第2話:忠実なる家令セバスの思い
……っていう感じなんだよ。
ブスブタブサイク平民にして貴公子ブライアン・トレイワーヴァス公爵令息の婚約者である、私ナオミ・サークルの事情を大雑把に説明すれば。
さて、パーティーの続き。
「あーら、ナオミ様お一人なの?」
かかった!
あの奇麗に着飾っているのはシェリル・カルデコット伯爵令嬢だ。
ふむふむ、私の商売の方でも参考になる装いだなあ。
シェリル様はブライアン様の婚約者になろうと狙ってたはずだから、私に絡んでくると思ってたのだ。
しめしめ。
シェリル様は目立つデブの私のことをある程度知っているだろう。
しかし貴族意識の高い方であるが故に、今まではどこかで会っても平民の私には話しかけてこなかった。
ブライアン様の婚約者になったおかげだな。
こういう令嬢と話すきっかけを持てるのは。
……シェリル様は陽気でアクティブな令嬢だから人脈は広い。
知己になれればメリットは大きい。
失敗できないな。
釣りの心得、十分エサを食わせてから合わせるべし。
「これはシェリル様。御機嫌よう」
「聞いたわよ。ブライアン・トレイワーヴァス公爵令息と婚約したのでしょう? 羨ましいわ」
「ですよね。私も話をいただいた時ビックリして。どなたかと勘違いしてるのではないかと、ナオミ・サークルと似た名前を貴族名鑑で探しちゃいましたよ」
「おほほほほ!」
よし、シェリル様上機嫌。
掴みはオーケーだ。
「ところでどうしてトレイワーヴァス公爵家なんて名門からお話があったの? ブライアン様は守ってあげたくなるような可愛らしい貴公子でしょう? わたくし含めて誰もが萌えるって言ってたのよ?」
「ですよね。ブライアン様が仰ってましたが、令嬢方の目が皆ハンターみたいで怖いんだそうですよ」
「えっ……それで無欲なナオミ様のところへ?」
「私が無欲というのはどうですかね。まあ怖いというのは冗談として、亡くなった公爵様には商業的な思惑があったのですよ。トレイワーヴァス公爵家は商売に強くないですから」
これは納得できる理由だろ。
領主貴族当主は全員が経営者だから、令嬢だってその苦労は理解しているものだ。
長期的に斜陽でお金がどうこうなんてことまで話さなくていい。
「ふうん。でも公爵家なのに商家から婚約者をもらうなんて、公爵様も思いきったものね」
「商業的な思惑というのは表向きの理由でして」
「えっ、表向きの理由?」
「実は公爵様はおいしそうに見える私に我慢できなくなり、ブライアン様の婚約者にしたのではないかともっぱらの噂です」
「おほほほほ!」
うまそうとはよく言われることだ。
もちろん男女的なことではなくて肉質についてだが。
いい感じに脂が乗っていそうと。
「おいしそうというのはともかく、ナオミ様の肌艶はとても素敵ね」
「お気付きになりましたか。これサークル商会から今度売り出す画期的な乳液を使っていまして」
「えっ? 詳しく!」
「残念ながら数が揃わないので宣伝はいたしませんが、三日後の朝から販売する予定です。シェリル様の分を取り置いておきましょうか?」
「お願い!」
「わかりました。私もシェリル様のように、違いに気付いていただける方に買ってもらいたいですからね」
シェリル様嬉しそう。
大量生産できない商品も使いようだ。
シェリル様は今後サークル商会の贔屓になってくれるだろう。
「ナオミ様って面白いのね。知らなかったわ」
「恐れ入ります」
「今度お茶会に招待していいかしら? わたくしの友人も美容には興味があるのよ」
「もちろん喜んで。メイク関連の話題と試供品をたくさん用意してまいりますよ」
「わあ、楽しみですわ。ああ、友人達がいます。あちらで話しましょう」
よしよし、シェリル様と結構話せたのは大きな釣果だ。
友人の令嬢方を紹介してもらえば入れ食いの気配。
目的を持ってパーティーに来るのは楽しいな。
今日の私は一流のアングラーだ。
あれっ? ブライアン様がこっちを見てるじゃないか。
気の強いシェリル様がいるから、トラブルになるんじゃないかと心配してたのかな?
大丈夫です。
私、失敗しないので。
トレイワーヴァス公爵家の立て直しなどという大きな案件を任された私。
意気に感じているのだ。
亡き公爵様の悲願は必ず叶えてみせる。
だからブライアン様も早くいい仲の令嬢を見つけてください。
お世継ぎは大事ですからね。
◇
――――――――――その頃。トレイワーヴァス公爵家家令セバスチャン・ルゴール視点。
旦那様の見込んだナオミ・サークル嬢の手腕はすごいのです。
打つ手が的確で、トレイワーヴァス公爵家王都邸内の使用人達の意識がびしりと引き締まりました。
これでこそ公爵家に仕える者だと、感動いたしました。
旦那様も大変な喜びようで。
旦那様は涙を流しながら仰っていました。
安心して逝くことができる。
ブライアンとナオミ嬢の子供の顔を見ることができないことだけが残念だと。
しかし……。
『ブライアン様は私と離れて行動してください』
『えっ? う、うん』
どうもナオミ様は何かを勘違いしているように思われます。
お坊ちゃまは自慢の婚約者としてナオミ様を紹介しまくると、とても張り切っておられたのです。
今日のパーティーは若い令息令嬢の集まる、出会いと語らいの集いでしたから。
しかしナオミ様にピシャリとそう言われてしまって。
思い返せば最初の顔合わせの日もナオミ様はこう仰っていました。
『私はブスでブタでブサイクで、到底輝かしい貴公子であるブライアン様の婚約者なんて務まらないと思います。しかし公爵様の御心はよくわかりました。謹んでこの婚約話、承諾させていただきます』
……つまりあれは単純にお坊ちゃまとの婚約を承諾したというわけではない?
ブサイクでお坊ちゃまの婚約者なんか務まらないけれど、トレイワーヴァス公爵家の立て直しだけは全力でやるという決意表明だったのでは?
ナオミ様しょっちゅうお坊ちゃまに言ってますものね。
私に遠慮することは全然ないから、意中の令嬢がいればアタックしなさいと。
旦那様もお坊ちゃまも一人っ子ですから、トレイワーヴァス公爵家の血が絶えることを心配しての発言だと思っていました。
愛人を侍らせろなんてなかなか言えないと思います。
しかしひょっとしてナオミ様、ブライアン様と男女の関係になる気がない?
御自身のブサイクを気にして?
いやいや、ブライアン様はナオミ様のように快活でふくよかで健康的な女性は好きですよ。
痩せていて目だけギラギラさせて、あわよくば婚約者になろうなんて令嬢ばかり見ていますから。
やり手で話が面白くてガツガツしていないナオミ様は、使用人の目から見ても尊敬できますよ。
実際に実力を見せつけられているということもありますが。
太った女性を好むのは、トレイワーヴァス公爵家の血ですかねえ?
昔に亡くなった奥様の手前、口に出されたことはありませんが、旦那様もそうでしたよ。
身体の弱い者が多いだけに、健康的でパワフルな女性を血が求めるのではないかと思います。
包容力のある女性は安心できるという言い方もできますね。
ああ、ナオミ様。
あなたは聡明なのに何故、お坊ちゃまの恋心に気付かないのですか。
お坊ちゃまはシャイなので、令嬢と目を合わせたり話したりするのが苦手なのです。
あなたを女性として見ていないわけではないのです。
……いえ、ヤキモキするのは違いますね。
時間が解決することなのでしょう。
今日のパーティーはいかがでしたか?
少しは進展がありましたか?
忠実なるセバスはお二人を心から応援しておりますよ。




