10 遠き日の夢
空へ立ち昇る黒い煙。
電撃を受けたオークは、焼き豚をすっ飛ばして一瞬で消し炭になった。
「(やっべえ…なにこの威力)」
電撃って言ったらギャグ漫画のそれみたいにビリビリでガイコツな感じを想像していた。
しかし現実に目の前にあるのは真っ黒な焼死体。
正直ここまでするつもりは無かった…
DTを捨てられぬまま死んで逝った者へ、心から哀悼の意を示す。
「(地獄で鬼娘にDTを奪ってもらうといい)」
なにそれちょっと羨ましい。
【スキル:祈り を習得しました】
俺の真摯な祈りに応えてまたもやスキルを習得。
よし、さっそく使ってみよう。
「(鬼娘来い!今なら俺の素人DTプレゼント中、逆レもおっけーです!)」
地獄へ届け、俺の願い。
【スキル:祈り を発動しました】
キラキラリン
ところがどういうわけか、淡い光に包まれたのは先程の被害女性さん。
細かい擦り傷がキレイに消え、虚ろだった目にハイライトが戻る。
「ぅ…ぁあ、え…えっ?」
どうやらこれは鬼娘召喚ではなく回復スキルだったようだ。
どの程度の回復力があるかは不明だが、少なくとも消し炭からは復活できないらしい。
いや、復活されても困るんだけど。
他にもっと大怪我した人いないかなー。
実験台を求めて辺りを見渡すと馬車の方から誰かやって来た。
「ユリーカ!無事か!?」
赤い髪をポニテにした若い女性だ。
帯剣して、胸当てを着けている。
えっ!まさかまさか!女騎士様ですか?!
「ぁ…ルチアさ、ま…?」
ありゃ?被害女性さんが様付けするってことは…
もしかしてこの人が例のご令嬢?
つまりなんだ、姫騎士か!
まあ素敵!結婚してくださいませ。
「ごめん、ユリーカ。わたしのせいでこんな…」
姫騎士(仮)は被害女性さんに駆け寄り、抱き起こす。
「ルチア様、どうして…」
なるほど、姫騎士(仮)がルチア様で、被害女性さんがユリーカか。
心のメモ帳にしっかり記録しておこう。
「すぐに綺麗にしてあげるから」
ルチア様は白い布を取り出すと、ユリーカちゃんに付着した絵の具を拭い始める。
「だ、だめです…ルチア様、汚いです…」
実のところ、絵の具が乾き始めたユリーカちゃんからは猛烈なイカ臭さが漂い始めている。
しかしルチア様は躊躇うことなく、髪に着いた分も梳くように丁寧に拭き取っていく。
「そんなこと気にしないさ」
いや、気にしようよ。
その拭き方だと逆に髪に擦り込んじゃってるよ?
「……」
ユリーカちゃんの髪に絵の具を擦り込みながらも、時折こっちをチラチラ窺っている。
「…っ!」
目が合うと、ハッと顔を逸らし、またせっせと擦り込み始める。
…それきっと臭いが落ちなくなるぜ。
とりあえず拭き拭きが終わるまでの間は暇だし、状況を確認しておこう。
まずは噂のルチア様。
目にも鮮やかなクリムゾンレッドの髪を高い位置でポニテに結わえている。
彼女の動きに合わせて左右にフリフリと揺れるそれは魅惑の猫じゃらし。
飛びつきたくなる衝動に駆られますニ゛ャー!
視線を落として胸元。
遠目には随分と厚手の胸当てを着けてるな?と思ったが、
近くで見ると実は厚手なのは中身の方。
堅い革製の胸当てを内側から押し上げている。
そして下半身はスカート…ではなく黒い乗馬パンツみたいなものを履いている。
これが非常にまずい。
何がまずいって、黒いピッチリしたパンツが黒パンストに見えることだ。
そのせいでスカートはき忘れたポンコツちゃんみたいになってしまっている。
しゃがみ込むとキュッとしたヒップラインが露わになって…うん、まあそれは良いな。
心のプリントスクリーンをそっと連打した。
ふぅ…状況確認終わり。
充実した一日だった。
え?オークはどうしたって?
そんなのどうでもいいじゃん。
ブゴー!
ブホッブホッ!
ブギャーッヒャッヒャッ!
…というわけにもいかず、むしろ獲物が増えたことで益々興奮しだす。
「あわわ…」
ルチアさん(ポンコツ認定で「様」から格下げ)も不穏な空気を感じたのか、
縋るような目でこちらを見る。
「あ、あのっ!そこの御方!」
誰のことだろう?今の俺はいきなり現れた不審者だし…
いや不審者は言い過ぎか、通りすがりの学芸員だ。
御方…おかた…オーク方。ああ、オークね。
しかしオークって改めて見るとかなりでかいよな、体もアレも。
「相当な使い手とお見受けします」
あんなのに使われたら純朴な村娘もあっという間にベテラン娼婦もビックリのアナコンダ。
どっかで村襲撃イベントとか起きないかなー。
「この場を乗り切るため、どうか力をお貸しいただけないでしょうか?」
おか、犯しいただけないでしょうかだって?!
まいったな…そこまで情熱的に求められちゃしかたない。
たまたま村を訪れた女冒険者もカーニバルに強制飛び入り参加させよう。
これで誰も損をしないはずだ。
「お礼は…出来る限り用意させていただきます」
丈夫な子袋にオーク大歓喜。
あっという間に一番人気のインスタントワイフに。
「あ、それとも地位をお望みえしょうか?
当家に用意できるのは騎士位だけですが、それでは…不足ですよね」
騎士!オークといえばやっぱり女騎士。
討伐に来た女騎士に群がる101匹オークちゃん。
ひゃあ!まるでピラニアだぜ!
「…他に差し出せるものといったら、その…こ、この身くらいしか」
「!…ルチア様!それはなりません!」
「しかし!このままでは私達はオークの慰み者だ!ならば…!」
う~ん…なんかそっちでも面白そうな話してるね。
俺も混ぜてもらおうかな…
「その話…詳しく聞かせてもらえるか」
あードキドキする。
女子とエロい話するのなんて小6の3学期以来だ。
心どころか声帯まで当時に戻りそうになるのを必死で抑え、
努めて冷静に落ち着いた声を出す。
「は、はいっ!あのですね、その…」
なぜか半泣きなってるルチアさんと目が合う。
顔を赤らめ、俯いたまま震える声で呟く。
「もし、貴方とであれば…私は…私は」
あいや、みなまで言うな。
わかっておる。
エロい話がしたいんだよな?
「いいだろう」
俺の声に俯いた顔をパッと上げる。
「その話、受けさせてもらおう」
「あ、ありがとうございます!」
初めて見るルチアさんの笑顔は破壊力抜群だった。
マジかよ!
こんなかわいい女子とエロい話できんのかー!ひゃっほー!
あのな!従兄弟のにーちゃんから聞いたんだけどな、女って初めての時…
「私にできることなら何でもいたします。子爵家の名誉にかけて誓います」
「ルチア様!」
……えっ。
いま何でもするって言った?
言ったよね?!
言ったよねぇえぇええぁぁぁぁぁぁああ!!??ガガガガガピー――
無限の可能性に俺の脳はオーバーヒートを起こし、そこで意識が途切れた。