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~料理をするときは細心の注意を~

 俺はまず冷蔵庫と言う名の食糧庫に向かった。当たり前か…。

 その中で目に付いた良さそうな食材から献立を絞ってゆく。

 それからすぐに作る料理を決め、使う食材の下ごしらえにはいる。他のメンバーもそんな感じだった。

 五分程で下ごしらえを手早く終え、早速料理に取り掛かった。

 やはり食材は鮮度が命である。常温で空気中に放置しておくと食材を構成している分子と空気中の酸素原子がそれなりのスピードで酸化したり、微生物によって腐敗したりするからな。といってもそんなに早くは無いが。

 まずはソース作りから取り掛かった。

 こうしている所を見て分かると思うが、俺は料理は結構得意なのだ。高校に入って上京する前からよく一人で料理を研究して作ってたからな。だから舞乃の提案を受けてたったのだ。

 自分で言うのもなんだが、慣れた手つきで作業を進める。

 二十分ほどしたら後は焼くだけになり、料理はなるべく出来立ての方が良いから、少し暇になったので他のメンツの調理台を覗きに行った。

 まずは一番近かった奈桜の調理台からだ。

「はかどってるか?」

「それなりに」

 奈桜は鍋で何かを煮込んでいるようだった。

「煮込み料理って間に合うのか?」

「問題無い。圧力鍋を使った。首尾は上々」

 圧力鍋の原理は、鍋の内部に圧力をかけ、通常よりも高い気圧をかける事によって沸点上昇を起こさせ水ならば沸点を一〇〇度から上げて調理する事が出来る。ちなみに沸点上々と同時に起こるのは凝固点効果で、圧力が高くなると同時に沸点が上がるのとは逆に、融点は下がるという現象だ。これには蒸気圧曲線と融解曲線、昇華曲線の3つが関係するが、また今度の機会に回すことにする。

 話を戻すと、圧力鍋で圧力をかけるによって通常よりも早く火が通って調理時間の短縮に繋がるし、煮崩れし難いと、メリットばかりのアイテムだ。

「だったら間に合いそうだな。俺は今から舞乃の所覗いてくるよ。頑張れよ、奈桜」

「あなたも、頑張って」

 そう言われて送り出された俺は次に奈桜に言ったように舞乃の所に向かう。


「なによ、偵察?言っとくけど、私にはそうそう勝てないわよ。覚悟しなさい」

「そりゃ、楽しみなことで」

 舞乃は俺にいつも台詞だけは挑発めいたことを言うが、いつも顔が笑っていて楽しそうにしている。その笑顔、忘れるんじゃないぞ。

 思わず感傷的になってしまったが、舞乃の調理風景を眺めていて気づいた事がある。

「お前、言うだけのことはあるんだな」

 そう、舞乃の堂には入ったような包丁さばき、テキパキとして休まることのない手順、これを見てるとある程度慣れてる感じが見受けられる。

「褒めたって何にも出さないわよ」

 そう言って耳を真っ赤にして相槌をうつ。

 意外とストレートに感情が顔に出るんだな。いっつも強がっているクセに。

「いや、素直に感じたことを言っただけだよ」

「っ、もっ、もうどっかに行きなさいよ。私に料理に集中させないつもりなのね?まだ何か気を逸らすようなこと言ったら、妨害行為行為と見なすわよ?」

「そりゃ、悪かったな」

 そして、置き土産に、

「楽しみにしてるよ」

 とか言って置いた。

 言われた通りに、今度は綾花のところにでも言ってみるかと思い立って歩き出したら、後ろから舞乃の声で、

「楽しみに待ってなさいよ」

 などと聞こえた気がしたが、それはおそらく俺の空耳だろう。

 舞乃はこんな事をいう奴じゃないからな。


 お次は綾花のところに寄ってみた。

 少し天然の入った可愛らしい少女は、一生懸命にせっせとボウルの中身をかき混ぜているところだった。こっちにまったく気付かないみたいだから、ちょっと声をかけてみよう。

「何作ってるんだ?」

「わひゃぁ!?…ハヤテさんですか、脅かさないで下さいよ」

「スマン」

 そんなに驚くか、普通?

「それで、改めて聞くが、何を作ってるんだ?」

「ふふっ、秘密です」

 おい、その顔は反則だぞ。少しロリっぽい外見と相まって小学生がイタズラを成功させた時のような輝かしさと、愛くるしさが漂っている。オレの好みにド真ん中ストライクである。元々こっちに気を回させるようなところがあるから余計にそうなったのかもしれないが。

「その、今混ぜてるのは?」

「これですか?私が作るお好み焼きの生地です…あっ!」

 そりゃ“あっ!”の一つぐらい言いたくなるよな。作ってるものは秘密だと、今言ったばっかりだもんな。この天然っ子めが。ちくしょう、とことん可愛いじゃねーか。

 オレは今の会話を聞こえなかったことにして誤魔化す。

「何だって?よく聞こえなかった」

「いえっ、なんでもないです♪」

 心なしか声が弾んでいる。そんなに秘密にしたいのだろうか、お好み焼き…。

 俺はとりあえず誤魔化しを完璧にするために、

「そうか、綾花は何事にも一生懸命やってて偉いな」

 と言いながら頭を撫でてやる。(他に思い付かなかったからだ。)すると、

「ふわぁ…」

 と、気持ちよさそうな声を出した。うん、実にいいね。

「時間内に終わりそうか?」

「大丈夫です。隠し味もすぐに出来ますし、問題ないと思います」

「そうか、一緒に頑張ろうな」

「はいっ!」

 存分に癒やされた俺はそろそろ調理を再開しようとしたところ、

「あっ、あのっ。待ってくだ…ひゃぁぁぁ」

 俺を呼び止めようと小走りに走ってきた綾花が転けて、倒れる。

「危ない!」

 調理台に包丁等が出たままだったので、派手にすっころんで二次災害でケガをするのを恐れてとっさに綾花の後頭部に左手を回し、右腕を腰の辺りに回しながら一緒になって倒れていく。こうすることによって地面との接触による衝撃も緩和出来る。

 しかし、綾花は転倒の際調理台に置いてあったお好み焼きの生地を作っていたボウルにどこかを引っ掛けてしまったようで、運良く逆さまにならずに着地してくれたものの、落下途中にこぼれた中身が少しだけ綾花の顔にかかってしまった。

 倒れた後綾花から少しだけ体を離し、どこかケガをしなかっただろうかと綾花の顔を見ると生地のかかってしまった顔を真っ赤にしていた。

 倒れた時の音を聞きつけたのか、すぐに舞乃と奈桜がやってきて、二人、特に舞乃が、倒れた俺達を見た途端、無表情…と言うかトラウマになりそうな冷たい目で俺を見下して言った。

「アンタら、人の家で何やってんの?」

 その一言で、俺はようやくこの状況を冷静に捉える事が出来た。

 ①俺は今、舞乃に覆い被さるようにして馬乗りになっている。

 ②綾花は俺に乗られている下で真っ赤な顔をして動けないでいる。

 ③お好み焼きの生地であるダシで溶いた小麦粉は、客観的に見れば白いドロッとした液体である。

 ④それが綾花の顔にかかっている。

 つまりアレだな…、俺は今、非常に誤解を受けやすい状況にいるわけで、

「奈桜、一一〇番。この変態男を捕まえて貰いましょう」

「了解した」

「ちょっと待て!誤解だから警察呼ぶのは勘弁してくれ!!それから奈桜、ノリノリで携帯を出すな!今のお前はなぜか、日頃のお前よりも数段表情豊かになってるぞ!?」

 それから俺が必死に弁解したのは言うまでもない。


 当事者の綾花のフォローもあってようやく許して貰えた俺は綾花の後始末を手伝い、生地も無事だったため、そのまま綾花が料理を再開したのを見届けると、時間が無くなってきたため、自分の調理台に戻り俺も調理を再会する。

 順調に料理が出来上がり、完成したところでピッタリと時間になった。

 他のメンバーも終わったようで、調理の段階では色々あったが、出来上がった料理を何事もなく無事にテーブルに運び終え、いよいよ本題の味比べが始まった。


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