風鈴の家
俺の地元には、風鈴の家と呼ばれる立ち入り禁止の廃墟があった。
小学三年生の夏休み、俺と幼馴染のOとKちゃんの三人でそこに入った。
荒れ放題の家をすぐに調べ尽くし、帰ろうかとなったとき。
Kちゃんがいなかった。
Oと探したら、Kちゃんは板張りの廊下の途中で突っ立ってた。声をかけても反応がない。
そのとき。
りん、って風鈴のような音がした。
音はOにも聞こえたようで、息を呑むのが分かった。音は俺たちの後ろから聞こえた。
何かが廊下を歩いてくる。
りん、ぎし。
りん。
音が止まった。
Oと一緒にゆっくり振り向く。
全身黄ばんだお札まみれの何かが立ってた。そいつが一歩踏み出すと、りん、と音がする。
俺たちはKちゃんを連れて弾かれたように駆け出した。
廊下の先は行き止まり。ぼろいドアのトイレだ。
Kちゃんを中に押し込み、続いてOに背中を押された俺が入る。
Oが入ろうとしたとき、その体が後ろから引っ張られた。俺は夢中でOに手を伸ばしたけれど、間に合わなかった。
ドアが乱暴に閉じられる。開けようとしてもびくともしない。
何度目かの体当たりでやっとドアは開いたが、そこには誰もいなかった。
もうどうしようもないと思い、家に走って帰った。
母さんに話したら、慌てた様子で近くの寺に連れていかれた。
俺とKちゃんだけで年寄りの坊さんに案内されたのは、狭い座敷だ。
「誰に呼ばれても襖を開けないように。返事もしないように」
そう言いつけられて閉じ込められる。暫くしたら、襖の向こうを誰かが歩く気配がした。
りん、とあの音がしたからあいつだとすぐ分かった。
「Y(俺の名前)、開けて」
俺の母さんそっくりの声だった。
俺は歯を食いしばった。
あいつは自分で襖を開けられないらしい。歩き出し、少ししてまた止まる。
「K、迎えに来たよ」
Kちゃんの兄さんの声だった。Kちゃんの口がゆっくり開くのを見て、俺はとっさにその口を手で塞いだ。
何度もそれを繰り返し、某さんが戻ってきた頃にはもう夜だった。迎えに来た親と帰ろうとしたとき。
「ねえ、Oは! Oとは一緒じゃなかったの!」
Oの母さんに肩を強く掴まれ、がくがく揺さぶられた。俺が何も答えられずにいると、Oの母さんはその場で崩れ落ちた。
あれからずっと、Oは見つかっていない。
ずっとぼんやりしたままのKちゃんは、夏休み中に引っ越してしまったからどうなったのかは不明だ。
今でも、風鈴の音を聞くとこの話を思い出す。




