殿しんがりを務めよう。馬車に籠っていては危険に対処できない」


 もっともらしい理由をでっち上げてやんわりと断る。


「ですが大恩ある御方にご不便をお掛けするわけには…」


 いやいや。

 遠慮してるわけでもボランティア精神でもなくその馬車に乗りたくないだけなの。

 せっかく威厳あるキャラ作りを頑張ってきたのにゲロは全てをぶち壊す。

 こればっかりは譲れない。


 少しきつめに拒絶しておこう。


「せっかくだが狭い箱は性に合わない、気にせず先に参られよ」


 それとなく馬車に乗るのが嫌なことを伝える。


「そう…でしたか、差し出がましいことを言って申し訳ございません…」


 ようやく俺が馬車に乗りたくないことに気付いたのか、しゅんとなって項垂うなだれてしまう。

 ご令嬢専用馬車に乗ってもいいよ、ってのは本人的にはかなり大盤振る舞いしたつもりだったんだろう。

 だが相手にとってはそれが全く無価値であると知らされて落ち込んじゃうのもまたかわいい。





 殿を務めるとか言っちゃったので隊列の最後尾をカイト氏と歩くことになった。

 後尾にいるのは商会の人達、つまりカイト氏の部下だ。


「カイト様!ご無事でしたか」

「うむ、遅くなって心配かけたな」


「カイト様、こちらの荷は全て無事です」

「うむ、よくぞ守ってくれた」

 

 本当に社長さんだったんだね。

 へへっ…お荷物お持ちしましょうか?


「おいパーシー!」


 カイト氏はその中で下っ端らしき少年を呼びつける。 


「ヘイ!ボス!」


 小柄な少年が元気良く飛び出してくる。


「金貨を100枚出してきなさい」

「ヘイ!ボス!」

 

 命じられると、瞬く間にサッと金貨を持ってくる。

 パシリのくせに妙に優秀だな、エリートパシリだ。


「どうぞお受け取りください。ゴブリンから救っていただいたお礼です」

「ヘイ!ボス!」

「お前じゃない!」

「ヘイ!ボス!」


 カイト氏からずしりと重い布袋を手渡される。


 ジャラン


 中にはたくさんの金貨が詰まっていた。


 ちょっと多くないかこれ?


 俺の知ってる金貨コインだと100枚あれば俺が一人増えるはず。

 ニートが増えてもどうしようもないけど。


「随分と多いようだが」

「…タカシさんの分もお渡ししました。彼はその、惜しいことです」


 なるほどイケ高君の分も含めてか。

 あいつはもうサキュバスちゃんのヒモだからお金はいらないよね。

 遠慮なく俺が貰っておこう。


 そういえばルチアさんにはイケ高君のことをどう説明したんだろう?

 あいつに興味を持たれると俺的にあんまり面白くないんだが…


 まあ、あいつはもうサキュバスちゃんのヒモだから関係無いか。

 サキュバスちゃんほんとありがとう。機会があったらお邪魔させてね。


「なるほど、後で渡しておこう」


 独り占めしたと思われないように適当言っておく。

 もちろんイケ高なんかに分けるつもりは無い。


「しかし彼はもう…」


 カイト氏は奴が死んだと思い込んでいるようだがそれはない。

 あれはどう見ても愛の逃避行だった。クソッ!


「奴とて戦士の端くれだ、あの程度で死んだりはしない」


 やりすぎて腎虚で死ぬ可能性はあるだろうけど。


「機を見て遊びに行ってやるつもりだ」


 サンドイッチをご馳走になる約束をしたからね。

 してなかったっけ?したよね。

 ふふっ!楽しみだな!


 思わずニヤリと笑みがこぼれる。


「なんと!さすがはダストさん!マジすげえ!」


 それを強者の余裕と解釈したのか、随分と感心してくれた。

 俺がイケ高君の報酬をネコババしたとは思うまい。



 ところで金貨の価値ってどれくらいなんだろう?

 これからニートをやる上で重要なことだし今のうちにカイト氏に聞いておこう。


「金貨100枚とは金貨が100枚のことです」

「ヘイ!ボス!」


 ふざけてんのかこいつら、24万6800パンチ食らいたいのか。


「例えばこの馬車馬が金貨200枚くらいです、安い奴隷なら同じくらいの値で買えます」


 なんと奴隷!異世界モノのお約束!

 ドリームゲージがぐんぐん上昇していく。

      ⇒

 MIN ■■■■□ MAX


「ほぅ…奴隷か」

「若い女の奴隷ですとその10倍くらいはします」


 !…心を読まれた。

 恐るべきスキルだ。


「一般的な市民の月収が金貨10枚程ですね」


 すると金貨が100枚あれば10ヶ月は働かなくても暮らせるのか。

 ほんのちょっとゴブリンを捻っただけでこれならニート生活にもいよいよ現実味が出てきたぞ。


 ちなみに金貨の下に銀貨と銅貨があってそれぞれ10枚で上の貨幣に相当だとか。


 金貨=壱万円、銀貨=千円、銅貨=百円とでも覚えておこう。


「もちろん全てがお金で買えるわけではありません、例えばこの木彫りのお守りですがね…」


 カイト氏が懐から素朴な感じの木彫り細工を取り出す。


 それをじっと見つめていると――


〔木彫りのお守り〕

 品質:低

 効果:守+1

 価格:絶対売りませんよ

 備考:グラス村の未亡人の手作り

    持つ人の無事を祈る想いが守を僅かに上昇させる


 なんか出た!


 【スキル:鑑定 を習得しました】


 異世界モノの定番スキルきたー!


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