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気持ち  作者: さだ 藤
6/7

思春期

*お赤飯(初潮仄めかし)

 

 親にとって子供とは一体何なのだろう。



 どうしようもない苛立ちが、私の中で沸き起こる。


「ねぇ、何で?」


 俯けた顔のままでただ声が平坦になるように、溢れそうになる激情を押さえつけてただ、尋ねる。

 髪の隙間からちらりと見えた母は、私の疑問にとまどったような様子でえぇ? どこか笑いを交えながら口を開いた。


「だって、ねぇ優子ちゃん。これはおめでたい事なのよ? 隠す必要ないでしょう? いい事は皆でお祝いするものでしょう?」


 ね、?

 とまどいながらも自身の正当性を上げていく母親という存在。

 私を宥めるように、お母さんは間違ってないわよというように、私に言葉を向けて、首を少し傾けたまま同意を父へ求めた。


「そうだぞ、優子。めでたい事じゃないか」


 父は母の要求を飲み、コップに注がれたビールを片手に持ち笑う。晴れやかに。


 めでたい、おめでたい。繰り返される言葉。

 テーブルに並ぶ数々の品。豪華なレパートリー。お母さんがんばっちゃったわ。なんて笑っていた先ほど。

 この事態を強調するかのような一番の目玉に据えられたのは、お赤飯。


 意味するものなど、大半の人には分かるだろう。

 この家、このテーブルについて、どんな意味か分からないとなんで急にこんなご馳走? なんて首をかしげているのはまだ小学校低学年の弟、ただ一人。


 母は勿論、父には筒抜けだ。

 母には私から伝わった。今私が頼るべき、頼れる人など自然と母だと思ったからだ。


 母にはこう言った。お父さんには言わないで。

 何を隠す必要があるの? と不思議そうな顔はしたけれど優子が言うなら分かったわ。

 なんて、頷いたくせに。


 一体、あの約束はなんだったのだろう? 


 母は私と交わした約束など気に掛ける事なく、晴れやかに、おめでたいと口にして、私が言わないでといった相手にまっさきに喜ばし気に教える。

 なおかつ、私が当然の疑問を口にすると自分の弁護に走って、父に擁護してもらうのね。


 あぁ、意味が分からない。

 苛立ちと、羞恥心と、色々な感情が私の中で巻き起こって口元に笑みが浮かんだ。


「お母さんってさ、子供の頃が無かったの?」


 ふとした疑問を口にすれば父が口を挟む。


「何言ってるんだ? 優子。お母さんにだって子供の頃はあったに決まってるだろう?」

「……あぁ、そう」


 尋ねた相手は母だったんだけどなぁ、なんてどうでも良い事か。


「じゃあさ、お母さんって元からデリカシーって物がないんだね。恥ずかしい事ってなんにもないんだぁ。そんなお母さんを持って、あたしの方が恥ずかしい」


 ははって、笑ってにっこり笑顔を、顔を上げて母に向ければ顔をしかめているけれど、当然の対応じゃないのかなぁ?


「優子! 何言ってるんだ。お母さんに謝りなさい!!」


 ご立派な正義感? お父さんが眉を吊り上げて怒ってくるけど、あのさ。


「じゃあさ、お父さんが脱童貞でもした時おばちゃんに祝われた? その時のテーブルにはこれみよがしにご馳走が並んだ? これで貴方もチェリーボーイじゃなくなったのね、なんて喜ばれた?」

「っ!!」


 私の言葉に主にアルコール摂取によってではなく怒りとか、何かでまっかに染まったお父さんを筆頭にしてリビングが静まり返った。

 ここでも私の放った言葉の意味が分からない弟は不思議そうにしていたけれど、周りの反応に口に出すことはしなかった。

 あぁ、この家で一番空気がよめるのが弟なんて、なんて人達なのだろう。


「しっんじらんない。 私の気持ちなんてどうでもいいんでしょう?」


 ぽつりとこぼした言葉は静まり返る部屋であんがい大きく聞こえた。

 笑顔を浮かべて、父の顔、震えるその手、母の顔、を見ればつい口から零れてしまった失笑。


「祝ってくれてどうもありがとう。それと約束をあっさり破ってくれてありがとう。ご馳走様」 


 出された食事に手をつける事無く、がたりと音を立てて私は席を立ってリビングを後にした。

 後ろから呼び声とかなにやら聞こえたような気がしたが、聞こえない。



 約束はね、やぶっちゃいけないのよ。なんてどの口が言ったのか。

 言った本人が破っるってどうよ。


 そんな人の言葉なんて私に届くはずなんてないし、そんな人の声なんてなにも聞こえない。



 親にとって子供って何だろうね。

 親だって一個体なのだから、大好きで愛している一番大事な夫の副産物なんだろうか?



 まぁ。子供の私には分からないことだけど。 

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