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気持ち  作者: さだ 藤
2/7

子供


「ねぇ、たっくん。分かるでしょう? パパはお仕事なのよ」


 しごと、しごと、しごと。

 パパはいつでもそんな魔法の呪文でゆるされる。

 と、ママとパパは思っている。



 しょせん、子供の気持ちなんて親にとってはどうでもいいことなのだ。

 だって、子供の気持ちを分かってくれるなら、ゲームはいつでもやりたいし、いつまでだって友達と遊んでいたいし、夜はおそくまで起きていたいし、お小遣いだっていっぱいほしいし、お風呂だってきらいだし、おやつはいつだって食べたいし、教科書なんて漫画でいいし、ただのお茶よりぜったいジュースがいい。


 パパが夜ご飯を食べる時なんていっつもお茶じゃなくってビールをのんでいる。

 それといっしょじゃないか。

 

 もっと言えば、学校がお休みの日はパパに遊んでもらいたいし、遊園地とは言わなくてもどこかに連れて行ってもらいたい。


 お休みがあけて、月曜日。

 父さんとせんとうに行ったんだ! なんてクラスメイトに自慢する、かがやくしたり顔にはへぇ、なんてそっけないふりするけれど、実はやっぱり羨ましい。


 男同士の裸のつきあい。

 そんな事が出来たら少しはお風呂だって好きになる。


 うちのパパはいつも仕事だ。お休みなんてないし、あったとしてもパパはお仕事で疲れているのよ、なんてママにようごされている。


 だからぜいたくは言わない。

 せめて運動会とか父親参観は一度でいいから来てほしい。


 だけど、朝から分かる。いや、前日、まえの週、まえのまえの週、……一年前からわかってる。

 パパは来ない。だって一度も来たことがない。


 指切りをしたって、どんなに喚いて見せたって、パパは来ない。


 魔法の呪文。


 パパはね、お仕事なのよ。



「たっくん、パパね、辞令がでたんですって」

「……じれい?」

「そうなの。ここじゃなくってね、違う町にいかなくちゃならないの」

「…………」

「だからね、家族みんなでお引越しよ」


 楽しみね。新しい町よ。


 ママは笑う。

 ねぇ、ママ。分かってる? それって僕はクラスのみんなと、友達と、親友と、お別れだって事だよ?

 

「……ママ、僕行きたくない」


 振り絞った声で言ったらママは困ったように眉を下げた。

 ねぇ、ママ、間違わないで。そんな事したら、引越しなんてしたら困るのは僕のほうなんだよ。


「ねぇ、たっくん。分かるでしょう? パパはお仕事なのよ」

たっくんは一人で食べていけないし、一人では暮らせないでしょう?



 ……ねぇ、ママ、パパ。どうしたら分かってくれるの?

 そんなこと、わかるわけないでしょう? わかりたくもないんだよ?



 子供言葉は子供のかんしゃくとして、終わったこととして片付けられる。

 


 どうせ僕の気持ちなんて、どうでもいいのだ。


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