屋上
あれから大体30分。 私は山井と睨みあっている。最初の一撃で栗源を気絶させたのはよかったが、如何せん私は喧嘩とは無縁だった女子だ。 箒で栗源の首を強く突いたあと武器を奪うまでは良かったのだが… 山井がこちらに気付くまでの10秒間。 私は手先の痺れへの回復時間と、栗源に対する少しの罪悪感と私の気持ちの大半を占めた爽快な気分を噛みしめていたせいで山井に奇襲するのは出来なかった。 そして膠着状態が続きすぎた結果のこの状況だ。 やがて山井が口を開く。
「先に男子から攻撃してたのはあんたの作戦よね… その辺は栗源もあんたに下には見られてなかったようね」
「このまま膠着が続くと思ってたけど…案外普通に沈黙を破ったわね そう思うならご自由に」
気のせいでしかないはずだが、歯軋りが聞こえた気がした。 まあ私もこの状況でできる精一杯のバカにした感じを込めようとしたのだからそうでないと面白くない。
「そんな調子で私のペースを乱そうとしたって無駄よ」
どうやら山井はこの状況を楽しんでいるようだ。しかも漫画かなにかのシーンと被せて。 せっかくだからもう少しだけ今までの恨みも込めて会話することにした。
「あんまり話したこととかなかったけどあんた漫画読むのね。特に少年誌のバトル漫画をかなり。現実と二次元をごちゃ混ぜにすると駄目らしいけど。」
すると山井は余裕な態度で
「あんたの言ってることも漫画で読んだわよ。」
とか言ってきた。だから嘘をついていじってみる
「なにそれ?ごめんまったく知らないんだけど」
「…えっ!?知らないの!?」
この反応は私の期待以上だ。まあ私もこの状況を楽しんでいるのだから同じか。
「と、とにかくそんなことよりなんでこの状況でそんな話してんのよ私たちは!!」
「知らないわそんなこと」
「栗源が目を覚ます可能性を考えると私にも無益じゃなかったけど…起きないし!!」
「超ドンマイ」
いつの間にかなんだか親しい人たちみたいになっているが、全然そんなことはないのだ。