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契約の真実  作者: 皐月 悠
2/7

【3】


【二、花ひらく前、つぼみふくらむへ】


「美佳、零音さんの執事喫茶どうだった?」

数日後の放課後、下駄箱で琴音が話かけてくる。

「おちついた雰囲気と、零音がかっこよかった」

視線の先には校門の近くに零音が立っている。

ただ、私に隠し事をしているのが嫌だ。困らせてみたい。

「どうしました?」

「今日、零音の執事喫茶に行きたい」

「……、かしこまりました。今日はお店でお茶をいれましょう」

零音は一瞬驚いたように目をかるく見開くと、ふっとうれしそうな笑みを浮かべる。

執事喫茶に向けて歩き始めた。

お店につくと、零音は鍵を取り出してドアを開けてくれた。

「どうぞ」

いつもと同じ優しい笑顔を浮かべているのに、私の胸がせつない。

気になりはじめたら、今までなんとも思ってなかった事も気になる。

「ありがとう」

中に入ると、落ち着いた雰囲気の木製の椅子や机がある。

まとまったデザインや色がそう思わせているのだろうか。

明かりをつけると、ぬくもりのある照明が店の中をてらす。

「ここで待っていてください」

一番奥の席に案内して、零音が奥にきえるとお湯が沸騰する音が聞こえてくる。

他の物音は何一つしない中で、不思議とざわつく心もおちついてくる。

「…美佳は、零音が執事喫茶をしている事知っていたの?」

琴音は、すとんと声を出した。

私は、わずかに首を横にふる。

「知らなかった。休日に何をしているのかなんて気にした事がない。

それ以外の日はずっと傍にいる。

それだけで、みたされていたから。

知らない事があるという事実をこんなに悲しく思わなかったし、その事すら気付かないまま過ごしていた」

「美佳は、零音の事好き?」

「……うん」

好き。

誰かに笑いかけ親しくしていると嫌だと思い、嫉妬だと気付いた。

その『誰か』には、私には見せない面を見せているのが悔しい。

そんな苦しい気持ちにも、一瞬でも、この人が離れる時があるとよぎらなければ気付きすらしない。

「恋人になりたい?」

「…分からない」

恋人になれば、ずっと零音の傍にいれるとは限らない…かもしれない。

そうなれば、このもやもやは、はれはしないだろう。

「お待たせしました」

陶器と木がぶつかる音が小さく聞こえた。

白い湯気がたつ。

雲のようにふわりとした白いミルクがのっている。

その中をコーヒーで描かれた私の好きなアゲハ蝶を舞わせていた。

続けて置かれた皿に視線を移す。

茶色のスポンジ生地の上に生クリーム。

ハートに切られている苺。

「カプチーノと苺のマフィンです」

「ありがとう」

頬が熱くなるのが分かる。

見事に私の好みで、嬉しい。

けど、このさりげなく喜ぶ事をされるのが少し悔しい。

「零音さん、器用ですね♪キレイ」

「ありがとうございます。そう言われたのは、お嬢様以来ですね。

あまり、言われた事がないです」

「こんな事がさりげなくできて、格好いいし、もてそうね」

美佳は、不機嫌にさくっとマヒィンにスプーンをさしながら、そう言う。

「もてた事ないですし、言われた事ないですよ。

告白された事もないです」

「え?…それ、本当なの?」

私が、零音をじっと見ると、何をそんなに驚くのかと表情を浮かべていた。

「お嬢様に、うそつきませんよ」

この人は、ときどきすごくすんだ瞳をしている。

いい意味で純粋で、青年というよりも少年のような雰囲気をまとっている。

仕事をしている時には、格好いいのに、そんな瞳をしている彼は可愛い。

琴音は二人の様子をみて、何かに気が付いてにっこりと笑みを浮かべる。

「……零音さんって、本当に美佳の事が好きですね♪」

琴音の紅茶のおかわりをいれようとしていた彼は一瞬動きをとめ、表情には何も出さずに、コップにおかわりをいれる。  「はい、好きです。…お嬢様、ですから」

さらりと言える彼が羨ましい。

たとえ、お嬢様だからとつけ加えて恋心を悟られないようにしていても。

美佳は、嬉しいような悲しいような複雑な表情を浮かべた。

「あ、そうそう。美佳、はいこれ」

琴音は包装された箱を美佳に渡す。

「誕生日おめでとう♪」

  「ありがとう」

美佳がかるくふると、金属のカラカラっという高い音がする。

 「家であけるね♪」

バックの中にしまう。

しばらく話してから、零音のお店を出た。

戸締まりをしている彼を琴音と二人で待っていると、前から見覚えのある人が若い女性に腕くみされ、ひっぱられるように歩いてくる。

見覚えのある方は、黒髪で左右違う長さの前髪。後ろは伸ばしている髪を上でまとめている。

若い女性は、長い髪を風に遊ばせて上機嫌だったが、クローズの看板を見るとがっかりした。

「…定休日以外の休みだったのか、残念」

「美咲、ここに来たかったのか?」

「黒崎がバイトしている喫茶店じゃない。

せっかく可愛い服着ているから、見せに来たのに」

黒崎。たしか、この前来た時に零音と親しく話していた人だ。

「それは、美咲が勝手に着替えさせただろ。

シャワーから出たら、私の服がなくなってて…代わりにこれが」

「似合っているじゃない。黒崎は女性で、サイズもぴったりだし。

ここの服はそこまでガーリーじゃないから、好みでしょ?」

黒崎は無言で反論できずにいると、私たちに気付き固まった。

その時、零音が出てきてドアに鍵をする。黒崎に気付くと笑顔を浮かべた。

「黒崎、その人が美咲さん?また、今度喫茶店にいらしてください」

そう言うと、私たちは帰路についた。

自宅につくと、ふと、零音の誕生日を知らないことを思い出した。

家でも、誕生日のお祝いをしてもらっているのを見た事がない。

「零音」

「はい」

「誕生日…プレゼントって何がほしいものある?」

「物でなら、何もありません」

「そう、だよね。勉強するから、部屋にいるね」

「では、あとで飲み物をもっていきますね」

「うん」

部屋にはいると、あさいため息がこぼれる。

零音が好きだ。

特別になりたい。

傍に居続けたいから、恋人になりたい。

零音は、好きな人がいるのだろうか。


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