3 調停
最終話です。
三人とも同意してくれたので、東京に戻ることになった。
もちろん新幹線移動だ。
来場者は皆無の、路地裏にひっそりと佇む名ばかりの陶磁器美術館だが、彼らは気に入ってくれた。
一応、それらしく展示ケースを並べているので、二人の自尊心は満たされたらしい。
特別な彼からすると見劣りするだろうが。
「……それで。お二人のお話を聞かせていただいたのですが、こちらの方だけが特別扱いされていることに承服しかねると――」
「その通りだ! なぜなのだ! なぜ我らには名がないのだ! 名を持てず、数多ある茶碗の一つに成り下がったのだ!」
「コイツだけが歴史に名を刻み、我らは捨て置かれた。一緒に生まれ、共に彼の地に送られたというのに!」
そうだったなぁ。
二人だけが戻されたんだったなぁ。
うーん。名前かぁ……名前でいいのか?
「お二人に私から提案がございます。私はこの通り、歴史的価値のある茶碗を展示している美術館の館長をしております。よろしければ、私からお二人に名を送り、当美術館にて展示させていただきたいのですが、いかがでしょうか?」
二人の顔つきが一瞬で変わった。
互いに顔を見合って、頷き合っている。
「コホン。貴殿は他の人間とは違うと思っていたが、埋もれていた歴史的価値のある茶碗を収集していたのだな」
「ここに我らを展示すると言うのか。そこにあるように……」
内装と展示ケースと照明には金をかけたからな。
二人は展示されている周囲の陶磁器に恍惚とした表情で見惚れている。
「よかろう。貴殿の申し出を受ける」
トンビがそう言うと、隣で着流しも首を大きく縦に振った。
「では、僭越ながら私が命名させていただきます。お二人が特別であると分かるようなお名前がよろしいでしょう。対になる形ということで、風神と雷神にあやかり、あなたが『風』、あなたが『雷』でいかがでしょうか」
「おぉぉ。なるほど!」
「うむ。良いな!」
トンビが風で、着流しが雷に決まった。
「お二方は他ならぬ、あの長次郎のお作ですので、当美術館の最奥に鎮座していただきたく。こちらの展示ケースでいかがでしょうか」
「おぉぉ。素晴らしい!」
「銘もこちらにあるように刻みますので」
「ううむ」
二人の姿が少しだけ淡くなっている。
もう大丈夫なようだ。
「では、あの方は……」
「ああ。済んだことだ。もうよい」
「うむ。我らの方が格上の名を持つことになったのだしな」
ネームドになった途端に、彼のことを『犯罪者の名持ち』と見下している。
勝手なものだ。
まぁ、これだけ手前勝手だからこそ、三体が人化してしまう事件に発展したのだろうが。
「では、そういうことですので、あなたもそろそろ元の場所にお帰りになっては?」
「言われなくとも、そのつもり――」
最後まで言い切ることなく姿が消えた。
二体もそれぞれ気に入った展示ケースの中に収まっている。
やれやれ。意外に早く片付いたな。
今頃一つ丸美術館では誰かが腰を抜かしているかもしれない。
スマホを取り出してタップした。
「あ、能村さんですか。展示品を確認していただけないでしょうか」
「え? もしかして! 今っ、あ、このまま見に行きますので、電話はこのままで」
バタバタと足音が聞こえる。
「薮良さん‼︎ あぁぁ。本当にありがとうございます。元通りあります‼︎ もう駄目かと思いました。
どうなることかと……。重要文化財の紛失など、私の首だけでは足りなかったと思います。はぁぁ……あっ! 失礼いたしました。それで、お礼の方はいかほど?」
まあ、それに関してはいつものやり方をお願いするだけだ。
「こういう件での謝礼支払いは名目に困るでしょうから、うちの美術館所蔵の品をそちらに貸し出させていただきます。時代と来歴は正確なのですが、文化財的な価値はありません。展示理由はそちらでお考えください。通常の価格設定でのお支払いで大丈夫ですので、よろしくお願いいたします」
能村さんがほっと息を吐いたのが聞こえた。
美術館同士なので寄付よりも自然だ。
「そういう形でしたら助かります。何から何まで本当にありがとうございます」
「いえいえ。またお困りの際は遠慮なくご連絡ください」
電話を切ってすぐに能村さんからメールが届いた。
展示ケースの中で黒光を放っている名物茶碗の画像付きで。
展示ケースの横に、簡単な来歴と銘が記載されている。
『銘 俊寛』
*補足 「利休 俊寛」で検索してみてください。
歌舞伎の演目にもなっている「俊寛」ですが、平家物語の登場人物です。
仲間と一緒に島に流されるも、一緒に流された二人は許されて都へ帰り、俊寛だけが取り残されるというお話です。
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