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ブスブタブサイクの私は愛されなくても構いません  作者: 満原こもじ


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第5話:二人の令嬢

 ――――――――――数日後、アカデミーの裏庭にて。ナオミ視点。


 二人の令嬢に裏庭に呼び出された。

 ともに淑女科のデリア・タイラー男爵令嬢とコリーン・ワッツ男爵令嬢だ。

 私は文官科生なので、直接の面識はなかった。

 顔は知っているけど話すのは初めてだな。


「ナオミ様はブライアン・トレイワーヴァス公爵令息と婚約したと聞いています」

「はい、いかにも」


 デリア様は赤毛でやや吊り目、好奇心旺盛で気の強そうな印象。

 逆にコリーン様は薄い栗色の髪で、やや眠そうな目がおっとりさを感じさせる。

 二人とも小柄で可愛らしい令嬢だ。

 ブライアン様にピッタリではないかな。


「いいなあ!」

「よく言われますね」

「ナオミ様はブスでブタでブサイクではないですか」

「よく言われますね」


 いや、ブスだのブサイクだのって陰口を言われているのは知っているけど、ブスでブタでブサイクとフルセットで面と向かって言われたことは初めてかもしれないな。

 自覚はしているが。

 でもデリア様口は悪いけど悪意は感じない。


「……デリア、やめなよ」

「ごめんなさあい」

「べつに構いませんよ。何の御用でしたか?」


 コリーン様は思慮深そうだが、積極的な性格ではないのではないかな。

 デリア様のストッパー役かな?

 いいコンビ。

 

「ナオミ様はどうしてブライアン様の婚約者になれたのですか?」

「亡き公爵様からの指名です。商業上の思惑があったようなのですよ」


 私に期待されているのはそれのみだ。

 頑張らねば。


「おかしいではないですか」

「何がでしょう?」

「ナオミ様の御実家のサークル商会は、わたしもよく利用させていただいています」

「毎度ありがとうございます。今後も御贔屓に」

「しかしサークル商会は、平民からせいぜい下位貴族相手がメインの商売でしょう? トレイワーヴァス公爵家との関係が深いとは思えないのですよ」


 あれ?

 もっともな指摘だな。

 デリア様が鋭いのか、それともコリーン様の入れ知恵か。


「商売上の思惑があったとしても、もっと有力な商会と組むことを考えたんじゃないですか? ナオミ様がブライアン様の婚約者である必然性はないではありませんか」

「……」


 デリア様の言う通りだ。

 公爵様には別の思惑があった?

 私自身が実際に商売を行っている、ということが評価されたのかもしれないが……。

 

「……やはり私自身がおいしそうに見えたというのが原因なのでしょうか?」

「えっ?」

「上質の脂に満ちた肉質ですので」

「あはははは!」

「デリア、お下品よ」

「ごめんなさあい」

「婚約成立当時、公爵様のお身体は既にかなり悪かったのですよ。だからすぐ呼べる私が選ばれたのかもしれません。となると偶然の面が大きいですかね」


 ただ違和感は残るな。

 気付かせてくれたデリア様とコリーン様には感謝だ。


「わたしとコリーン様はブライアン様の大ファンなのです」

「さようでしたか。我が婚約者ながら、ブライアン様は素敵ですものね」

「でもトレイワーヴァス公爵家の嫡男でいらっしゃいますでしょう? わたし達にとっては雲の上の人という認識でした」

「ははあ?」

「ところが婚約者となったナオミ様は平民で、かつブスブタブサイクではないですか」

「間違いのない認識ですね」


 コリーン様もコクコク頷いているしね。


「つまり平民でブスブタブサイクの私がトレイワーヴァス公爵家の嫡男ブライアン様の婚約者なんておかしいだろう。辞退しろということですか?」

「いえ、公爵家の決めた婚約に意見できるほどわたし達は偉くないです。小市民ですから」

「小市民って、お二人は貴族の令嬢ですよね?」


 小市民というのは本来私のような平民に相応しい言葉だ。

 でも形だけとはいえ私はブライアン様の婚約者だしな?

 小市民を自認していてはいけないのか。

 意識を変えねば。

 今日は気付きがあるなあ。

 デリア様とコリーン様には素直に感謝だ。


「平民のナオミ様でしたら、わたし達の言うことも聞いてくれるかと思いまして」

「貴族の特権を行使して平民に言うことを聞かせると。とんだ小市民ですね」

「まあそう言わずに」

「デリア様はメンタルが強いですね」


 値切り交渉みたいで面白いな。

 私はこういうやり取りが好きだ。


「結局のところ、デリア様とコリーン様の要求は何ですか? ハッキリ仰ってくれるとよろしいのですけれど」


 腹の探り合いもいいが、休み時間は有限だから。

 ぐずぐずしていると次の講義が始まってしまう。


「一度ブライアン様とお喋りしたいのです。どうにかならないかしら?」

「お喋り、ですか?」

「はい。わたし達はブライアン様の大ファンですから。でもこういったことは婚約者であるナオミ様の許可が必要でしょう?」

「なるほど」


 許可が必要と言いながら、私に段取りを決めさせるということのようだ。

 本来わたしにメリットがないので、対価は何か問うべき案件ではある。

 が、サークル商会のお得意さんのようだしな?

 だからわざわざサークル商会の話を挟んだのだとしたら、随分と小知恵が回るじゃないか。

 嫌いじゃないぞ。


 そしてお二人は知らないだろうが、私にはブライアン様の子を生んでくれる令嬢を用意したいという思いがある。

 デリア様とコリーン様はタイプがちょっと違うが、お二人とも小柄でとても可愛らしい。

 ブライアン様の女性のタイプは知らないけれども、どちらかは気に入るんじゃないかな?

 お二人の要求を受けてやる価値は十分にあると見た。


「デリア様、コリーン様。お二人に質問させていただいてよろしいですか?」

「「はい」」

「お二人は総領娘で家を継がなければいけない、などということはないですか?」

「ないです」「ありません」


 いいな。

 ではもしブライアン様が望めば、側室ないし愛人としてもらい受けることは可能だろう。


「それは重要な質問なのですか?」

「はい。ひょっとしてブライアン様がデリア様やコリーン様を気に入るとも限りませんから」

「「えっ?」」


 驚いてるな。

 ブライアン様の婚約者である私から出る話としては変だから。

 でも私はデリア様やコリーン様ならばいいと思う。

 私に敵対意識を持つ令嬢だとやりにくくなってしまうが、お二人ならそういうことはなさそうだ。


「私とサークル商会は亡き公爵様に、トレイワーヴァス公爵家の将来を託されました。ですからわたくしがブライアン様の婚約者、将来の正妻の地位を外れることはないと思われます」


 外れるなら私だってトレイワーヴァス公爵家に義理を感じることはないのだけれどね。

 ブライアン様は真面目な人だから、おそらく公爵様の言いつけを守るだろう。

 それは私も同様だ。


「しかし私はデリア様の仰る通りブスブタブサイクですので、女としてブライアン様に気に入られているとは毛頭考えておりません」

「だからわたし達がブライアン様の側に侍ることができるかもと?」

「さようです」

「……ナオミ様はよろしいのですか? それで」

「もちろんです」


 そりゃあ私の女としての部分が寂しいと思ってないと言えばウソになる。

 ただ私は公爵様に頼られたのだ。

 ブライアン様の代でトレイワーヴァス公爵家が途絶えるなんてことがあってはならない。

 デリア様やコリーン様がブライアン様の子を孕んでくれるのなら万々歳だ。


「……素晴らしい覚悟です。ナオミ様がブライアン様の婚約者に選ばれた理由がわかった気がします」

「恐縮です。デリア様とコリーン様は、今のを聞いてもブライアン様と会いたい話したいとお思いになりますか?」

「「もちろんです」」


 いいだろう。


「それでは後日ブライアン様を含めたお茶会を開催いたしますので、連絡させていただきます。定期考査明けで、期末休業期間に入るまでのどこかになります」

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