~眠り姫・小牧綾花~
これで奈桜を引き込めた…っと。
いよいよチームができてきたわね。
ハヤテの能力も分かったし、まぁハヤテが銀のプレートの持ち主じゃ無かったけど、結構いい収穫じゃないかしら。
欲を言うならもう一人、彼女を引き込んでおきたいわね。
その方が計画がスムーズに進むわよね?
「おい舞乃、何を企んでいやがる。そんな人の悪そうな笑みを浮かべるな!」
「人聞きの悪いこと言わないで。私は今考え事をしていたの」
「その考えていることに問題がありそうなんだが」
うっさい、ハヤテのくせに。この言葉で私の前にひれ伏しなさい。
「なんか言った?」
「いえ、何も」
よしよし、最初からそうしておけばいいのよ。さっきからツッコミが多いのよね。黙っている奈桜を見習ってくれないかしら。
それにしても、試合に勝つだけならこの人材で十分だけど、そんなことが目的で集めてるんじゃないのよ。
やっぱりあの娘をスカウトに行きますか。
朝のあの様子のままだったらまだチームも決まってないでしょ。
「もう一人チームメンバーを増やしたいんだけど、いいかしら?」
「このチームのリーダーは舞乃さんです。私に異議はありません」
「一応、俺も同感だ」
奈桜とハヤテの了承もとれたところで早速行動に移させてもらうわ。
「じゃ、今から交渉しに行くわよ」
「今からか?」とハヤテが聞いてきた。模擬戦でだいぶ時間が潰れてもう夕方になっているから明日でもいいんじゃないかっていう抗議でしょう?だけどね、
「善は急げなのよ!」
分かった?
「ところでどこに行けば新しく入る人間が見つかるのか、分かってる?」
奈桜は良い質問をするわね。答えはこうよ。
「私達の教室っ!一年三組」
そう言って私が機微図を返して勇猛な足取りで歩き出すと二人も諦めたのか、そそくさと後ろをついて来た。
それでいいのよ、それで。
私がチームに誘い入れようとしていた相手は私達のクラスにいた。
私達三人が一緒って事は、一年三組は入試成績の上位をクラスごとにバラさずまとめる事で特別クラスの意味合いを兼ねさせたんでしょう。
そしてこの娘も例外じゃないわ。
入試成績学年四位、小牧綾花。
でも四位の風格なんてまるで無いわね…。
だって朝もそうだったけど、夕方になって教室に西日が差している今でも自分の席で寝ているんだもの。
しかもマイ枕まで持参して…。どんだけ寝れば気が済むのよこの娘。
それに綾花にはもう一つ特徴的なものがあったわ。
それは眠っている時にも外さないヘッドフォン。
いいえ、コレはただのヘッドフォンじゃなくてヘッドフォン型のアシスタントデバイスね。
アシスタントデバイスは私も拳銃型のを一つ持ってるし(イロイロいじらせて貰ってカスタマイズしてるけど)、発売された二年前からすると値段も下がってきて能力を学ぼうなんて気のある人間は持ってないのは不自然ではあるけどね。
それでも、一般家庭の給料の1ヶ月位の値段がするから、入学祝いに買ってもらう生徒が多いみたいね。
アシスタントデバイスは通称デバイスって言われていて、その名の通り私達術者が展開する術式の計算を補助してくれたり、狙いを付けやすくしたり、威力を格段に引き上げたりといった恩恵をもたらしてくれるの。
内部にプレートをセットしてデバイスに触れさえすれば補助効果が付加された能力を使う事が出来るから重宝されるのよ。
でも使うアビリティの全てがデバイスによって効果が付加されるんじゃなくて、デバイスの形態と相性のいいアビリティだけなのよ。
私の拳銃型デバイスだったら何かを撃ち出す系統の能力、さっきハヤテが圧縮空気弾を使う生徒を相手にしてたけど、彼も私と同じ様なデバイスを持っていそうね。
さっきの模擬戦では個人の純粋な力量をみる為に使用出来なかったけど、朝配られたプリントによると一週間後の試合には制限が掛かってないみたい。
これは好都合。まさか、私の魔改造されたデバイスを使う機会が来るなんて。楽しみだわ。
話がそれたけど、でも、綾花のヘッドフォンから今、微かに音楽が漏れているあたり、普通にヘッドフォンとして使っていそうだけど…。
まっ、寝てたら話も出来ないし、とりあえず起こしましょうかね。
「ほら、起きなさい」
私が肩を揺すると綾花がゆっくりと体を起こす。
起き上がった綾花を見たとき、思わず私は息をのんだ。
癖っ毛のある髪に、小柄で小動物を思わせる同級生とは思えないほど童顔の愛くるしい顔立ちに、そのイメージに反するような、結構自信のある私をも凌駕するプロポーション。
やっぱり寝るからか?寝る子は育つのか?
夕日を背にして寝ぼけ眼が浮かぶ綾花のその姿は、女の私でもどうにかなってしまいそうなくらい綺麗で美しく、可愛らしかった。
「あっ、えっと、おはようございます」
「おはようって、もう夕方よ」
「ふえっ?」
しかも天然っぽいところが凶悪な取り合わせだわ。
思わず守ってあげたくなるじゃない。
だけど、この状況をどうも分かって無いみたいね。
私がどこから説明しようかと考えていると、ハヤテが綾花に近づいていって話しかけた。
「朝から寝てるやつがいるなとは思っていたが、まさかずっと寝てたのか?」
「はい。えっと、どうして授業になっても誰も起こしてくれなかったんですか?」
まず、根本的な事から分かっていなかったらしく、私達三人は綾花に夏に全国の理科高校対抗の競技大会に出場する選手を決めるために、一週間授業は無く、チームを決める為の期間として割り当てられている事などを説明した。
「そこでなんだけど、私達のチームに入ってくれないかしら?」
私は綾花にチーム入りを提案した。ここで断られたら食い下がってみようかしら?この娘押しが弱そうだし。
しかし綾花は、
「私なんかでお役に立てるのなら」
まさかの即決だった。
ちゃんと物事を考えてから発言してるのかしら。
「ところで皆さんはどちら様でしょう?皆さんのお名前も聞いて無いですし、私も自己紹介をしてないような気がするんですけど」
考えて発言していないことがよく分かったわ。
本当に守ってあげなければいけないみたいね…。
でも、綾花は学年四位なのよね。
うーん…。こんなのが四位で大丈夫なの?
私は東京理科高校の将来が少しだけ心配になった。




