~また模擬戦~
「パーフェクトで、しかも一回も能力を使わないんじゃ、何の参考にもならないのよねぇ。そりゃ、一人でどうにかしなさいって言ったのは私だけど…やりすぎよ…」
私がハヤテと強引にチームを組んだのは、何も一週間後の試合で勝ち進みたいからという理由だけじゃないのよ。
ハヤテの自己紹介の時から思っていたんだけれど、どことなく雰囲気が私を助けてくれたあの人に似ている気がするのよね。
もしもあの人だったら、あれだけ正体を隠しているNSTの創始者なんだから、直接確認した時点で警戒されて私の前では尻尾を出さなくなる可能性が高いわ。
だから、今回無理を言ってあいつを一人で戦わせたのは、ハヤテが彼なのかを確認する糸口の一つでも掴めればと思ってのことだったんだけれども、体術しか使わずに勝つなんてありえない。おかげで私が知りたい事は何にも分からなかったじゃない。
私は内心そんなことを毒づきながら、試合の終わったハヤテの待つ控え室に向った。
控え室の扉を開けると中にはたくさんのチームの代表者みたいなのがいた。
彼らはハヤテのことを引き抜きに来たんだと簡単に察することが出来たわ。
もし仮に能力が使えなかったとしても、彼がいれば、かなりのアドバンテージを得ることが出来るほどの実力があるのに、入試トップの能力が加えられたらどれほどの実力があるのか、確かに計り知れない期待値はあるわね。
私は一週間後にある試合なんて、勝とうが負けようがなんとも思っていないからいいけれども、ここでハヤテと離れて能力を見れるかもしれない機会が減るなんて状況を作ってしまうことは得策ではないわね。
私は苦労して人ごみを抜けハヤテの前に出ると、ハヤテは安堵したような笑みを浮かべ、
「舞乃、この状況をどうにかしてくれ」
私は思わず苦笑を浮かべたが、ここは彼の言葉に従って助け舟を出すことにした。私は今抜けてきた人ごみのほうに振り返り、
「私が先にこいつと組んでたんだから、この場合のチームの選択権は彼にあるわ。ハヤテはどこか別のチームに移りたい?」
「いや。もう目立ちたくないという俺の願望はもう叶いそうにないから諦めたが、俺は俺で舞乃とのコンビは気に入ってるんだ」
「…って、黙って聞いてたら、あんたこんなときに何言ってるのよ」
一度も共闘していない人からそんなこと言われても、別に嬉しくなんかないんだからね。
「ま、そんなわけだから諦めてくれないか?」
ハヤテはそういったが、チームの代表者軍団はこんなことでは引く気は無いようで何やらお互いに話し始め、三分ほどで話をまとめ、そのうちの一人が私達にこう提案してきた。
「だったら、これからハヤテのことをチームに欲しいと思っているチーム同士でトーナメントやるからさ、そのトーナメントを勝ち上がった一チームとあんたたちとで模擬戦をしてくれよ。そこでこっちが勝ったらちょっと考えてみてくれないか。俺たちは俺たちで、お互いの戦力分析が出来るんだから一石二鳥だろ」
私にとってもこの提案は願ってもないことだった。
勝ち上がってきたチームはそれなりに強いだろうし、人数もおそらく定員の六人いっぱいだろうから、さすがにハヤテでも能力を使うのではないかと思ったからよ。
そういうわけで私は、ハヤテに同意を促し、ハヤテは小さく頷いて、
「分かった。そのくらいの条件なら受けて立つよ。俺たちの試合はいつ頃になりそうだ?」
「そうだな…まだ参加チームを募ってないから、なんとも言えない所ではあるが、おそらく今日の夕方、授業時間で言うと六限目あたりだろう。終わったら連絡を入れるよ」
「ありがとう。じゃあそういうことで」
そう言うとハヤテは控え室をあとにしたので、わたしもそれに続いた。
その後ハヤテは観戦席まで歩いていき、腰を下ろしたところでようやく口を開いた。
「いやー、ありがとう舞乃。助かったよ」
「そうは言ってもまた戦わないといけないみたいだけどね」
「それはいいよ、もう諦めた」
ハヤテがそう言うと、私はハヤテの試合で腹立たしく思ったあの件について、本音を悟られないように質問してみた。
「あんた、何で能力を一度も使おうとしなかったの?入試トップの実力者なんだから能力を使った方がもっと早く片付けられそうなのに…。そりゃ、確かにあんたの体術はすごかったけど」
ハヤテの表情に、一瞬苦笑が浮かんだのを私は見逃さなかった。
だけど、ここでハヤテともめたくはないので、そ知らぬふりをして答えを聞いた。
「それか…。実は俺、わけあって能力をあんまり人前では使いたくないんだよ。今やってるプレートのカスタマイズがちょっと特殊で、これ使うと更に注目されそうだからな」
特殊なカスタマイズっておそらく、プレートの調整を誰かに頼んでいるってことよね。
一般的に言って、プレートは、パソコンにつなぐだけで誰でも簡単に調整できるから、自分の能力を効率よく引き出そうと思えば、よっぽど下手でない限り自分でやるのが基本よ。
だからこの理由は嘘ね。
ただ、調整師と呼ばれる特殊な技能を持ったエンジニアがそれなりの数存在していて、その人たちは他人のコンディションや、その人にあっている能力を見つけて、プレートのスピード、規模、持続時間などの効率を上げるプロフェッショナルで、そのときのカスタマイズがかなり特殊で、普通の人では真似できないの。
だけど、私は人に調整を任せるのって、自分を丸裸にされているような気がして嫌なのよね。
でも、調整師のやった特殊カスタマイズを使っても契約違反になったり、ものすごい能力の格差があるわけではないのよ。
このことからも、彼のさっきの回答は方便だと分かるわ。
私がそう思っていることに気付いた訳ではないだろうが、ハヤテは補足説明をしてくれた。
「それに、いくら能力のレベルが高いからってそれに頼り切ってはいけないと思うんだ。便利になったからこそ前以上に精進しなければ人間は脆弱になっちまう。まっ、そういう信念が在るからってのが能力で押さない一番の理由なんだけどな」
コレは本音っぽいわね…。
まぁいいわ。それより今はもう一つ聞くことがある。
「次の試合、私も出ることになっちゃったから、打ち合わせしとく?」
「ん?ああ、そういや舞乃と俺とで戦うんだっけ?それじゃあ、打ち合わせになってないかもしれないけど、何も言わずに試合が始まってから十秒後に出てフォローするって案に同意してくれ」
「えっ?十秒後?……いいけど…」
「そういうことでよろしく。それじゃ、今日は他のチームの試合でも見とこうぜ。舞乃が気に入るようないい奴がいれば俺たちもスカウトできるんだし。現時点ではそれが一番いいと思うんだ」
「…分かったわよ」
ついつい同意してしまったけど、さっきから私、こいつのペースに乗せられてる気がするわ…。気にくわないわね。
それから私たちは、他の一年生の模擬戦を観戦していたけれど(ちなみにトーナメントの方は、事前に情報を持ってると不公平になるかもしれないからと私が提案してトーナメントをやっていないコートを見てるのね)今年の一年は結構レベルが高いみたいね。
一年の段階で普通は使えないような化学式や物理法則、生物の知識を用いた能力をかなりの頻度で見ることが出来るわ。
ま、私には勝てないでしょうけど。
でも、次の試合や一週間後の試合ではハヤテでも少し手こずりそうね。
ふふっ、楽しみだわ。
それからはハヤテとゆっくり、まるでデートにスポーツ観戦を選んだカップルっぽいなぁと不覚にも思ってしまいながら(周りの生徒の視線のせいだ。私にはそんな気は無いわよ)模擬戦を観戦していると、トーナメントが早く終わったのか、昼過ぎに連絡があり、私たちの試合が二時半からになったということが伝えられた。
私達が、試合の行われるコートに出向いてみると、すでに客席は満席になっていて、どうやら立ち見客まで出ているみたいだったわ。
「まったく、どれだけ注目されてるのよ。私達も同じ高校一年生でしょうが。期待値が高すぎても、答えられるとは限らないのよ?」
私がそんなことを呟くと、ハヤテも同じことを考えた事があるのか、妙に共感した様子で、
「あぁ同感だ。まあ必ずしも期待に応えてやる必要はないんだが、さすがにこれはやりにくいったらありゃしないぜ」
「あんたでもやりにくいって思うことあるんだ。意外ね」
「そりゃもちろんあるに決まってるさ。負ける気はこれっぽっちもないがな」
そのやり取りで私は少しだけ落ち着き、作戦とも言えないような作戦を確認した。
「えっと、本当に私は十秒後に動けばいいの?その後は?」
「それでいい。その後は状況を自分で判断して俺のフォローに回ってくれ」
それでも納得できない私は、ハヤテに最初から聞きたかった疑問をぶつけてみた。
「それはいいけど、私もスタートから一緒に攻撃に参加したほうがいいんじゃないの?」
「舞乃は俺の本気を見たいんだろ?言うとおりにしておけば見せてやるから。」
これが本当だったら願ってもないチャンスね。
「言ったわね。約束よ」
「分かったよ」
作戦は不可解だけれど、本気でやるって言ってるのなら私に異議はないわ。
「じゃっ、いくわよ」
相手チームの選手もコートに出てきて、お互い挨拶を交わすとスタート位置につき、やがて試合開始のシグナルが点滅する。
まあ、十秒間ゆっくり本気の実力を見せてもらうわ。
そして、スタートの合図が鳴り、戦闘に意識を向けると…、
「えっ?」
隣に立っていたはずのハヤテが、相手チームとの距離を一瞬で詰めた。さっきの試合でも結構なスピードで移動していたけど、今回はもっと速い。
これはもう瞬間移動に近いと言っていいレベルのスピードよ?しかも、また能力を使った兆しもないし。
そんなことを認識した次の瞬間には相手チームは一人残らず倒れていて、三秒とかからずに試合終了となっていた。
今の試合、私なんかした?
また能力なしでパーフェクト…。最早人間業じゃないわね。
だけど、私が本当に見たかったハヤテの能力は、とうとうひとかけらも見せてくれなかったわね。
そんな感情を視線に込めてハヤテを凝視してやった。




