1 事件発生
新連載です!
よろしくお願いします!
「あっ、あの――薮良さんですか?」
何日も鳴っていないスマホに朝九時の着信。
すぐに察しがついた。
アレが発生したのだと。
「はい、そうですが。どうされました?」
「わ、私、一つ丸美術館の館長の能村と申します。信じていただけないかもしれませんが――そのう――」
「茶碗が無くなっていたのですね」
「……‼︎ そっ、そうなのです‼︎ たった今職員が無くなっていることに気が付いたのですが、防犯カメラには何も映っていないのです。けっ、警察に通報すべきだとは思うのですが、もしかして――その――まさかとは思うのですが――先月の四つ坂さんのところのようなことが、と思いまして――」
あぁ、四つ坂美術館の事件か。
無くなった茶碗は知る人ぞ知るといった程度の知名度だったため、ニュースにはならなかった。
しかも警察が捜査している最中に美術館に戻ってきたため、良心の呵責に耐えきれず盗んだ職員が戻したのだろうと推察され、犯人は見つからずじまいで終わった事件だ。
「『盗まれているところが映っていなかったから』ということで、館内を探していたと言い訳すれば、半日程度は警察への通報を遅らせることができると思うのです。そのう――」
言いにくいことを皆まで言わせるつもりはない。
「ええ。お任せください。能村さんのご懸念が正しいかどうか、二、三時間もあればはっきりすると思います」
「本当ですか! それは助かります。お願いできますでしょうか」
「もちろんです。早速取り掛かります。それで、いなくなったのは――」
美術館に展示されていた茶碗が忽然と消える怪事件が最初に発生したのは昨年の暮れのことだった。
まるで何かのトリックのように展示ケースから消え、数日後に、これまた突然展示ケース内に戻ってきたのだ。
ただし、元の姿ではなく欠片となって。
オレの耳に入ってきただけでも、同様の事件が三件発生している。
これが四件目なら律儀に月一ペースだ。
能村さんは、おそらく直近二件にオレが関わっていたことを同業者から聞いたのだろう。
狭い界隈だからな。
まずはそれらと同様の事件かどうかの確認だ。
さて――と。
あいつのことだから、渋い顔で文句ばっかり並べるんだろうなぁ。
◇◇◇ ◇◇◇
新宿にある占いの館は、裏通りに似つかわしい寂れた一軒家だ。
こんなところに入ろうという気になるぐらいだから、客もちょっとイッているな。
「よぉ」
『あ♡す♡み』と描かれているハートのドアプレートの横をノックすると、中から、「帰れ! 予約もなしに来るんじゃねー!」と接客業とは思えない言葉が返ってきた。
「悪い悪い」
部屋の中に入ると、薄紫のベールのようなものを被った亜純が睨みつけてきた。
「本当に営業中か? 暇そうだな。……客が来たことあるのか?」
「うるさい! アタシだって忙しいんだよ!」
「三十分で五千円だろ? なら、十分で五万払う」
「……! 言っとくけど、私は見ての通りタロットが専門だからね。霊媒師みたいな仕事を持ってこないでよね」
「お前が霊媒師じゃないことくらい、オレが一番よく分かっている」
アレは霊じゃないからな。似て非なるものだ。
『魂は万物に宿る』
この国で、おそらく千年以上事実としてまかり通ってきた分、何らかの力を持つに至ったのかもしれない。
齢を重ねた物が、人間と同じ『念』を生み出すことがある。
作り手の影響か来歴によるものか分からないが、強い未練や積もり積もった執念などで、その姿を変えてしまうらしい……。
そういった意味では、直近の三件ともが手捏ねで造られた黒楽茶碗なのは合点がいく。
戦国の世では、貴人の前で作法を一つ間違えただけでお手打ちになるくらいだ。
職人たちも、文字通り命を削って創作したはずだ。
「……で? ヒントがあるんでしょう?」
亜純には前回も居場所を探してもらった。
彼女には人ならざるものの気配を感じ取れるといった特技がある。
「おそらくは三人。三人とも黒だ。土地勘があるとすれば、鹿児島か京都だと思う」
タロット占いの部屋になぜあるのか不思議だが、彼女は日本地図をテーブルの上に広げると、両手をかざした。
「あぁ……いるかも……三人って、二人と一人?」
「出会っていないならその通りだな」
「ふーん……うーん。ここに二人と……あとは……ここかなぁ……」
亜純が最初に中指でトントンと叩いたのは鹿児島県だった。
「やっぱ、そっちかぁ」
移動が大変だ。
関西なら新幹線で行けるのに、鹿児島となると大嫌いな飛行機一択だ。
「邪魔したな」
五万円が入った封筒をテーブルに置くと、亜純がひったくるように取って中を確認した。
「まいど!」
◇◇◇ ◇◇◇
まずは能村さんに確定の連絡だ。
路上に出て電話すると二コールで出た。
「はい、能村です。いかがでしたか?」
いつもならもっと丁寧に出るのだろうが、さすがにマナーなど言ってられないようだ。
「能村さん。どうやら決まりですね。通報は一両日待っていただけませんか? どのみち警察には見つけられないでしょうし」
「それはまぁ……そうですね。幸いリニューアル期間中で閉館しておりますので明日までお待ちします。ぜひ薮良さんにお願いしたいと思います。あの、それで……まさか傷が付くなんてことは……」
まあ、一番はそこだよな。
「それはなんとも。穏便に話をつけられれば大丈夫ですが保証はできません。」
「そう……ですか」
「それよりも何かあった時のために、防犯カメラの映像がしっかり残るようにしておいてください。上書きされてしまうと後々面倒ですからね」
「……はい」
そうと決まれば飛行機の予約だ。
短編のコンテスト向けに書いたものです。
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