2 動機
羽田から鹿児島まで生きた心地がしないまま二時間耐え、ようやく地上に降り立った。
「あの時代の人間が行きそうなところといえば決まっているからな」
自分を鼓舞するように口に出す。
神社や寺、城跡、そんなところだ。既に機内で三箇所ほどピックアップしてある。
一度鹿児島市内に行き、そこから三箇所を巡るルートを考えたのだが、中央駅のバスターミナルに明らかに場違いな二人組がいた。
二人とも全身黒ずくめの和装なのだ。
意外に若い。四十にはなっていないか。
一人は和装コートのトンビを着ているが、もう一人は着流しだ。
三月中旬とはいえ、天気予報では今日の最高気温は九度だ。
長着だけを着ている姿は、見ているこちらが寒さを感じてしまう。
中年男性のコスプレーヤーにも見える二人だが、もちろん彼らに目をくれる者はいない。
トンビの方が、凝視していたオレの視線に気付いた。
おそらく、周囲の人間には見えていないことを感じ取っていたのだろう。
異質なオレが気になるようだ。
二人に近付き、こちらから声をかける。
「やあ。どうも。お困りのご様子ですが、私でよければ力になりますよ」
「……」
「……」
二人は無言のままオレを値踏みしている。
またしてもトンビが口を開いた。
「私たちに向かって言っているのか?」
「ええ。もちろん。どなたかお探しですか?」
途端に二人の顔色が変わった。
「お主……何か知っているのか?」
トンビの形相に思わず男の腰の辺りを確認した。
……よかった。刀は差していない。
「事情は存じ上げているつもりです」
「そうか。この地で別れたので、まだここにいると思ったのだが……。どうやらあちらの方角にいる気配がする。会えるだろうか?」
あぁ。存在は互いに感じ取れるんだったな。
そっちってことは、京都で合ってるな。
「では、ご案内いたします。一緒に参りましょう」
とにかく二碗ゲットだ。
◇◇◇ ◇◇◇
鹿児島から大阪へ、またしても飛行機で移動だ。
ただの一人旅なら何時間かかろうと新幹線を使うが、急ぎなので仕方がない。
伊丹空港までの機内は、二人はバラバラに空いている席に座っていた。
一応、生身の人間を避けるらしい。
空港からタクシーで新大阪駅へ向かう際は、後部座席に三人座る格好になった。
運転手から見れば、やけにドアの方に寄って座っているように見えるだろうが、実際は――オレの体感的には――男三人だからな。
「……! 近付いているのが分かるぞ」
「この先にいるのだな」
二人の声はオレにしか聞こえていないので、車内では返事ができない。
黙っていると、畳み掛けるように話しかけてきた。
「アイツは動いていないようだが、我らが行くのを待っているのだろうか」
「逃げる理由もないだろうが、我らに会いたいとも思っていないだろうな」
「四百五十年ぶりになるのか……」
「長かった。もうすぐだな? もうじき姿が見えるかもしれぬな」
仕方がないので、運転手に聞いてみる。
「運転手さん。新大阪駅まであとどれくらいですか?」
「あーそうですね。多分、三分とかからないで着きますよ」
「そうですか」
タクシーを降りると、二人が消えた。
一瞬焦ったが、視界の隅の方に姿を捉えることができた。
アレはこういう移動ができるから厄介なんだよなぁ。
二人の側には、無骨な男が立っていた。
二人と同様に黒い着物姿だ。
インドア派のように青白い顔色をしている。いいところの坊ちゃん――というには歳を取り過ぎているか。
「やはりお前はそのように立派な格好をして、下にも置かれない扱いを受けてきたのだな」
はぁ。早速トンビが噛み付いている。
まぁ確かに探していた人物は、長着は黒い着物だが、立派な羽織を羽織っていて、地位と財産を持つ旧家の跡取りのような風貌だ。
それでも、どこかくたびれて見えるのは、彼の名前のせいなのかもしれない。
「我らから逃げなかったことは褒めてやる」
着流しが上から目線で喋っている。
「逃げる……? 私を置いて行ったのはお前らだろうに。それに、私は気が付いたらここにいただけだ。生まれ故郷が懐かしかったのだろうか……? お前らに呼ばれていたのは分かっていた。どこに行こうか決めかねていたら、お前らの方がやって来た。それだけだ」
「『それだけ』とはなんだ!」
トンビの方は、居住いが侍なんだよな。
今にも刀を抜きそうでヒヤヒヤしてしまう。
「お前はっ! なぜお前だけが特別なのだ! 我らは同じだったはず! なぜお前だけが選ばれたのだ!」
着流しも感情的になっている。
「は? それは私のせいではない。なんだ。お前ら――私に嫉妬していたのか?」
「なんだと!」
「黙れ!」
いやあ、本当に三人とも刀を所持していなくて助かった。
ここで斬り合いにでもなった日には、能村さんが卒倒してしまうところだった。
なるほどなぁ。
動機は嫉妬か。
まぁ、こいつら三人は兄弟みたいなものだからな。
共鳴もするはずだ。
二人の言い分も分かるが、四百五十年の重みは大きい。
彼だけは特別で、もう二人とは違うのだ。
「あのう。お取り込み中のところすみません。私は美術館の館長をしておりまして。こんな路上ではなんですので、我が美術館で話し合うというのはいかがでしょう?」
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