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~奈桜と綾花の全力~

 能力訓練場は実践コートのようなオープン式のコートとは違い、体育館のより少し大きい位の建物だ。

 使用許可を入り口で貰えば、東京理科高校の生徒なら仕切られた個別ブースで好きなようにアビリティを使える、言わばあの練習と、アビリティをセットした後の調整施設だ。

 その個別ブースに俺と奈桜と綾花の三人は入って行き、早速奈桜が口を開いた。

「まずはお互いの全力を知ることが大事。だから神崎ハヤテに向けて思いっきり能力を使う事」

「おいおい、俺は攻撃を受ける側かよ!」

「そうですよ!いくら何でもハヤテさんが危ないです!!」

 と、オレの抗議に綾花が追随してくれた。だが、奈桜は、

「大丈夫。おそらくどんなに本気で打ち込んだ所で、彼は全く意にも介さない。そうでしょう?」

 まぁ、そうなんだが…。

「少し位躊躇いの気持ちってもんがあってくれたっていいだろ?」

「今はそんなに悠長な事をしている場合では無い。このチームの中から失踪者が出るかもしれない今の状況だから、無駄な事はしない」

 コイツはコイツなりに俺達の事を考えてくれてるのか。

 よし、いいだろう。

「分かった。その役、やってやるよ!」

「それでは発案者の私から手を明かします。それが公平ですから。余計な心配だとは思いますが、ハヤテさん、私を見失わ無いように注意して下さい。それでは早速いきますよ」

「おう、いつでも来い!」

 そうして早速俺も奈桜も戦闘態勢に入った。

 と、言っても俺は耐えるだけで何かする事は無いんだが…。

 奈桜は自分のタイミングで動いた。

「アシスタントデバイス、ストレージオープン。セレクト『刀』」

 そう言って手首のリング型アシスタントデバイスから取り出したのは刃渡り80センチ程はある刀だった。

 大体、今使ったアシスタントデバイスのストレージというモノは最近開発された新技術であり、アシスタントデバイスの一部に現実には見えない仮想の空間を作り出し、そこに容量一杯になるまで道具や食材、弾薬なんかを入れておける超優れものである。

 分かり難いのならば、ゲームのアイテム欄を思い出して見てほしい。あれも道具やアイテムをどこかにしまってアイテム欄に表示されるが、プレイヤーの持っている道具袋やバッグの大きさが増えたりはしない。ちょうどあんな感じの現象が現実世界でも起こせるようになったのだ。

 勿論、こんな風に普段から持ち歩いていたら銃刀法違反で捕まりそうな刀などの武器をしまっておくのに多く使われてはいるのだが、最近では主婦が買い物をするときの強い味方として使われ始めたらしい。何というか、日本は平和だ。

 っと、それどころじゃなかった。今は奈桜の一挙手一投足に集中してコイツの全力を見極める事に、後、ほんのちょっとだけ俺が怪我をしないように注意を向けるとする。

 だって素手ならともかく、刀って!聞いてないからっ!!多分大丈夫だけど、見た目が怖い…。

「それでは行きますよ。我が肉体よ活性化せよ。生物学アビリティ『ヴァイタリティ・シフト』」

 奈桜のアビリティが発動し、足下から緑色の光が奈桜を照らす。光が止んだ瞬間、いきなり消えた!

「はっ?」

 俺はとっさに左手を横に出し、拳を開いた。

 そこにちょうど奈桜が打ち込んだ剣撃がヒットしたが、防護フィールドと、とある理由からダメージは受けず、初撃の防御に成功した。

「今のが私の最高速ですが、やっぱり見えてますか…」

 いやいや、全然見えなかったよ?速すぎだって!?

「分かってはいたが、私の最高速をこうも容易く見切るとは…。それに、あなたの体を囲んでいるこの切れない寒天に打ち込んだかのような感触は何?」

 流石にそれは教えられないが…。

「話せないなら話さなくても構わない。全力で打ち込むまで」

 そうして俺は、さっきの奈桜の最高速から繰り出される斬撃を捌き切れず、次々とヒットしていく。

 俺の防護フィールドは勿論今現在削れているのだが、どういうわけか攻撃を受けている俺ほどでは無いにしても、奈桜の防護フィールドも削れていっているようだった。

 どうして奈桜の防護フィールドが削れるのだろう?

 悠長にも、そう考えていたときに奈桜が足を止めた。

 どうしたのだろうと奈桜の方を見ると、底には息を切らせて憔悴しきっている様子の奈桜がいた。

「どうした!?」

 俺がそう問いかけると、

「ハァ、ハァ…ッ平気…ハァ…、人間が…生身で…ハァ…音速を超えたから…ハァ、ハァ…無理が出ただけ…フゥ…」

「まさか、防護フィールドが削れてたのは自分で発生させたGと、衝撃波のせいか?」

「そう。だからこのスピードは両刃の剣。ここぞという時でしか使わない」

 なるほどな。意味は分かった。

 威力は高いし、普通は相手に守らせないまま打ち倒すことが出来るけど、その分かなりの疲労と自分もダメージを受けるのか…。

 って、それ普通に強いだろ!相手が何も対策出来ていない初手で全て終わらせられるじゃねーか。

 それで、他は何が出来るのだろう?俺は奈桜に聞いてみた。

「基本的に一般公開されている中級レベルまでの能力なら、現時点で全て使える。その他、上級アビリティは数種類、流石に発動までに時間がかかるが使う事が出来る」

 うん、奈桜のレベルは高校レベルを既に越えてるな、こりゃあ。

 ソロで拠点防衛を任せても大丈夫そうだ。

「了解、分かった。それで、他のアビリティも撃っとくか?」

「いい。流石に体力が減った。そして、あなたの防御は硬過ぎる。これなら連戦も大丈夫ですか?」

「ああ、構わないが、奈桜は本当にもういいのか?」

「いい。これ以上やっても生物学アビリティは戦闘スキルになると肉体強化がほとんど。自己回復、治癒能力もあるが、怪我をしたわけでもないから見せようがない」

 そう、生物学アビリティはその特性上肉弾戦をメインにしなければならない。と言うのも生物学で作り出せる飛び道具や爆薬なんか、皆無と言っていいほど存在しないからだ。

 その代わり近接戦闘や味方の補助アビリティには他の追随を許さない独壇場である。

 便利なNSTの分野別能力にも一長一短あるのだ。

 奈桜は続けて、

「それに、今回はどちらかと言うと綾花がメイン。彼女について分かっていない事が多すぎる」

 そうして俺と奈桜が綾花の方向を向くと…、

「……すぅ……すぅ………」

「って、この状況で寝るなよ!」

 入学式の時以来寝ることが無かったから忘れていたけど、そうやコイツってこんな奴だったよな…。

 などと考えつつ、綾花の肩を揺すって起こしてやる。

「お~い、綾花。起きろ~。起きてくださ~い」

 そうすると綾花はゆっくりと目を開け、

「ほにゃっ!ねっ、寝てないですよ!?」

 いや、無理があるから…。まぁ、ここはスルーしておいて、

「綾花、今度はお前の番だ。お前の能力を見せて欲しい」

 俺がそう言うと、

「もう私の番ですか?奈桜さんはまだ何もやっていないと思うんですけど…。だけど、分かりました。やるからには全力を尽くしますからね」

 そう言って綾花は今いた個別ブースの端っこから中央に歩いて行った。

 そして、入れ替わるように奈桜が腰掛ける。

 綾花を待たせるのも悪いので、俺も中央の方へ行こうとしたとき、奈桜が、

「気を付けて」

 と小さな声で言ってきた。

「何に?」

 と、俺が聞くと、

「この前の奈桜はアシスタントデバイスを起動させずに素の状態で舞乃と戦った。だが、今は起動している。おそらく舞乃と模擬戦をしたときよりも危険」

 危険って、あの爆発アビリティの事か…。

「了解、ありがとよ。せいぜい怪我しないように頑張るよ」

 そう言ってやっと俺は綾花と相対する立ち位置へと向かった。

 後になって思った事がある。

 この時の奈桜の忠告に従ってきちんと警戒しておけば良かった、と。


「それじゃあ、ハヤテさんと、」

 そこでクルッと奈桜の方を振り向いて、

「奈桜さんに私の能力について教えておきますね」

「おう、頼む」

 綾花は少々硬い表情だが、大丈夫だろうか?

「え~っと、まず理解しておいて欲しいのは、私は基本的にアクティブに能力を使いません。ほとんどが先取防衛、パッシブで使います」

「なんだそりゃ?何かのポリシーみたいなモノか?」

「いいえ。ポリシーとは違うんですけど、中学校の時、私が能力を自発的に使うと同級生はおろか、酷い時は先生までも怪我をさせてしまったんです。防護フィールドがあるから大事には至りませんでしたけど、それ以来自重するようになりました。今はそのためにアシスタントデバイスを使っています」

 ちょっ…。それは同級生や先生がいけなかったのだろうか、それとも単に綾花の能力が強すぎるのか…。まぁ、とりあえず、見てみるとするか。

 そこで綾花が、

「というわけでハヤテさん、軽くでいいんで私に攻撃を当てて貰えますか?そうすればアシスタントデバイスが自動で反撃しますから。と言っても、私のアシスタントデバイスは発動タイミングと使用術式、能力を発生させる座標、反撃の為に使用者から取る体力量を自動演算するだけで、アビリティを使うのは本質的には私なんですけどね。と言うわけで、お願いします」

 綾花にそう頼まれたので、俺は化学アビリティの基礎『水素燃焼』を極小規模で発動させた。

 化学初級アビリティ『水素燃焼』は水素をただ少量燃焼させるだけの、爆発ではあるのだが爆発とも言えないような小規模なアビリティなのだが、それをさらに小規模にした、防護フィールドすら削れるかどうか怪しい位のアビリティが、綾花の防護フィールドに当たると…。

「regist!」

 と、綾花のアシスタントデバイスから機械音声が流れると、部屋一面にいくつもの大きな黄色い陣が展開した。

 …って、殺す気かよ!

 流石にマズいと思った俺は素早くとあるアビリティを展開した。

 次の瞬間、俺の展開したアビリティの陣が光るのと同時に綾花のアビリティが発動し、俺の陣の光が、爆発の光で書き消された。

 普通ならこの規模の爆発だったら、流石に建物自体も保たないほどの威力だったが、爆発が収まると、何事も無かったかのように個別ブースも、訓練場の建物も、そして爆発にいきなり巻き込まれ、こんな狭い空間なら為すすべも無かっただろう奈桜も無傷だった。

「あれっ?え~っと、すみません。このアシスタントデバイスは、相手の強さを自動で判断して反撃の威力を変えるんですが、普通こんな威力が出るはずは…。でも、今もの凄い爆発は起きましたよね?あれでなんで建物が壊れるどころか部屋も無傷なんですか?えっ?あれっ?」

 なにやら綾花はさっきの事態が予想外だったらしく混乱しているようだった。

 爆発による被害をくい止めたのは俺だが、まさか人前で使わせられることになるとは…。いろいろ危なかった。

 そしてチラッと奈桜の方を見てみると、流石の奈桜も、俺が何をしたのか分かっていないようで一安心した。

 そしてこの件から俺が学んだ教訓が一つ。

『綾花を絶対敵に回してはいけない。色々危険過ぎる!』

 ということだった。

リアルが忙しかったため、多少遅れました。

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