~舞乃の失踪と命題提起~
私が登校して来ると、舞乃はまだ来てはいなかったが、ハヤテと綾花は先に来ていた。
今日こそ犯人の尻尾を掴もうと息巻いていたのだが、その時、教室の空気がいつもと違っているような気がした。
ハヤテと綾花の表情にもどこか険しいものがあった。
「何かありましたか?」
私がハヤテと綾花に向かって聞いた所、ハヤテが、
「まだ未確認の情報で噂で聞いただけ何だが…、舞乃が失踪したらしい……。オレも今日の朝聞いたよ」
私はあれほどの能力者が失踪したのだと聞いてひどく驚いた。
舞乃を誘拐する為には、舞乃よりもかなりの実力が必要になるはずで、そんな能力者などそうそういるはずが無く、ましてやそんな実力があるのなら犯罪に手を染める必要は無いからだ。
「情報源は?」
「あのっ、朝ある生徒が職員室に用事があって行ったら先生たちが慌ただしそうにしていて、何があったんだろうって聞いていると、またウチの生徒がさらわれたみたいなことを言っていたらしくて、その中に舞乃さんの名前が挙がっていたそうです…」
だったらまだ決まったわけじゃない。
だが、私の予感めいたものが、間違いなく真実だと告げていた。
それから私達は朝のホームルームが始まるまで舞乃が登校して来るのを待っていたが、結局現れず、ホームルームが始まった。
これはその時の先生の話である。
「えーっ、非常にマズい事になった。先日ウチの高校から17人行方不明になったと言っていたが、あれだけ厳重に警戒した昨日、更に48人もの行方不明者を出してしまった。そして、その中にはウチのクラスの朝永舞乃も含まれている」
その言葉を聞いた瞬間、教室は騒然となった。
さすがに舞乃の実力を皆は知らないだろうが、それでもクラスから失踪者が出た事がショックを与えたのだろう。
実際、私も事前に構えていたものの、真実であることを告げられて呆然となってしまったのだから。
「はい、静かに。面倒くさいが教職員も警察の捜査に協力する事になった。正直、能力絡みだったら明らかにこっちの方が実力は上だしな。その分何が起こるか分からないから、生徒会のメンバーが校内を警備する事になったから安全だと思う。実際、昨日も生徒が学校にいる間は何も起きなかったからな」
という事は、昨日の下校中に一気にそれだけの人数を誘拐したのか…いったいどうやって……。
「というわけで、今日は昨日よりも更に校舎内で大人しくしとけよ。これ以上はさすがにマズい。校舎内にいるならある程度何やっててもいいからな。それじゃ、解散」
そう言って先生は去って行った。
ここ最近生徒が連続して失踪していたため、それを受けて警察のみならず、その知識量からNSTの一番の使い手である教職員や臨時の際の実力行使に当たる生徒会までもが動き出したそうだ。
この状況下で、とうとう舞乃までもが失踪者リストに名を連ねる事になってしまった。
この事態に朝永舞乃が中心となって作られた私達のチームの私達三人は驚きと悲しみと怒りがない交ぜになっていて冷静沈着でいつも通しているはずの私、黒生野奈桜も含めて混乱状態に陥った。
特に神崎ハヤテは落胆のあまりかなり気を落としているようで、その上に舞乃を攫ったと思われる誰とも知らない誘拐犯へと怒りをぶつけたいハズなのにぶつけることが出来ないため感情が空回りしているようだ。
「どうして俺達の前からいなくなっているんだよ!俺達と一緒にこの一連の事件を起こしている犯人を捕まえてお前の妹を助け出すんんじゃなかったのかよ!!それなのに、お前がいなくなってどうするんだよ…ックソッ!」
クラスメイトは全員ハヤテの怒りを感じて全員逃げるようにどこかへ行ってしまっていた。
ハヤテは辺り構わず周りのものに八つ当たりをしていて、みるみるうちに教室が荒れていっているが、私は止めなかった。いや、止められなかった。悔しい思いをしているのは私も同じだから。
「うっ…えっぐ!………」
綾花の方も先程まの舞乃失踪の報告を受けて以来一度も泣きやむこと無く泣き続けていた。
私達はまだ出会って間もないし、親交は深めたとは思うがチームとしてはまだまだ未熟で纏まってはおらず、時にはバカ騒ぎして時には喧嘩もする、お互いのこともチームを組んでいるのにまだよく分かっておらず、個々の力が強いためその内瓦解するんじゃないかと思うこともあるが、私は舞乃が本当の意味でいなくなって初めてわかった、このチームは一人も欠ける事があってはならないのだと。そう思える位には私達はチームとして纏まっていたのだと。
そう思った私は、いつまでも落胆していることを止めて舞乃や攫われた人達を奪還することに思考を回すことにした。
今起こってる『東京理科高校生徒連続失踪事件』の目的と犯人、そして朝永舞乃を含む攫われた学生たちは一体どこにいるのかについて思いを馳せた。
神崎ハヤテと小牧綾花は、今の状態では使い物にならないため、彼らに比べて少しは冷静な私がしっかりしなければならなかった。
考え始めるとすぐに頭の中が整理されていくような気がした。私はこれまで東京理科高校に入学してからこれまでの一週間をまるで関係の無さそうな情報まで思い出す。
入学してから今にいたるまでの間に私は何度か違和感を感じた。
何か大切な部分を私達の都合のいいように解釈しているせいで、とんでも無い見落としをしているような違和感。
私がこう考えている間にハヤテは少し立ち直ったらしく、
「こうしていても仕方ない。今から俺達で舞乃を助け出しに行くぞ!」
と私達に提案してきた。
しかし、泣きじゃくっている綾花が正論を返した。
「えっぐ…でもっ、犯人の情報が分かって無いんだから、舞乃さんや連れ去られた皆さんがどこにいるのかも分かりませんよ?それに、連れ去った方には舞乃さん程の高位能力者を捕まえられるだけの力を持った相手が必ず一人はいるって事ですよね。私達だけじゃそんなの無理ですよ…」
綾花の言った事が正しいという事をハヤテも分かってはいるのだろう。だが、頭で理解することは出来ても、彼の心はそれに従う事は出来そうにないことが見て取れた。
「今すぐ行動を起こさないと、最悪の場合舞乃が殺されるかもしれないんだぞ?いや、もう既に殺されているかもしれない。だからっ!………」
ハヤテは言葉が続かなかった。
私の脳裏には先程思いついた違和感が引っかかり続けている。これを彼らに言うべきか言わないべきか…。
それにただ違和感が言っただけではダメだろう。彼らに告げる時には違和感の正体まで突き止める必要がある。そうでなければ余計な混乱を招くだけで終わってしまう。
私にはこの正体を突き止めるためのツールが、………あるにはある。ただし、彼らにこの存在を知られても大丈夫なのか。悪用されたり、自分には全く関係の無い他人の問題事にに巻き込まれたりはしないだろうか?
…何を考えているのだろう、私は。私がこれから厄介事に巻き込まれるかもしれない事と、目の前にいる彼らを失ってしまうのとではどっちがいいと言うのか。答えはもうすでに決まっている。
だから、
「待って」
相変わらず平坦だったが、いつもよりすこしだけ強い声が教室に響き渡った。
そして、ハヤテと綾花の目をゆっくりと見て落ち着かせ、いつものような淡々とした口調で告げる。
「私が生徒や舞乃、舞乃の妹の所在と、犯人の所在と目的を突き止める」
「でも、どうやってだ?」
「そうです、分かって無い事が多すぎます…」
二人の疑問の答えとして、私は一つの特殊なアビリティを発動する。
「パーソナルアビリティ『シャーロック・ホームズの推理』」
パーソナルアビリティを使える人間はごく限られている。
パーソナルアビリティを持っている者はNSTに対し類い希なる才能が必要とされ、今の研究では、パーソナルアビリティはアビリティを発動する工程が、普通のモノと比べて極端に多く、複雑過ぎてデータ化仕切れないので、獲得条件は才能であるとか、いっそ本当の超能力なのではないかという説もあるほどのその個人特有の特殊能力。
しかし、特殊であるが故に、その能力は通常の能力よりも効果が高く、全人口の0.01%しかいない高位能力者と呼ばれる者達は、何かしらのパーソナルアビリティを身に付けているものだが、高校一年生という段階で獲得している者は限りなく0に近い。
だが一方で、その能力の利用を求めて使用者が狙われる事も多く、使用者はあまり多用しない、まして人前でなら尚更な秘匿技術である事が多い。
アビリティの名前からして分かる通り、このパーソナルアビリティは身体強化の中でもレアスキル、知能強化型のアビリティである。
私はハヤテと綾花を信じ、このアビリティを使ったのだ。
アビリティが発動してから十秒ほど経っただろうか。私の推理とも証明とも見分けの付けられない思考が終わった。
「全部分かった。今回の事件の真相も、犯人も。そして舞乃達がどこにいるのかも」
私の考える、この事件の種明かしが始まった。
ケミカルチェンジのタグに『推理』を入れている理由です。
良かったら事件の真相を推理してみて下さい。解決編は明日の夜に上げます。
と言っても推理小説を読んでみた事も無いし、なにぶん素人なので、矛盾だらけの分かりやす過ぎたり、分かりにく過ぎたりするといった事になるかもしれませんが、作者はこの解決編のプロットを元にこの「ケミカルチェンジ」の入学編を作っておりました。
楽しんでいただけたら幸いです。
見え見えだったら作者の拙さを笑ってやって下さい。
あと、今までの分を、矛盾点を無くしたり、事件の真相を分かりにくくするために多少改稿するかもしれません。ご迷惑おかけします。
それでは。




