アルとの出会い
鮮やかな2comboを受けた青葉は、その幼い体から放たれたとは思えない思い拳に悶絶していた。
「痛ったー・・・。マジで痛いやつだこれ。
ちょっとそこの幼じ、いやお姉さん。強すぎません?俺たち初対面ですよ!?」
「初対面で幼女などと言ってくる貴方には言われたくないですね。言っときますけど、そう言ったことを迂闊に言わないほうがいいですよ?次は遠慮しないので」
といい拳を握る。あれって遠慮したパンチだったのかと思い、冷や汗が出る。今後の対応には気をつけよう。
などと思っていると、一人の大柄な男がやってきた。厳つい顔つきで背中には大きな剣を背負っていた。男が発する雰囲気には、剣も相まって戦う男を感じさせる。
「アルさん、今日もいいですか?」
「しょうがないわねぇー。いくわよ」
といい、拳を握りしめ、男の腹にボスッ!という音を出してめり込んでいた。男は顔を痛みに顔を少し歪ませながら
「よっし!いってくるぜ!!カウンターで待ってなよアル」
といってどこかへ歩き去ってしまった。
「あの、今の人は?」
「ん?彼を知らない?てことはやっぱり冒険者?まあ、ここでは見ない服ですし、そのようですけど」
「えっと、冒険者?よくわかんないけど、彼はその冒険者って奴なの?」
というと、アルと呼ばれていた幼女は、はぁ?何言ってんだこいつ?と言わんばかりの顔をこちらに向けてきた。
「貴方、どこからやって来たの??見た感じだとこの町の出身じゃなさそうですし、それともどっか他の大陸から?」
「えっとー、強いていうなら、森の中?」
青葉は間違ったことは言ってない。確かに森の中からやって来たのだ。しかし、ハッとなって気づいた。
「(こんな事言われて信じるはずがない・・・)」
と思い、アルの顔を見てみると、憐れむような、蔑むような目をしていた。やっぱりなーと思い、やっちまったと後悔していた。しかし、急に何か思い付いたようにアルがこっちを心配そうな目で見てきた。
「もしかして、私が殴ったせいで記憶が!?」
と一人でどうしようどうしよう!?といいながら慌てていた。何か物凄く勘違いされているようなので、事の経緯を話そうと声をかけようとすると、ガッとアルが手を握り
「付いてきて!」
と引っ張られるようにアルについて行った。
しばらく歩いた先には、他の建物よりは大きめな二階建ての建物の前に来ていた。青葉は入り口の前に立っているが、現代でいう道場などの立て札の様に『ギルド局 エルビア支部』と書いてあった。
「さぁ、どうぞ」
と言われ中に入る。中は多くの人で賑わっていた。その多くは武器を持っていたり、鎧のような物を装備している人もいた。
見た所、入って正面に進んだ所に銀行や郵便局の様なカウンターが設置されており、そこには職員であるだろう人が数人座っており、人と話しているようだ。
もうその少し離れた所に椅子やソファーなどが置かれており、いわゆる休憩所のような場所なのだろう。その近くの壁には、いろんな紙が貼られてある一角があり、様々な人がその張り出されてある紙を見ていた。
「おーい、大丈夫?」
と、アルに声をかけられて我に帰る。部屋の観察でついボーッとしていたようだ。
「あ、あぁ大丈夫です」
「そう、じゃあこっちに来て」
といい、案内したのは休憩所の端にある、机を挟んで向かい合わせのソファーだった。
青葉とアルは向かうように座る。そしてふぅーっと息を吐いて、こちらの目を見た。
「貴方、記憶喪失なんですか?」
「えっと、実はそうなんです」
本当は「異世界から飛んで来ました!!イェーイ!!」などと言いたいが信じてもらえないだろうし、これ以上話がややこしくしても仕方ないので記憶喪失ということにした。
「それは、もしかして私が、殴ったからでしょうか?」
アルは申し訳無さそうに、少しうつむきながら話していた。
「い、いや!これは気づいたもうなってたんで殴られたのは関係ないです!」
まあ、殴られたのは殴られたが理由が自分のせいなので、そんなことで責任を感じてもらっても困る。だから森から前の記憶がありませんという設定にする事にした。
「そうですか・・・。あ、記憶喪失ってどこまでの記憶が無いんでしょうか?」
「えっとですね、正直に言いますと、ここがどこでどんな町でこの建物がどんなものかもわからないですね」
「 そ、それは重症ですね・・・」
アルは困惑の表情を浮かべていた。まあ当然の反応といえばそれまでなのだが。
「よし、こうなれば乗りかかった船です!私が教えてあげます!」
「本当ですか!ありがとうございます!えっと・・・、アルさんでいいんですよね?」
「あっ、そういえば自己紹介がまだでしたね。私はアルエ=クリアムです。アルで構いません」
「俺は青葉亮といいます」
「アオバリョウ、アオバさんですね」
「はい、あ、敬語じゃなくていいですよ」
「それはお互い様だね」
「・・・だな」
そういってお互いに手を出し、握手する。この世界で初めて知り合った人だった。